2015.01.10 尾根の下り方4

 比較的簡単だと思われる下山ルートで起きたルートの間違いについて二つの例を述べた。経験が浅い故のことだろうと思うが、山の初級者にとって、このような体験は良くあることではないかと思う。次の例は、同じく西丹沢の小川谷の支流、弥七沢の中俣を遡行して、下山したときのことである。この例は、事前検討が良く、踏み跡のない尾根の下山に成功した事例である。
 弥七沢は、西丹沢小川谷の支流で、小川谷の標高450mに出合う沢だ。難しい個所の少ない比較的歩きやすい沢である。ただ、F2の高巻きそして詰めは少々手強い。遡行の詳細は、「沢の風と空」2014.11.03、「弥七沢」を参照して頂きたい。
 弥七沢は、左俣、中俣、右俣が歩かれているようだが、今回は中俣に入り、仲ノ俣乗越に上がるを遡行をした。中俣のP956へ向かう詰めは、岩が脆くザレの多い急斜面で苦労した覚えがあるので、今回は仲ノ俣乗越に上がるルートを選択した。稜線までの詰めの距離が短いこと、「乗越」と呼ばれているため、比較的歩きやすい可能性があると判断したこと、などが理由である。

 さて、下山の話だが丹沢の谷110ルート』山と渓谷社では、弥七沢や湯の沢を下降するよう勧めているが、現在は弥七沢を取り巻く尾根にヤブは無く、歩きやすい。これは、シカの旺盛な食欲のおかげだと思う。そのため、今では尾根を下ることができる。
 仲ノ俣乗越からの下山は、尾根を南へ向かい弥七沢の右岸尾根を辿って出合いに戻る方法がまず考えらる。だが、机上検討する間に、このルートは尾根の分岐が複雑で急傾斜になる個所も多いため、難しい下山になるだろうと判断した(図参照)。前回の田代沢の下山の失敗もあったので、用心することにした。このルートに比べて、詰め上がった仲ノ俣乗越を北へ向かい弥七沢の左岸尾根をたどるルートは、より簡単だと判断した。穴の平橋に降りる手前の斜面には、作業道があるとの情報もあったためである。林道を少しぐらい歩いてもこのルートのほうが早いだろうと・・・・。




 仲ノ俣乗越を北へ向かうと鎖場がある。踏み跡があるのはここだけで、その先にはそれらしきものはない。これは、落葉の終わった後だったからかも知れない。標高880mで左の尾根と合流し、その先でP956で平らなピークになる。ここは、ブナノ平と言われるところだ。ピークの近くに大きなブナの木があった。北へ向かうこの尾根は、この先のピーク950mで東寄りに向きを変えて下り、30mほど登り返すと弥七沢ノ頭になる。
 この弥七沢ノ頭には、山名表記の小さな看板があるとの情報があった。だが、いくら探しても見当たらなかった。自分たちが立っている地点が、確かに弥七沢ノ頭のはずだが、看板が無い。ここは、弥七沢ノ頭ではないのだろうか。そんな不安が起きた。


ブナノ平のピーク956付近のブナの大木 なだらかな尾根が伸びる


 この先で、最もルート判断が難しい個所に差し掛かる。弥七沢ノ頭から弥七沢の左岸尾根に入る尾根は起伏が小さく分かりにくい。やや南向きの尾根に入ってしまうと、弥七沢に逆戻りという最悪の事態が待っている。そのため、弥七沢ノ頭を確定するのは、とても重要である。「頭」が確定できないうちに下がったら、どこへ出るか分からない。ぜひこの「頭」をはっきりさせたい。そういう焦りがあった。日没の時間も迫っている。だが、どうしても見つからない看板を探すのはあきらめて、箒沢乗越の位置を確認して、現在地が「頭」であることを確かめることにした。「頭」と考える位置から北の方角へ100mほど歩く。するとその先が急な下りになり鞍部が見える。さらに大きく登り返す方角に大きな山塊が見える。ここからかなり低い位置に見える鞍部が箒沢乗越だろう。この地形からするとまず間違いがない。


メモ付き下山地図
 東西南北の表示は、現地で地図を逆さまに使っている時に間違えないように記載。


 箒沢乗越の見える位置から南へ戻ってようやく弥七沢ノ頭を確定した。10分ぐらいのロスがあったと思う。だが、この先で不安を抱えながら下るよりは格段に良い。(その後、2015年の1月になって、この看板の情報を検索すると、現在は取り払われて無いようである。人騒がせなことだ。)
 弥七沢ノ頭から南東の尾根に入る。顕著な尾根でないので、近くの小尾根に入ってしまう可能性が十分ある。南向きに下がってしまうと弥七沢へ戻ってしまうので、注意が必要だ。最初は目印を決めて南東方角へ正確に下がった。そのうち、ピンクのテープに導かれていることに気づき、その後はこのテープを確かめながら降りた。標高850m付近で顕著な尾根になった。弥七沢の左岸尾根に入ったようだ。ひとまず安心した。
 この先は、緩やかな尾根伝いに降りて標高810mで東へ分岐する尾根に入ればよい。この尾根は次第に南寄りに方角を変え南東へ下る。標高740m付近から東向きの尾根に入ることになる。だがこの辺りは目印になるような顕著な地形が無いので、高度計を頼りに方角を変えるしかない。弥七沢ノ頭や810mの尾根分岐点で確認した高度計の誤差がここで役に立つ。正確に標高740m付近から東向きの尾根に入る。ただ、広い尾根なので適当に降りるしかない。この辺りの林の中では、老眼の目には、地図を見るのも難しい時刻になっていた。焦りが現れる。
 ここからの下りには、立派な作業道があるとの情報があったので、それらしい踏み跡を探したが、見当たらなかった。どうしたのだろう。落ち葉が降り積もっていたため難しかったのかもしれない。落ち葉のため、秋の下山は難しい。地形図を見ながら降りるのが精一杯で、楢原さんと話もせず、ただ黙々と降りた。この不安な心理が相棒にも伝わっているだろう。尾根下りに絶対の自信はない。少し右左に迷いながら降りたが、次第に北寄りに進路を変え、左手に窪を探しながら降りた。
 左手に窪を見ながら降りることができれば、穴ノ平橋付近の仲ノ沢林道に降りられるはずである。不安を抱えながらもどんどん降りた。突然、下が明るく開けて見えた。「林道だ!」もう暗くなる寸前だった。だが、急斜面のため直接林道には降りられない。左手の窪のほうへ寄ると穴の平橋の方角へ降りられる斜面が出てきた。微妙に急な斜面だったので、急いでロープを出して降りた。穴の平橋では塗装工事をする作業員がまだ働いていた。作業員を驚かせないように静かに降りた。もう薄暗い林道に降り立ったのは、4時50分だった。難しい尾根下りをしてきて、初めてほっとした。嬉しかった。暗くなってくると不安はどんどん増していくものだ。

 下山の時に地形図だけを見て様々な判断をするより、必要と思われるメモを付けた地図を持っていれば、うっかりミスを防ぐことができる。現地で、体と頭をフル回転して行動しているときは、ちょっとした事でミスをすることがある。このミスを防ぐために事前の検討が重要だ。この時の要点を地形図に記載しておくと良い。尾根分岐の標高、派生尾根の方角などは特に重要だ。地形図は、進行方向を上にして読むことが多いので東西南北を間違えやすい。地形図に方角を入れておけば、ミスを防ぐことができる。
【メモ付き下山地図の書き方】
1)下山ルートを記入し、要所に標高を入れる。
2)目印となる谷、窪の水線を入れる。
3)間違えやすい尾根分岐に◯を入れ、標高を入れる。
4)分岐の派生尾根に線を入れる。
5)地図の端に東西南北を入れる。

   *下山地図は、地形図のコピーに手描きでメモを入れれば十分だろう。


 踏み跡の無い尾根の下り方は、おそらく三者三様だろう。それぞれに、経験に基づいた方法があるものと思う。自分流を研ぎ澄ませてゆくのが沢歩きの思想なので、それで良いだろう。ここでは、つたない経験をもとに私流の「尾根の下り方」を書いてみた。尾根の下り方を諸先輩に聞いたことがないので、他の方がどのような方法を駆使しているのか分からない。私流の基本は、現地で考えるだろうと思われることを、あらかじめ机上で検討、シミュレーションして、重要と思われることを地形図にメモをして、遡行、下山へ臨むという方法である。ベテランには不要と思われるが、初級者には役立つところがあるものと思う。参考にして頂ければ幸いである。先にも述べたが、踏み跡の無い尾根を下るのは予想以上に難しいものである。



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