ヤチキ沢 南アルプス濁川
2015.09.20

楢原、高橋(ラバーソール)
タカネビランジ もう最後の花か










遡行図



参考情報
「日々のぜいぜい」 2011.6.5 濁川(神宮川)-ヤチキ沢


ヤチキ沢遡行の後の濁川 大水で河原が荒れている 白い砂州にテントを張った 大水でできた新しい砂州 風のない広い河原に焚き火の煙が漂う


コースタイム
ゲート前10:44-ヤチキ沢出合10:541100m11:501200m右岸枝沢出合12:371380m源頭13:36531520m北東尾根14:461240m分岐15:24-ゲート前16:24


ルート図




 濁川の支流ヤチキ沢は、遡行時間の短い沢のようだ。ネットの情報にもいくつか遡行記録が載っている。最近「うかつにも」胸の骨を折ってしまい、山へ行けないでストレスの溜まっていたガクさんとこの小さな沢を歩くことにした。痛みは治まっているが、完治している訳ではないので、様子を見ながらの山行だ。
 ヤチキ沢は濁川(神宮川)の支流で、車で行けばアプローチも短い。病み上がりの二人にとっては、格好の対象と思われた。ただ、ヤチキ沢は遠い。それだけで帰ってくるのはもったいない、という訳で下山後に濁川の河原で星空宴会を楽しみ、次の日の朝に帰路につくという贅沢な計画を立てた。

 計画は確かに万全だった。計画は天気予報を見て二日前に決めたので、天気も問題が無かった。全てが万事うまくいっているときは、思いもかけない所から水が漏れる。雲の間から青空が覗いている。早朝、いつものように富士山の北の有料道路を快適に飛ばしていた。すると、突然「中央高速事故・甲府昭和ICから双葉SA通行止め」との電光掲示板が眼に入る。
 集合場所の韮崎駅の手前が通行止めだ。「まずい。どうしたらよいだろう。」いろいろ思案したが、あいにく五連休の初めだ。どこを迂回しても混雑するだろうとあきらめた。韮崎駅に着いたのは、集合時間に一時間も遅れた9時半だった。ガクさんには申し訳ない。
 濁川の林道ゲート前を出発したのは1040分とかなり遅くなってしまった。このところ日没が早くなったので、帰りが心配だが仕方ない。林道のゲートを越えて三つ目の右岸支流がヤチキ沢だ。思いのほか水量は多い。三日前の低気圧通過によってかなりの雨が降ったようだ。濁川の両岸の草もなぎ倒されていた。

 ヤチキ沢は、日向山の北斜面を流れる急峻な沢だ。濁川(神宮川)への出合から源頭までは、標高差500mになる。地形図で流路を見ると少し複雑で分かりにくい。今度の遡行の記録と合わせて考えると、1100mで右岸支流がガレで出合う。さらに1200mで8mほどの滝で右岸支流が落ち合う。源頭は1380mの湧き水である。急な斜面に三ヶ所ほど水の湧き出る箇所があり、これが源頭だと察せられた。源頭のあたりからは日向山の頂上方面へは急な斜面になる。日向山の北東尾根に出るには、1370m前後の等高線上をトラバースする踏み跡を辿るのが楽だ。薄いがしっかり踏まれている。けもの道を遡行者が歩いた結果だと思われた。
 ヤチキ沢は、出合からその源頭までが一つの滝でできていると言っても良いような沢である。ほとんど平らな個所のない、水の流れる広めのルンゼを詰めているような感じの沢である。出合からは、三段12m、12m、10m、5m、4m4mなどと立て続けに滝が続く。どの滝も傾斜が緩いので登れるが、岩が脆いので気が抜けない。「苔がぬめる」との情報も有ったが、今回は、そのような感じは受けなかった。ラバーソールのフリクションは良く効いた。三日前の出水によって苔が洗われたためかもしれない。
 切り立つ両岸はどこも崩壊を始めており、崩れた岩石を多量に沢に落としている。いつ落石があってもおかしくない様子だ。急いで駆け抜けたいような両岸もあるが、足元不確かな急な沢ではそうもいかない。
 1150mの辺りで現れる7m滝の上流からは沢床に岩盤が露出して、ナメ、ナメ滝そしてトイ状滝が源頭に及ぶまで、もういいと思うほどに続く。登攀するには難しい滝もあるが、谷を見る目があれば、たいがいはそう難しくなく高巻くことができる。1170m付近の10m滝は左岸を巻いたが、その上にも緩いスラブが続いていた。微妙な勾配の滝なので足を滑らせないように注意が必要だ。このスラブで開けた南面を仰ぐと、樹間に八ヶ岳の山々が見えた。
 源頭近くの大きな滝、三段12mの上段は左岸を巻いたが、落ち口へのトラバースでロープを引いた。ロープを出したのはここだけだった。



出合から滝が見える 三段12m滝 最初の滝

続いて12m滝 手にする水は冷たい 4m滝 両岸が崩れている

岩の詰まった急な沢を歩く 1100m付近 急な沢が続く 右岸は大きなガレ


スラブはフリクションが効いた ありがたい
7m滝 登るのは難しいと判断 左岸を回り込んで巻いた


5mトイ状滝 傾斜があり濡れるので苦戦
7m滝の上からは沢床が岩盤になる


スラブ10m滝上にもさらに勾配のあるスラブが続く ブッシュをつかみながら上がる
大きなスラブ滝10m 右から巻いた 難しくない


スラブの滝の上から見える八ヶ岳
ボサの被る沢を5分ほど登ると大きな滝になる


5m滝を登るガクさん
垂直な10m滝 登れる気がしない 右手の岩を回り込んで高巻いた


源頭 流れの先端で水が湧いている 沢登りはここで終了 1380m付近
三段12m滝 水流沿いを登った 最上段はブッシュを頼りに右から登り、落ち口へ向けてトラバース ここだけロープを出した


 ヤチキ沢の核心はどこだろうと考えてみると。おそらくそれは、詰めの後に歩いた山腹の風景であり北東尾根の様子だろうと思う。人の手の入らない原生の森の姿がそこにある。
 山腹の樹木はどれも細めだ。急斜面のせいで、太い幹になるまで育たないのだろうか。背の低い下草のお陰で遠くまで見通しが効く。日が差せば、地面に明るさが差す。陽の光が木の葉の隙間をついて苔の斜面を明るく照らす。見通しの良い明るい広葉樹の森が広がっているのだった。何とも言えない穏やかな風景だ。
 一方、北東尾根はツガやブナの混じる森林だ。1500m付近の広い尾根は、低い笹が一面に広がる見通しの良い疎林になっている。やはり太い幹は少ない。日が差せば地面に日が届く明るい場所だ。だが、尾根を下るにつれてツガの大木が現れるようになり、千年は超すと思われる巨木が、われわれの目を引いた。
 尾根の下りはいつもながら神経を使う。尾根の分岐を慎重に見分けないと、とんでもないところに下ってしまい、現在地が分からなくなってしまう。そんな経験を幾つもしてくると、なかなか適当に尾根を下ることはできない。特に時間が押して日暮れを気にするような時刻では、些細な間違いが全体の計画を大きく変えることになってしまう。難しいルートではないが、油断できない慎重な尾根下りが続いた。
 林道が見えた時にはほっとしたが、この最後の下りが曲者である。どこも切り立っているのをアプローチの時に確認していた。ゲートすぐ上のわずかに開けた斜面だけが林道に穏やかにつながっていた。


源頭の右岸へ上がって休憩 木漏れ日の差す枝尾根がきれい

標高1370m付近の踏み跡を辿って 見通しの効く明るい広葉樹林を歩く

























日向山北東尾根 稜線付近は笹原の広がる疎林 白砂の尾根を下る


1200m付近 千年は越えると思われるツガの巨木
下るにつれてツガの巨木が見られるようになる 尾根は明るい


 濁川の河原にテントを張った。昨年の6月、大橋さん、山﨑さんと泊まった場所だ。穏やかだった河原は荒れている。三日前に降った大雨だろうか。河原には石が転がり、白砂の砂州が削られていた。大水でできた新しい砂州にテントを張って、焚き火をした。昨年と同じ静かで穏やかな夜だった。暗くなって空を見上げると、星がびっしりと輝いていた。時に薄雲がやって来てその輝きを撫でた。
 キュウリの浅漬け、焼き豚、鮭缶、かつおのなまり節、マーボー豆腐、イワシのみりん干し、しし唐の網焼きなどなど、良く食べた。
 とりとめのない話が夜遅くまで続いた。明日は歩かなくても良い、という安堵感が支配していた。それにしても、北東尾根への詰めはつらかった。短い沢といえども、身体を目いっぱい使わないと遡行を果たせない自分を振り返るのだった。



焚き火に網を載せてイワシのみりん干し、しし唐を焼く



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