矢駄沢
遡行図

プロフィール
 神ノ川流域の矢駄沢は、大小30程の滝が次々に現れる水量の多い変化に富んだ沢だ。沢歩きというよりは沢登りになってしまうだろう。北向きの斜面なので逆光の中を登ることになるが、水勢の強い大滝の落ち口では水飛沫が逆光の中に白く飛散する美しい光景を見ることができる。たいがいの滝は初心者でも登れるが、遡行時間が長いので表丹沢の初心者向きの沢を登ってから挑戦したい。林道が交差している中間地点で遡行を打ち切れば、短時間の沢歩きを楽しむこともできる。F10を過ぎるとじきに水は涸れ、単調なゴーロの登りになる。F10を登ってから沢を下り、林道を経て矢駄沢尾根を下る方法もあるだろう。
ポイントガイド
 F3の登攀が一番難しい。登れそうに無ければ手前右の涸沢を上がって左岸を巻く。ここのトラバースは傾斜があり高度もあるのでロープを出した方が良い。落ち口の上へトラバースできれば沢への降り口は難しくない。F5が登れなければ、右俣大堰堤の左の取り付け階段を登ってから左俣(矢駄沢)の左岸を低くトラバースして、落ち口の少し上へ出る。踏み跡は明瞭でない。F9は左の小沢から巻くことができる。F10は難しくない。二俣2の上からの登りが単調で結構きつい。
アクセス
 矢駄沢は、車の利用が便利だ。津久井町側から来た場合は413号線の両国橋手前400mを左折し、道なりに進んでT字路を右折すれば神ノ川ヒュッテまで立派な一本道だ。ヒュッテの手前、日陰沢橋手前右の駐車スペースに車を止められる。

入渓点
 日蔭沢橋を渡り、広河原方面へ林道ゲートを越えて歩くこと約10分で矢駄沢橋(やたざわ橋)に出る。橋の手前右のガードレールを越えて入渓し左岸を進む。踏み跡は明瞭ではないが分かる。
コースガイド
 入渓点〜林道
 矢駄沢橋から上流すぐのところに堰堤が見える。この堰堤を含め4基の堰堤をいずれも右から小さく巻く。入渓者が少ないせいか踏み跡が明瞭でない。二つ目の堰堤で右から高い滝を落とす沢が出合う。四つ目の堰堤を越えて進むと、深い釜を持った1mほどの滝が現れゴルジュになる。左から滝を越えて薄暗いゴルジュに入る。ゴルジュは4mのトイ状滝、その上は3mのチョックストン滝になる。4m滝は簡単に越えられるが3mのCSは頭を使う。CSの右を水が勢い良く落ち、CS左のスラブの樋を少量の水が滑り落ちている。CS右の登攀はホールドがありそうだがずぶ濡れになる。CS左はスラブで滑りやすい。ここは、スラブの左上から下がる残置ロープを利用して、斜め上に走るクラックにスタンスを求めて登る。このロープがないと初心者はこの滝を越えるのに苦労するだろう。
 この滝の上は左側が30mほどの切り立った崖になり深い釜のある2m滝、3mのトイ状滝と続く。これらの滝はいずれも滝の右側に残された工事用のワイヤーロープをつかんで登ることができる。次々と小滝が現れるこの辺りは、水と戯れるのに絶好の場所だ。

 釜のある2m滝                      F1‐12m 左を巻く

連続する2m前後の滝を水が煌きながら落下する。やがて前方に10mほどの大きな堰堤が見えてくる。ここは、堰堤を少し戻った右の傾斜の緩い斜面を登る。すると落ち口に向けてトラバースする踏み跡がある。堰堤の上で水のある沢が出合い、5分ほどゴーロを歩くとF1、12m、直瀑の滝が行く手を塞ぐ。まっすぐに水を落とす美しい滝だ。F1は垂直で手掛かりの無い滝なので攀じ登ることはできない。滝を少し戻り左から入る涸沢をF1の落ち口ほどに登ってからトラバースの踏み跡を探して歩けば自然に滝上に降りられる。この上にもF1と良く似た直瀑の滝F2がある。こちらはやや低く10mほどの滝だ。この滝は左の岩の裏側を登れば簡単に巻くことができる。

 F2の上はゴルジュとなり2mのゴロタの滝が二つ続いた先にはF3、二段10m(6m+4m)の大滝が隠れている。天気が良く滝上から陽が射していれば霧状の粒子が逆光の中に輝いて見えるだろう。上段を落ちた滝の水飛沫が陽光に乱反射して白く見えるのだ。矢駄沢ではこの滝を越えるのが最も難しい。下段は滝の左右の端を登りたいところだが、ホールドが乏しく難しい。ここは水勢の最も強い流れの中にホールドを探って登る。下段の落ち口の上の一抱え以上あるスラブの盛り上がりを左へ越えるところが難しい。落ち口の少し下、流れの中に良いスタンスがあるので利用する。左に移動したら上段の滝下に入り水に打たれながら滝左へ移動する。滝左端からホールドを拾って行けば無理なく上段の4m滝を越えられる。F3のこの登攀は初心者には難しい。特に雨後の間もない日など、水量の多いときは難しいだろう。難しいと感じたら躊躇無く巻き道を選んでほしい。しかし、この巻き道は踏み跡が明瞭でなく傾斜もあるので慎重に行きたい。巻き道は左岸だ。滝右を少し戻るとルンゼが落ちている。巻き道はここを入る。     F3二段10m

 巻き道に入る前にハーネスを点検して、エイト環をビレイループに取り付ける。1013mのお助けヒモを使えるように携帯する。さらに足元が悪い土の斜面を登るので確保用のドライバーを用意する。ルンゼをF3の落ち口よりも高めに(15mほど)登って左へトラバースする。立ち木の幹や根をホールドにするがホールドが乏しい箇所はドライバーを斜面に差し込んで確保する。トラバースは大きな岩の少し下に沿って行くが踏み跡は明瞭でない。高巻きをする人は少ないのだろう。トラバースの足元はやや傾斜が強く高度もあるのでお助けヒモやロープを使用する。木の根元にヒモを回し両端を八の字結びにしてからロープを頼りに下降気味にトラバースする。要所にある立ち木に3回ほどロープを掛け直して落ち口上の方向、大岩の下に向けてトラバースする。ロープを使わないときは必ず確保用のドライバーを差し込みながら移動する。大岩の下を抜けると小さな崩壊部が沢に落ちているのでここから沢へ入る。沢の下降はロープ無しでできる。途中、大岩の下付近はF3へ落石しそうな岩が落ちているので注意して通過する。F3を直登している人がいる場合は必ずその通過を待とう。
 F3の上は3mの釜のある滝だ。右から回って二条に分かれた水流の真ん中を登る。水流右はスラブで難しい。この先で沢は右に折れる。ここで左から細い流れが高い滝になって出合う。本流は長さ15m、高さ8mほどのナメ滝になる。下段は流れの中を、上段は滝左を登る。この先でF4、6mの滝が勢い良く水を落としている。ここは滝右の乾いた岩を登る。節理が逆層だが乾いて段々になっているので難しくない。この6m滝はナメ滝の上段を左から登り、その先をそのまま登ってしまうと見逃してしまうだろう。F4のすぐ先で5mの滝になる。ここには、沢に不似合いな工事用の青い金網の塊が引っ掛かっていて見苦しい。この5m滝を越えると開けたゴーロになる。明るいゴーロを勢い良く水流が迸っている。ゴーロを歩くとじきに5mゴロタ滝になる。ここは、矢駄沢の水が沢幅一杯に広がって落ちる。豊富な水が岩々の間を分岐して滑り、陽光を美しく反射して見せる。この先で沢は二俣になる。右俣は涸沢ですぐ真新しい大堰堤だ。最近の工事なのだろう。古いガイドブックにはこの堰堤が示されていないので注意する必要がある。本流は左へ折れてF5、6m、3mの二段滝となる。この滝は釜を持っているが伐採された倒木が被っている。美しい滝だと思うが残念だ。倒木を避けて釜右から滝に取り付き、流れの右の窪とクラック伝いに滝上に出る。少し濡れる。この滝が登れないと判断したら、右から巻く。右俣の大堰堤下に戻り、大堰堤の左の取り付け階段を登ってから少し下がり、左俣のF5の落ち口へ向けて低くトラバースすると、わずかだが踏み跡がある。踏み跡に入ればロープ無しで沢へ下降できる。


  ナメ滝長さ15m


 F5二段滝の上は開けたゴーロになる。急傾斜の沢を陽の光を照り返しながら勢い良く水が流れていく。5分ほどゴーロを遡ると左側から涸沢が入る。ここで本流は右に大きくカーブする。その先のF6、幅の広い10m滝が、凹凸のある斜面に美しい水の煌きを見せている。10m滝は傾斜が緩いので簡単に登れる。この先にはF7、4m、3mの二段滝が現れる。ここでも上段の滝の水飛沫が逆光に白く輝いて眩しい。ここは傾斜の緩い右側を登る。F7の上のゴロタ滝、4mのすだれ状滝、3mの末広がりの滝を越えて行くと9mの高い堰堤になる。堰堤は右の取り付け梯子を登る。この上で沢は二俣になる。右俣は堰堤の続く大笄沢(おおこうげさわ)、左が本流矢駄沢だ。矢駄沢の上流には二つの堰堤が見えその上に林道の新しい橋が見える。二俣から四つほど堰堤を登ったあと新道の橋を潜り旧道の橋へ出る。ここで遡行を終了するときには旧道を左に折れて下る。5分ほど歩くと矢駄尾根の分岐がある。ここを左折して矢駄尾根を下ると25分で下の林道へ出る。そこから矢駄沢の入渓点を経て10分で神ノ川ヒュッテ前に出る。

 
  
F6‐10m                      F9‐12m

林道〜大笄
(おおこうげ) 
 旧道の橋を潜るとすぐ、右側に大岩が載った4m、3mの二段滝だ。どこでも登れそうだが左を登る。難しいところはない。その先、段々の流れの上で左から10mの滝を落とす沢が出合う。本流は大岩が水流を二分して落とすF8、5m滝だ。ここは左側が難しそうなので、滝右端の窪を登る。途中ホールドを探すところがあるが問題になるところはない。この上はすぐ4mナメ滝で、続いて傾斜のあるナメになっている。4mナメ滝は左から登り、ナメはそのまま左のスラブを登るが、滑りやすいので注意したい。ホールドをしっかりつかんでバランスを崩さないように気を付けよう。前方に大きな滝が見えるようになる。合計3段になったF9、12m滝だ。4m、5mそして3mぐらいだろう。滝の左に勢い良く水を落としている。陽が射していれば、ここでも逆光の中に輝く滝とその水飛沫を見ることができる。滝左の水流沿いは水勢に抗して登らなければならない。全身濡れるだろう。滝右にわずかに水を落とす水流沿いはホールドを確保できそうだが、傾斜が結構きつい。ここは無理せず巻き道を取ろう。滝左を少し戻って右岸の小さな沢を登る。この沢のチョックストンを越えたらF9の落ち口へトラバースする。しっかりした踏み跡があり安全に沢へ降りられる。この巻き道に難しいところはない。
 F9の上はゴーロになる。3分ほど歩くと4m滝となりその先はゴルジュになっている。4m滝の奥には大きな滝F10が見えている。4m滝は特に難しいところはなく快適に登れる。奥のF10は二段になっており、5m、4mぐらいだ。どちらも段々になっているのでどこからでも登れるだろう。簡単なところを選んで登りたい。この上の3m、2m、1mのゴロタ滝を越えて行くと右から水のある沢が出合う。右俣は結構水量が多く二俣とみなしても良い。左俣の方が沢床が低く本流であることを示している。この上で水は少なくなり、沢はガレ気味になる。この二俣1から5分ほど歩くと右側に水を滴らせる黒い岩が見えてくる。じきに水は涸れ、沢は不安定な岩が見られるようになる。二俣1から10分少しで右から大きな涸れ沢が出合う二俣2になる。
 詰め
 二俣2の左俣、本流は大きな岩がゴロゴロした涸滝になる。それぞれ4m、4m、5mほどあるだろう。涸滝は難しい登りはないが越えるのに結構体力を使う。さらに涸れた沢を5分ぐらい歩くと左に支尾根が見えるようになる。これは矢駄尾根ではないので本流を忠実に登る。さらに歩くと3mぐらいのハングした涸滝が出てくる。ここは難しそうなので、涸滝前に出会う右のルンゼを登って小さく巻く。この先で沢はルンゼ状になるが足元は堅く沢幅はまだ広い。傾斜の緩い5m涸滝、4m涸滝はどこでも登れる。二俣2から30ほど急な沢を詰めると沢は小さな二俣3になるが、沢床の低い右俣を登る。右俣すぐに一枚岩1.5mの涸滝を登る。この辺りから沢の傾斜はさらに急になり登りが苦しくなる。はるか上の方で鹿が高い声で威嚇する。静かな沢に鹿が石を落とす乾いた音が聞こえる。沢を忠実に詰めて行くと徐々に土が多くなる。右の支尾根が近くに現れるようになる。前方が稜線に近いと感じ、沢を詰めるのがいよいよ苦しくなってきたら右の支尾根に逃げる。支尾根には笹竹が茂っているが、丈は膝下ぐらいで歩くのに支障はない。しかし、まだ傾斜があるのでジグザグに歩いて高度を稼ぐ。10分ほど苦しく笹薮を登ると傾斜がゆるくなる。じきに登山道に出る。ここが大笄(おおこうげ)だ。登山道を左に歩くと数分で熊笹の峰、矢駄尾根の分岐になる。ベンチがあり西丹沢、東沢が展望できる。ここから檜洞丸まで40分とある。
200410月上旬)

下山ルート
 分岐から急で足元の悪い矢駄尾根を下れば約50分で中間の林道に出る。ここからは比較的整備されていて歩きやすい矢駄尾根を下ること25分で下の林道に出る。舗装された林道を左に約10分歩けば矢駄沢橋を経て神ノ川ヒュッテ近くの駐車場に着く。
 矢駄尾根を下るルート 1時間30
データ
所要時間    4時間(矢駄沢橋〜大笄)
地図       中川(1:2.5万)
適期       5月〜11
・コースタイム
入渓点(40分)F1(10分)F3(20分)F3上(20分)二俣(30分)大笄沢出合二俣(5分)F8(30分)二俣1(10分)二俣2(30分)二俣3(45分)登山道、大笄(2分)矢駄尾根分岐

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