岩戸山 熱海市
2015.02.15
高橋


山道の傍らに並ぶ石仏














コースタイム
熱海峠9:56−霊園10:00〜05−東光寺10:25〜32−岩戸山10:58−標高500m付近11:30〜50−伊豆山神社下12:55

ルート図





 熱海駅であわててバスに乗ると、すでに座席は登山客でいっぱいだった。
「あれれー。こんなに人気のルートだったのか。」
 すでに立っている人もいるので、当然立ちんぼうになってしまった。目的地の熱海峠まで悠々と座っていくつもりだったが、すっかり当てが外れがっかりだ。バスは熱海の海岸線を回りゆっくり箱根の坂を上り始める。峠へ上がれば十国が見渡せるという十国峠を越えて、バスは箱根観光のスポット、芦ノ湖へ向かう。その十国峠のひとつ前に熱海峠がある。
 今日は、熱海峠から日金山東光寺へ上がり、そこから岩戸山へ歩く。長尾根を下って伊豆山神社へ降りて熱海へ戻る、というハイキングコースを辿ることにした。それにしても、バスがいっぱいになるほどの人気ルートだとは思わなかった。たいがい自分の選定するルートは、人の少ないところなのだが・・・・。
 だが、峠道を上がるバスから熱海峠で降りたのは、自分一人だった。
「あれれ−。だとすれば、この登山客はどこへ行くのだろうか。」
 こんなに大勢が登る人気ルートは、いったいどこなのだろうか。この辺りのコースなら、たいがい分かるつもりなのだが。どうしてもそれが思いつかない。今の自分には思い付かないが、たいがいのハイカーには知られているコース。何か狐につままれているような感じだ。
 世の中から弾き飛ばされたような気持ちでバスを降り、そして一人東光寺への急な登りに入る。東光寺の霊園へ上がる急な車道を曲がりくねりながら歩く。朝の日がまぶしい。すっかり何時のことか忘れてしまったが、若い頃にこの坂道は何度か登っている。そのときも、苦労した覚えがあるので、すっかりガタの来たエンジンで登るのはつらい。とはいっても、わずか30
分ほどの登りに過ぎないのだが。
 東光寺のある一帯を日金山というようだが、ここが十国峠と言われている。伊豆・駿河・遠江・甲斐・信濃・武蔵・上総・下総・安房・相模の十国が見えるというが定かではない。十国峠というだけあって、日金山の霊園から見る箱根の山々の展望はすばらしい。霊園の傍らに東光寺がある。この日金山東光寺は、相模、伊豆、駿河、三河など近国の霊が集まる地蔵信仰の聖地という。静かなたたずまいの小さな寺だ。どうやら冬の間は、人が居ないらしい。
 急坂を上ってきてすっかり体が熱くなった。日当たりのよい境内でダウンを脱いで薄い上着に替えた。風のない穏やかな日だ。このところ寒い日が続いていたが、ようやく春らしい陽気が現れた。岩戸山への登山道は、登りも下りも少ない緩やかな尾根に沿っている。途中、左手に湯河原へ下がる道を分け、日陰に先日の「大雪」の名残を見ながら歩いた。
 登山道が急な登りになると岩戸山の頂上は近い。ヤブに囲まれた狭い頂上だが、海側の展望は良い。沖近くに見える初島、伊豆の東海岸の岬も重なって見える。だが、今日はあいにくかすみがかかっている。伊豆大島は視界に入らない。足元のぬかるむ狭い頂上に8人もの登山者が集まったので、座ることもできなかった。休む間もなく早々に東へ向かう長尾根を下ることにした。
 途中、開発道路に出る手前の日溜まりで弁当を広げゆっくりと食べた。コンビニで買ったものだが外で食べると何でも旨い。寒さをどこにも感じない穏やかな日だった。弁当を食べてゆったりしていると、突然死者のことが思い浮かんだ。なぜだか分からないが、死者と話がしたいと思ったのであった。
 宮城県北部の小さな村の病院官舎で突然亡くなった父。まだ自分が十歳の時だった。歳を経て盛岡の病院で亡くなった母親。岩手県の小さな村の百姓をしていた母方の祖父と叔父。死者が意識によみがえると、死者と過ごした情景がまざまざと浮かぶ。どれも、元気だったころの顔だ。それぞれの人生をそれぞれの思いで、一瞬のうちに生きた者たちと一堂に集まり対話したい。

 死者との思い出は満たされないものが多い。なぜもう少し生きて、酒を酌み交わすことができなかったのか。なぜ、もっとやさしい言葉をかけられなかったのだろうか。自分が亡くなった者たちに近い年齢になって、はじめてその者たちと会話できるようになった。今ならば、当時話のできなかったことで、心を通わせることができる。心を通わせてみたい。そう思うのだった。

 後ろのヤブで鳴く奇妙な声で我に返った。あれは何の鳥だったのか。聞いたこともない鳴き声だった。近国の霊が集まるという日金山東光寺をお参りしたために、死者への思いがよみがえったのだろうか。思い出すこともまれな死者たちが現れたのは、もしかしたらそういうことかもしれない。伊豆の大社、伊豆山神社へ降り、長い階段を下って国道へ出た。


 
 霊園を過ぎ東光寺へ下がる

 
明るい日差しが境内に降りそそいでいる
 日金山東光寺 静かな小さな寺 人が居ない  

 
暖かな登山道を歩く 登山者は多くない
 先日の雪がまだ少し残っている  

   岩戸山からの展望 伊豆半島が見える

 
両側笹のヤブなので登山道の見通しは良くない
 登山道には暖かい陽が差していた  

 
 七尾の造成地から見える海

   
神社本殿 思いのほか小さい
 伊豆山神社の鳥居  

 
 伊豆山神社 下から階段を見上げる



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