2014.12.27 尾根の下り方1

 沢を歩くおもな技術には、滝の登攀の技術、沢泊の技術などがあるが、もっとも重要な技術は、予定のルートを外れずに歩くことだろう。もちろん、沢の遡行は、登山路のない所をあるくので、基本的にどんな所を歩いても構わない。だが、残念ながら現代人は忙しい。特に現役で働いている場合は、遡行終了の次の日の予定が入っている。山で道迷いしたら、仕事にも差し支える。そんなタイトな時間で遡行することが多い。
 予定のルートをとれずに、時間が余分にかかると、体力の消耗も起こり、泊まりの準備が遅れたりする。その結果、次の日の予定にも支障が出かねない。全てを予定通りに、というのも遡行の思想には合わないが、できるだけ変な失敗はしないほうが良い、と思っている。
 遡行で、どれだけ文明の利器を使うかによって、ルートファインディング(以下、”ルート判断”と記す。)の方法は変わるだろう。たぶん、沢やヤブ山を歩く者達は、(1)地形図のみ、(2)地形図と高度計、(3)地形図とGPS、のいずれかの道具を使って山へ分け入っているものと思う。各々何を使うかは、山を始めた時期による影響が大きいと思う。どれが最もふさわしい利器であるか、それは一概にいえない。文明の利器を使わずに、場合によっては地形図さえ持たずに山へ入れればそれが良いと思うが、まあよほど歩き慣れている山でなければそれは難しい。
 現在においては、GPSを持つか持たないかの判断は難しい。やはり、歩く者の判断によるだろう。何を目的とするかによって判断は分かれることになる。渓の美しさを感じることが目的の遡行なので、ルート判断は煩わしいという場合は、GPSを使うだろうし、ルート判断を含めた冒険的要素を求めている場合には、GPSを使うのをためらうだろう。だが、滑降を目的とする冬山の山岳スキーの場合には、GPSは必須のものと思われる。いずれ、状況により山へ入る者が適切に判断すべきものと思う。
 遡行の場合に、私は地形図と高度計を持っていくが、GPSは持たずに歩く。ルート判断の冒険的要素を遡行の楽しみにしているためである。これから書こうとしてる「尾根の下り方」は、地形図と高度計を使ってルート判断する方法なので、GPSを駆使する人の参考にはならないと思う。

 遡行のルート判断は、地形図と高度計を使うという点では、遡行時も下山時も基本的には、変わらない。ただし、その両者の難しさには、差があると思われる。遡行時には、比較的正確にルートを辿れることが多いが、下山時の尾根歩きは、いつも難しいと思う。
 渓を遡行する場合は、水がある。まずは水の量によって、本流がどれであるか判断するのはそう難しくない。ただ、水量が同じぐらいの二俣に立った場合は、自分がどちらに進むべきかを判断するには注意が必要である。たいがい、高度計を使えば、右へ入るべきか左へ入るべきかは、瞬時に分かる。地形的な特徴を地形図と比べれば万全だろう。
 ただ、上流の詰めに入った場合には、次々に二俣が現れる。この場合には高度差も小さいことが多いので、高度計と地形図だけで判断するのは難しい。正確に今自分の居る位置を捉えている必要がある。これも、慣れていればそう難しくない。詰め近くになる前から、現在地を抑えておくことが肝要だ。高度計は、遡行中に少しずつ地形図との誤差がでる。この誤差を10mぐらいで正確に把握しながら、歩くことが必要だ。このような詰めでは、二俣のそれぞれの方角もコンパスで見ながら進路を確認する。面倒くさがらず、都度、現在地に納得して進むことが、ルートを外れない基本だと思う。
 いろいろ書いたが、詰めでのルート判断のコツは、事前の調査と準備である。地形図に水線を入れる、水線に高度を入れる。詰め付近の地形を正確に把握できるように、地形図を拡大しておく。などなど事前の準備がかなりの力を発揮する。これは、私の経験によるものだが、かなり当たっていると思う。
 なお、遡行図という便利なものがあるが、現在地をこの遡行図で確認するのは問題がある。遡行図には、ときとして間違いがあるからだ。現在地を確認するには、地形図を使うべきである。

(「沢の風と空」、「沢のほとりで」 2014.01.03 愛する小道具たち4 メモ付き地形図 参照)

 ここで書こうとしたことは、ルート判断の更に難しい下山時のことである。遡行の後は、登山路の無い尾根を下る場合が多い。この尾根の下りは、遡行時のルート判断と比べるとさらに難しい。なぜなのだろう。遡行の到達点は、主稜線やピークであることが多い。主稜線やピークは、数的に少ない。ひとつのピークに尾根の裾野は最大360度に広がっている。例えば、単独峰の富士山に登る場合、頂上に着くにはひたすら高みに登ればたどり着く。だが下りは、ただ下れば良いというものではない。静岡県側の登山口へ降りているつもりが30kmも離れた山梨県側の登山口へ到着、ということも理屈上はありえる訳である。
 それ以外にも、尾根を下る難しさはあるものと思う。実際、自分の経験でも、尾根を下った時の失敗は、遡行時のそれに比べて、思いのほか多いのである。前置きがずいぶん長くなってしまったが、そんな失敗の経験を元に、尾根下りの難しさについて、これから述べてみたいと思う。(つづく) 尾根の下り方2へ




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