2014.12.30 尾根の下り方2

 昨年の秋、久しぶりに楢原さんと丹沢を歩いた。大滝沢の支流で地獄棚沢という恐ろしい名前の沢だが、それは出合の大滝・地獄棚に由来するものだ。この棚を登るには、地獄に落ちるほどの恐怖を味わうということなのだろう。記録を検索してみると、地獄棚の左岸を高巻いている者が多かったが、最近は右岸の径路を辿る高巻きも見られるようになり、この恐ろしい「地獄棚沢」もポピュラーなルートになりつつあるようだ。これも、先達の実績を踏んで中興の祖となった「沢の風と空」のお陰だろうと思う。
 という自慢話はこんなところにして、この日の尾根下りの失敗談を記しておこう。地獄棚沢は、地獄棚の上に5m、7m、10m,12mと面白い滝が続くが、標高790mで二俣に分かれる。この二俣から先は、完全に癒し系の沢だ。右俣・地獄棚沢は以前歩いたので、今回は左俣の福井沢を歩いた。福井沢は、しばらくナメの続く快適な遡行になる。遡行終了点は図の通りだが、詰めのあたりは平凡だ。
 遡行終了点の鞍部でひと休みして、屏風岩山へ向かった。屏風岩山からは、東の尾根に入り、途中北東の枝尾根を下って地獄棚を右岸から高巻いた経路へ向かう。経路をたどって地獄棚の下の大滝沢本流へ戻ろうという予定だった(下図参照)。だが、この枝尾根の下りで手痛い失敗を犯してしまい、楢原さんには心配をかけてしまった。

 この尾根下りの失敗を振り返ってみよう。屏風岩山の東尾根に入り鞍部を経て1050mピークへ上がり、そこから北東尾根に入ったまでは良い。標高990m付近の尾根の分かれで北向きの枝尾根に入って下り始めた。だが、この尾根の下りで徐々に尾根が頼りなくなり下降が難しくなった。「なんか変だなー」と思ったが、ルートを間違えたとは思わなかった。だが、いま自分たちが何処を歩いているのか自信が持てなくなった。右手上にしっかりした尾根が見えたので、もしかしたらあの尾根かもしれないと思いながらも、そのまま惰性で降りた。


*現在広く呼ばれている地獄棚沢は、「西丹沢頂稜河川土地名称図」によれば、”地獄沢”と名称されている。ここでは、広く使われている地獄棚沢の名称を用いた。なお、同資料により標高790mの二俣先の右俣は”地獄沢”、左俣は”福井沢”とされている。


 何か変だが、必ずしも間違えたとも言い切れない。間違えたとしたら現在地が良く分からない。そんなことを思いながら急な斜面を下った。下り切る頃には、尾根の形も無くなっていた。結局、沢へ降り立った。予定のルートでは、しっかりした経路に当たるはずだったのだが。
「では、ここは何処だろう。」
「このまま、沢を下ってみよう。」
 道迷いの一歩だった。だが、幸運にもすぐ分かったことがあった。沢に見覚えがあったのだ。そこはさっき遡行したばかりの福井沢だった。遡行したときに見た、特徴のある湧き水があった。沢床の岩の割れ目から、弧を描いて勢い良く噴き出る湧き水だ。さっき遡行したとき、この珍しい湧き水に二人で驚いたばかりだった。


岩盤から弧を描いて噴き出す湧き水 福井沢870m付近


 下山していたと思っていたら、元の沢に戻ってしまっていたのでは、振り出しに戻ったことになる。予定のルートへ戻るには、登り返すのが常道だろうが、もうとても登り返す気持ちが起きない。下山ルートを変更することにした。標高790mの二俣まで沢を下り、右俣へ入るとすぐに一軒屋避難小屋へ向かう作業道がある。この作業道を下れば避難小屋の近くで、登山道に合流するはずである。この作業道は、以前歩いたことがあったので、記憶に残っていた。幸運だった。初めての場所だったら、こうはいかなかっただろう。
 朝、登山を開始した大滝沢沿いの駐車地点に辿り着いたのは、暗くなる寸前の夕方6時頃だった。




 今度の失敗をあとで考えてみれば、1050mピークを北東尾根に入ったあと、枝尾根に入る地点Bを間違えたことが分かる。標高差10mぐらい手前のA地点で左手の北方向へ降りてしまったようだ(下図参照)。予定のルートもほぼ同じ方角なのでここは間違えやすい。間違えて下りた尾根の分岐点Aは、予定ルートの尾根の分岐点Bによく似ている。標高差もわずか10mほどなので、高度計でここの地点の差を見つけることは難しい。あとで、落ち着いて考えてみれば分かることなのだが、AB地点で右手に派生する尾根の方角が明らかに違う。この右手に派生する尾根の方角は、それぞれ南東と北東である。この差に気付けば間違えてA点を北へ下ることは無かっただろうと思う。
 おそらくその時は、右手に派生する尾根の方角を考慮せず、進路が北方向であることだけを確認して尾根を下ったものと思う。現在地点をわずかに見誤ったのが原因だろう。確かな記憶は無いが、緊張した遡行が終わり、満足した気持ちで下山をしていたときに、山談義をしたりして、わずかの間、現在地の確認を怠ったのではないか。A点をB点と勘違いして下山したのだろうと思う。
 さらに、A点からの下りには、予定ルートにはあるはずの940950m地点の緩傾斜尾根が無かったことも、ルートミスに気付くきっかけになったはずなのに、それに気付かなかったことも悔やまれる。

 いろいろ、あとで考えたことを書いたが、実際には行動中にこれらのことが現地で考えられなければ、ミスを防げない。だが、山行の現場では、一度行動を始めるとなかなか頭が働かないことが多い。特に下山の時は、遡行が終わったという安心感から、つい気を抜いてしまう。グループで歩くと、先頭のリーダーだけが必至にルート判断するが、後ろに付く者は惰性で歩くということになりがちである。そんな訳で、疑問を持ったその場で、総合的にルート判断をするのは、思っている以上に難しい。そこで、「B地点は、北東に派生尾根を持つ。」などと、あらかじめ机上で考えておくことが重要だと思われる。その机上検討の際には、どの辺でミスを犯しやすいか判断できなければいけない。
 しょせん、沢歩きは頭脳を使う「知的ゲーム」である。身体だけ鍛えておけば何とかなる、という甘い考えを持ってると、手痛い失敗をする。

【教訓】
1)現地でのルート判断は難しい。下山ルートの事前検討が必要。
2)尾根分岐点の特徴の把握。標高、派生尾根の方角など
3)おかしいと思ったら立ち止まれ。安易に下るな。

                        (つづく)
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