小川谷廊下散歩 丹沢山塊
2015.06.20

楢原、高橋(ラバーソール)
豪快なF4・5m滝 左の岩を上がる



 久々に、楢原さんと西丹沢を歩いた。小川谷の下流をゆっくり散歩しようと、のんびりしたことを考えていた。だが、曇りだった天気予報が、現地についた時にはすっかり晴れていた。この天気なら小川谷廊下へ入っても良いなと、つい思ってしまった。散歩なのだから、どこからでも戻ればいい。小川谷廊下の下降は二度ほどやっているので、何も困ることはない。そう思っていた。

参考情報
特になし

コースタイム
穴ノ平橋9:30-林道降り口09:45-入渓09:55-ワナバ沢出合10:50~11:10-大岩の上(標高635m)12:27-左から沢が入る645m-ゴルジュ開始12:47-石棚ノ滝13:25-稗畑ノ沢14:51-仲ノ沢経路15:08-穴ノ平橋16:00

ルート図




今日の入渓点 ここは、F3・7m滝の上
すぐ3mの小滝


5mスラブ滝 右から高巻いた
石棚ノ滝二段20m 左の岩棚を上がる

石棚ノ滝上流の小滝 小さな釜を持っている


 F2CS滝も巧妙に避けて、作業道を歩いてF3・7m滝の上へ降り立った。小川谷廊下の変わらぬ流れが二人を暖かく迎えてくれた。ここまでは良い。だがこの先のF4・5mスラブ滝では、自分たちの脚力の無さやバランスの悪さが露わになるのだった。ここで、楢原さんは2mほど滑落、水に入る。やがて、天気予報通りに雲が覆いはじめて、身体を冷やすことになってしまった。
 さらにF5・5mスラブ滝の左岸高巻きでは、廊下に慣れた高橋が、その腕を存分に見せるはずだったが、何度かトライしたが核心の一歩がどうしても出ない。今まで難なく越えてきた高巻きが、何故だか分からないが通過できないのだった。おそらく、脚力の衰えによってバランスが取りにくくなっているのだろう。このとき、松田警察署の救助訓練隊に追いつかれ、
「無理しないでくださいね。」
と、まるで初心者のように思われてしまう始末だった。

 ここは苦肉の策で、上部のブッシュまで踏み跡を上がり、15mの懸垂で沢へ降りた。高所のロープワークで緊張した。うーん、ここは難しいところではないのだが、そんな思いが湧いてくるが、事実は事実だ。こんなところで難儀してしまう自分が居る。楢原さんに続いて、自分もすっかり自信を失ってしまうのだった。
 穴ノ平橋のあたりで、入渓点を探していた若者二人に入渓点を教えた。その若者たちにも、とうに追い越され、もうその姿はどこにも見えない。やがて救助隊の姿も見えなくなった。
 やがて渓はゴルジュになる。深い釜はないがそれなりに水に入らなければ、このゴルジュを突破できない。もうこの辺りでは、途中で被った水しぶきで高橋はすっかり身体が冷えていて、体が震えてきた。筋肉が弱まり震えが来たときにはどうにも活力が減退する。
 核心のゴルジュ5m滝は水圧を受けながらも、力を振り絞ってリード、後続を確保した。だが、このあとのⅢ級下の何でもない岩が何とも自信がなく、楢原さんにリードを頼んだ。脚の疲労を抱えながら石棚ノ滝の下まで来た。この滝は、廊下では一番大きい。右岸の石棚を15mほど上がらなければならない。廊下へ行こうと言ったのは自分だったので、当然自分がリードしなければならない。そんな責任感も、自分の身体の駄目さにすっかり失っていた。
「楢原さん、リードをお願いします。」
と、言った。経験していない岩のリードに、楢原さんは内心ためらっただろうと思う。が、私の言うことがいつになく真剣だったために、楢原さんはリードを受けた。この石棚は、そう難しくない。支点も要所にあるので、クライミングの基礎ができていれば登れる。楢原さんは、首尾よく上がり、ロープを降ろしてくれた。さて、自分の番だが、ロープがあっても、バランスのややむずかしい所がなかなか上がれない。筋力と瞬発力の衰えのせいだ。ロープを頼りに、本当にやっとのことで上がった。

 石棚ノ滝で核心は過ぎた。あとは、いつもなら楽しみながら小滝を飛ぶように越えて、終盤へ向かうはずなのだが。ここでも、小さな滝の微妙なトラバースがうまくできない。自分でも情けなくなるほど何もできない。だが、なんとか帰路の登山道までは、上がらなくては。
 途中エスケープを考えながら歩いて来た。標高765m辺りで、右岸から入る支沢、稗畑ノ沢から仲ノ沢経路へ上がることを考えた。ここまでくれば、廊下のめぼしい遡行は終わりだ。仲ノ沢経路の位置は、今までの調査で正確に分かっていた。地形図によれば、稗畑ノ沢の右岸を標高差40mほど上がれば、目的の仲ノ沢経路へ出るはずだ。
 稗畑ノ沢のすぐ先には大きな堰堤が見える。行き止まりになりそうなので、早めに右岸枝尾根に上がる他ないが、取り付きが分からない。楢原さんが、稗畑ノ沢を20mほど遡ったところに、枝尾根に上がる絶妙な踏み跡を探し当ててくれた。嬉しい。これで、仲ノ沢経路へエスケープできる。そう思った。

 急な枝尾根を忠実に詰めた。脚はすっかり疲労していたが、力を振り絞って急斜面をこなした。地形図でイメージした通り、標高810mに立派な経路があった。楢原さんも私も、心底嬉しかった。
(支沢、稗畑ノ沢の名称は、「西丹沢頂稜河川土地名称図」による。小川谷廊下標高765mで右岸から出合う。)


 逃げ出すように小川谷廊下を後にして、今日の泊り場へ着いた。ここは、いつも使う西丹沢のキャンプ場だ。今どきの設備満載のオートキャンプ場と違って、自然のままのキャンプサイトが気に入っている。目の前は、清流中川川だ。今日は、数組しかキャンパーが入っていない。静かだ。
 日も良いように暮れてきたので、川辺に焚き火の準備をした。聞いてみると、直火OKということなのでありがたい。白砂の上に本格的なかまどを設え、今日の宴の準備にかかる。楢原さんは、ビールを抱えて乾杯の準備だ。火がくすぶり始め、煙を上げる頃には、すっかり宴会の雰囲気が盛り上がる。風もなく穏やかな炎が揺らぐ。ときどきパチパチと弾けた火の粉が飛んでくる。これも愛嬌だ。
 今日の献立は、焼き肉、ジンギスカン、アジの干物という、いたってシンプルなものだが、激しい運動をした後には、旨い。とりわけ少し厚めの豚バラの両面を焦げるまで焼いた肉は、美味かった。一枚二枚と食べるうちに酔いが回り、とりとめのない話をした。家族のこと、サイト「沢の風と空」のこと、友人たちのこと、読書のこと、山のこと、などなどだ。
 楢原さんとの会話は、いつでも穏やかに始まり穏やかに終わる。そしていくぶん格調が高い。互いの主張がぶつかり合い、熱が入るということがない。山の雰囲気には、それが合っている。たぶん自己主張の混じる私の物言いを、やわらかく受け止めてくれているのだろう。私も、たいがいのことは、楢原さんの発言に納得する。それぞれの人生の経験が、互いにしなやかな心を創り上げた。そう思うこともできる。

 対岸の民宿からは、若者の興じる声が聞こえる。ただただ楽しいのだろう。その日遅くまで、大きな歓声とどよめきが、こだまのように響いてくるのだった。



情報
*エスケープルート
小川谷廊下の遡行はエスケープしにくいと考えられていると思うが、幾つかルートがある。(1)標高560m右岸に作業道、(2)ワナバ沢対岸作業道(標高595m)、(3)標高650m右岸支流、(3)稗畑ノ沢出合(標高765m)である。いずれも仲ノ沢経路へ逃げる。ただし、(3)は、取り付きは問題ないが、その先のルート確認をしていないので要注意だ。地形図を見る限りは、問題なしと考えるが。
*ヒル
入渓するまで作業道を歩く間に喰いつかれたものと思う。ワナバ沢出合いで気付いて五六匹取り除いた。その後の遡行では被害はない。今まで西丹沢でヒルの被害にあったことが無かったので驚いた。。
*マダニ
高橋の左腕に直径4mm程度のマダニが喰いついていた。ヤブを漕いだ所はなかったので、どこで付いたか想像が付かない。腕に違和感を覚えたのは、キャンプ場なので、下山時に取り付かれたのだろう。ライターであぶって弱くなってから引き離したが、なかなか喰いつきが強くて難儀した。それでも深く入り込まれる前だったので、何とか取り除いた。医者で取り除いた方が良いとのアドバイスがあるが、自分の身体に手足の動く生き物を付けて一晩一緒に過ごす勇気はない。どうしても、剥がしたくなってしまう。



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