小川谷廊下散歩 丹沢山塊玄倉川
2014.10.19
高橋
(ラバーソール)



プロローグ
 明日の日曜日は晴天の予報らしいので、がまんできずに丹沢に出かけることにした。週末の晴れる日に家に居ることができないというのは、もしかしたら病気かもしれない。というわけで、土曜の午後からいそいそと支度を始めた。
 今回の行き先は、小川谷廊下。ついでに弥七沢の様子も見てこようと決めた。どちらも、11月初旬の連休に歩いてみようと考えているからである。ちょっと下調べ、そんな感じで沢の出合をウロウロ歩くのも良いだろう。療養中の身、「体力温存」が当面の課題だ。すっかり脚力も胆力も衰えてしまったので、小さな沢といえども毎週沢を歩くことはできない。
 弥七沢は11月に歩く予定なので、尾根下山のルートが林道に下がる所の難易度を見てこようと思った。林道への下りは、たいがい急傾斜で降りにくいところが多いからである。ただし、今回は、弥七沢の調査は置いて小川谷のことだけを報告する。

目的
 8月末に小川谷廊下に出掛けたが、どうした訳かF2CSが自力で上がれず、ひとにロープをおろしてもらって上がった。この時の思いがどうも引っ掛かっていて、何とか自力で上がりたいと思っていた。ただ、同じ所を同じに歩いても上がれる訳がなく、ひとまずF2CSのあるゴルジュを高巻くルートを探すことにした。できれば、現地の支点工作もしたい。そう考えた。
 小川谷廊下のF2CSのあるゴルジュは、仲ノ沢出合のすぐ先である。まず、多量の水を落とす3mほどのF1が待ち受けている。一見むずかしい感じがするが、取り付いてみればホールドはある。そのすぐ先が大岩のチョックストーン(CS)だ。ここは、小川谷廊下の関門になっていて、腕に自信の無い者にとっては厄介なところだ。近くに高巻きルートが無いため、ここを越えなければ小川谷を歩くことはできない。だが、たいがいは上手な者に引き上げられてあっさりと通過してしまう。ただし、腕のない者が単独で越えようとするとやっかいだ。

ルート図


地形図検討
 ゴルジュ近くの地形は険しく、小さく巻けるルートを探すのは、むずかしいだろう。そう考えた。ゴルジュ周辺の地形図を検討すると、大高巻きのルートがいくつか見えてくる。それが、@とAだ(地形図参照)。@は、左岸の窪を下がるルート、Aは、ゴルジュ右岸の緩傾斜地をトラバースするルートだ。ただ、これらのルートは可能としてもかなり遠回りになる。@の窪の下降は70mほどの高度差があり、Aの下降は100mもある。難儀する斜面であれば、ロープを使うので時間もかかるだろう。
 地形図を見つめているうちに浮かんだのが、仲ノ沢を遡るルートB、もうひとつは仲ノ沢の左岸尾根に直接上がるルートC。どちらも、570m付近の緩傾斜を選んでゴルジュ上へトラバースするルートだ。ただ、これらのルートは、どちらも容易でないことが想像できた。たしか、仲ノ沢出合には滝があったように思う。左岸の尾根は、地形図を見ただけで険しいことが分かり、そもそもそこを上がれるのかどうか。
 とはいっても、今回はそのルートを探索するのが目的だ。@Aはまず置いて、ルートの短いB、Cを調査してみよう。もしB、Cがだめなら、@を探査してみたい。そんな心づもりで出掛けたのだった。


仲ノ沢林道ゲート
あれれ、みずから7〜9月の通行止めを宣言しておきながら、10月になっても明確な理由なくゲートを閉鎖。この奥では、橋の塗装作業をしていたが、使わない林道であれば補修無用。
小川谷下降点まで車で入る予定だったのでショック。このゲートから小川谷下降点までは徒歩30分。



入渓ルート
 小川谷への入渓は、仲ノ沢林道が涸れ沢を過ぎ、50mほど先に積まれたケルンから踏み跡を下がり、穴ノ平沢を下降するルートAが良く歩かれているようだ。ガイドブックの影響だろう。このルートAは、穴ノ平沢の幾つかの堰堤を取り付け梯子で降りる。取り付け梯子には、使用禁止などと責任回避の看板が付いていたりして、あまりお勧めできない。
 ベストな入渓ルートは、ルートAの手前約30mから小川谷へ直接降りるルートBである。このルートは、涸れ沢沿いに比較的ゆるやかな枝尾根を下がるルートで、小川谷へ降り立つ手前の崖マークには、立派なロープが設置されてあり難しいところはない。降り立つところは、小川谷の明るい河原である。


青空のもと仲ノ沢林道を歩く 30分で入渓ルートへ 入渓ルートBにフィックスされたロープ


小川谷の広い河原に降りる
小川谷のゴルジュが見えてくる 手前F1、奥F3 ゴルジュ手前右岸から仲ノ沢が入る


 左手に穴ノ平沢を見ながら、大きく右へ曲がる小川谷に入ると、両岸が切り立ってくる。やがて前方には例のF2CSのあるゴルジュが見えてくる。手前に見えるのは3mF1、奥に見える高い滝は7mF3である。このF1の手前右岸から仲ノ沢が出合う。
 仲ノ沢を見るとやっぱり滝が落ちていた。8mほどの直瀑だ。う〜ん、ここは遡ることはできない。奥には高い堰堤も見える。とすれば、「左岸を上がるしかないな」と左岸を見れば、う〜ん、こちらも一筋縄ではいかない傾斜を持っている。早々に高巻きルートの第一、第二候補(B、C)をあきらめる他ないと考えた。カモシカではあるまいし、誰がこんな斜面を登ることができるだろう。



仲ノ沢 大きな滝が行く手を塞ぐ。奥には大きな堰堤も見える。とてもここを遡ることはできない。右手の斜面も上がれそうにない。困ったな。


 とはいえ、ここまで来たのだから斜面に近づいてせめてルートを追ってみよう、そう思って近づいた。と、あれ、細い緑の長いヒモが下がっているのが見える。だが、このヒモは命をあずけるには細すぎる。ただ、下降したのか登ったのか、ここを歩いた者が確かにあるらしい。斜面をよく見るとかすかに踏み跡がある。どうやら取り付くことはできそうだ。行けるところまで行って、だめなら戻れば良い。そう思って登り始めた。
 5mほど登ってから仲ノ沢上流方向への薄い踏み跡を追うより、尾根を直登したほうが安全だと判断して、そのままブッシュと岩をつないで最大斜度を攀じり登った。もし足を滑らせたら下まで滑落する斜度だ。あまりに体力を使う登りだったので、都度休んで息を整えた。

 地形図からすれば、標高570mまで登れば、傾斜はゆるむはずだ。それまではひたすら登るしかない。一部岩を上がったが、大方はブッシュをつないだ登りだった。気の抜けない登りをこなし、仲ノ沢上流に見える堰堤上の高さになると、ようやく傾斜がゆるんできた。高巻きを初めてここまで25分、標高555mだ。地形図の読みより少し早い。標高差は50m近い。ゴルジュの方向へ、かすかだが踏み跡らしき軌跡を見て取ることができた。試しに覗いて見よう。
 その軌跡を追うと、次第にしっかりした踏み跡になる。どうやら右下にゴルジュを見ながら小川谷上流へトラバースしているようだ。誰が使ってきた踏み跡だろう。もしや、ゴルジュの高巻きルートとして使われた時代があったのだろうか。ただ、現在は使われていないように見える。途中、細い倒木がかぶっているのをノコギリで切り開いて進む。足元不安定なところは、念のため補助ロープを使って滑落を防いだ。右下に大きな滝が見える。7mF3だろう。大きな音を立てて滝が落ちている。
 この踏み跡は、F3を過ぎた先で自然に少しずつ小川谷へ降りている。
20mぐらいの懸垂下降は覚悟していたが、幸運だった。小川谷へ降り立った先の同じ斜面には、階段が見える。作業道だろう。対岸には、高巻き候補@の下降ルートのルンゼが見える。覗いてみるとここもロープ無しで降りられそうだ。ただ、眼で追えない先はどうなっているのか分からない。
 高巻き時間は45分、もともと苦戦を予想していただけに思った以上に早かった。





トラバースの踏み跡 かなりはっきりしている 標高560m付近 右手に深いゴルジュ
同じ踏み跡 来た方向を振り返って

右下に小川谷の流れが見えた ひと安心する 降り立った小川谷のきれいな流れ 7mF3の上流

対岸のルンゼ 高巻きルート@ 降りられる


7mF3を右岸の窪から降りる
7mF3の上から 豪快に滝を落としている


ここがF2CSの上 時間を掛けて完璧な支点工作
F2CSの上へ向かう 今日は水量が多い 怖いほど轟々と水が落ちる


小川谷廊下散歩
 小川谷を少し散歩してから帰ることにした。途中、青年3名、ベテラン1名の2グループに遭った。ベテランはF3の左岸の難しい壁を登ってあっという間に去った。青年たちと少し会話した。青年たちは、沢を初めて二度目だという。いずれもネオプレンで身を固めた素晴らしい体格だった。
「この先、難しいところがありますか。」と問われたので、
「基本的には易しいけど・・・・。」と答えた。
「CSはどうした。」(私)
「引っ張りあげてもらいました。」(青年)
(さっきのベテランに上げてもらったのか?)
「もう11:30だ。出発が遅くないか。」(私)
「遅くなりました。はい。」(青年)
「ネットで情報を集めてきたか?」(私)
「・・・・。」(青年)
「ロープは持ってるか?」(私)
「はい。」(青年)
「易しいけど、初めてだとルートを探せないかも知れない。」(私)
「あいにく、きょうは水量が多い。いつもより難しい。」(私)
「ダメだったら戻ってきな。ロープがあればこの谷は下降できるから。」(私)
「無理して突っ込むな。」(私)
 う〜ん、かなり問題があるなと思いながら、青年たちを送り出した。案内しても良いとも思った。だが、こちらには小川谷を歩くスタミナが残っていない。心配しながら送り出した7mF3でも、ルートを探れなくウロウロしている。
「そこは、左の窪だ。左の奥!」(私)
「この滝が一番簡単な滝だ。これが登れなければ、先は無理だぞ。」(私)
 ほんとうに大丈夫だろうか。それにしても度胸あるな。沢二度目で、小川谷を登ろうとは。無謀と言っても良いかも知れない。う〜ん・・・・。


高巻きで降りてきた右岸 立派な径路が見える どこへつながっているのか 帰りに辿ってみたい
7mF3 左の窪を上がるのが簡単

上流へ 第二のゴルジュに入っていく


トイ状滝上から 豪快な奔流  一週間前の台風19号の影響で水量が多い
トイ状滝 釜は碧い

6mF4 第二ゴルジュを右へ曲がると この美しい滝 今日はここまで


径路を辿る
 7mF3の上流30mにある右岸の径路が、どこへ繋がっているのか確かめたくて、その径路を辿ることにした。
 径路は右岸の急斜面をジグザグに標高600mまで上がり、小川谷右岸を下流方向へトラバースする。その先で、仲ノ沢の左岸に廻りみ上流方向へ下降気味にトラバースし、仲ノ沢の575m地点に降り立った。辺りを見回すと、同沢の上流50mに径路の階段が見える。ここは、仲ノ沢の右岸から小さな枝沢が入るところだ。ここからさらに径路を辿り急斜面を上がると、「仲ノ沢径路」に出た。標高635mだった。ここから林道終点まではわずかだ。仲ノ沢経路は、小川谷廊下の遡行後に下山で使う道だ。
 小川谷から林道まで、標高差はあるものの約30分の行程だった。小川谷廊下にこの径路を辿って入渓する方法があるということだ。林道終点まで歩く行程は伸びるものの、安全確実に小川谷に降り立つことができる。ひとつの高巻きルートといって良いだろう。このルートは、最初に検討した高巻きルート@に相当する。

7mF3上 右岸の径路 階段がある ここを辿る この径は「仲ノ沢径路」635m地点に繋がっていた 





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