2015.11.13 挽歌のような(その2)

 尾白川の遡行が中止になったその前、8月に、只見川大白沢の「遡行」を試みた。初日の行程が二時間、二日目の行程が片道二時間半という小さな遡行だった。沢を遡行するのに最初から完登を目指さず、途中で引き返す予定の計画だった。それでも自分としてはうまく歩けるのか、心配があった。沢を歩くのであれば、完登したいというのが沢を歩く者の気持ちである。が、最初から「釣りと宴会」の沢として計画した。同行してくれた大橋さん、山﨑さんには申し訳ない。存分に大白沢を歩きたかったのではないかと思う。
 大白沢では、大橋さんが山女魚と岩魚を軽く釣り上げてくれたこと。広い河原に久々に焚き火を囲めたこと、魚止沢出合の先にある白岩のゴルジュを楽しみながら通過できたことなどなど、天候に恵まれて楽しい遡行ができた。物足りなかったとは思うが、大橋さん、山﨑さんも楽しんでくれたようでうれしかった。
 白岩の美しいゴルジュを抜けた先に無名の左岸支流があった。台倉山の稜線に突き上げるこの沢の中流部に白岩の瀑流帯が見えた。水は多くないが、連瀑に迸る水の流れが遠目にも輝いて見える。落差50mはあると思われる急峻な瀑布の連なりを、いつか越えて稜線へ達したいとなぜか思った。
 この沢は、台倉山の南のピークに直接突き上げるので、帰路は登山道にとれるはずだ。地理院の地形図を見ると1100mに滝記号がある。ここが出合いから見えた瀑流帯だろう。出合から稜線までの標高差は750m、出合から瀑流帯までは150mだ。一時間かからずにこの瀑流帯までは達するはずだ。両岸は岩壁なので高巻きはたぶん難しいだろう。もしこの連瀑帯が越えられなければ、来たルートを戻ることになる。



1100m付近の連瀑帯 登攀できるのか 両岸は急峻な岩壁
台倉山へ延びる大白沢の左岸支沢 急峻な連瀑帯が見える




 10月の遡行は、両神山の金山沢右俣にした。昨年の秋、天候が悪く中止したルートである。今年も天気予報にやきもきしたが、何とか晴れた。各所から集合のため、前泊することにした。鹿沼からも三島からも車で三時間半は掛かる。最近にしては、めずらしく五人が集まった。その中には、ゲストのタケさんがいる。しばらくぶりの再会だ。
 キャンプ場の河原に久々の大人数で焚き火を囲んだ。次々に話が盛り上がって、長いこと炎が上がった。
 金山沢右俣は、水の少ない沢で秋に登るのにふさわしい。次々にゆるやかなナメ滝が現れる。渓全体が滝といっても良い沢だった。1300m付近から続くナメの連瀑では、滑るまいと真剣になり時間を忘れた。5人が休める平坦地もなく上へ上へと追いやられてしまう。
 長いナメ滝の先で水が涸れ、本格的な詰めに入る。梵天尾根までの苦しい詰めは、この山行が改めて沢登りであることを知らされるのだった。長い急峻なゴーロ、迫ってくる岩場、ヤブのない明るいブナ林の急斜面。喘ぎながら登ってようやく稜線に出た。岩稜帯の間隙を縫って延びるこの詰めのルートは、絶妙だった。苦しいながら、詰めもやはり沢の面白さのひとつである。

 仲間に呼びかけて実現した今年の遡行はわずかだった。それでも、歩くほどに次の課題が現れる。体力がなければ、登山や遡行をやめればいい。それがまともな回答だろう。だが、なかなかそう思い切れないのが凡人である。歳をとり体力が衰えても、登山の思いは益々つのる。だが、繰り言を言っても始まらない。登山というのは、「行ってなんぼ」のものだからだ。
 Tさんと約束をした南ア早川尾根の縦走は、もうTさんは忘れたかもしれない。だが、この夢はまだまだ射程内だ。栗沢山からは甲斐駒摩利支天の大迫力をこの眼で見たい。アサヨ峰からは、峻谷野呂川から立ち上がる北岳の雄姿を仰ぎたいものである。
 ただ、Yoさんと交わした沢で再会する約束は、この秋、永遠に果たせないことになってしまった。




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