久渡沢峠沢 奥秩父笛吹川
2014.09.13
高橋
(フェルトソール)

久渡沢の岩の上に咲く大文字草











遡行図  概念図




参考情報
 なし

コースタイム
雁坂トンネル駐車場8:58−久渡沢入渓9:01−二段7m滝9:59−二段10m滝11:06〜12:00−二俣1355m12:12−沓切沢出合13:11−1520地点(遡行終了)13:25〜14:08−雁坂トンネル駐車場15:14

プロローグ
 沢の愛好家が誰も選ぶことのないと思われる沢を歩いてみた。笛吹川支流の久渡沢峠沢(くどのさわとうげさわ)だ。体力温存を考慮して選択したものだ。独りで歩くというのは、良いものだ。自分の勝手でどこでも歩けるのだから。勾配が緩いため滝が無いと考えられるこういう沢は、釣り人ならいざ知らず、普通の沢屋の歩く沢とは思えない。
 以前、奥秩父の金山沢大荒川谷を歩いたことがある。帰路は雁坂峠を経て山梨県側に降りた。明るい雁坂峠の急坂を降りると、ゆるやかな斜面を峠沢に沿って登山道が下っている。途中、登山道からナメ滝のきれいな峠沢を見下ろせるところがあった。沓切沢(くつきりさわ)*の出合付近である。誰ともなしに、「いつかこんな沢を歩いていみたい。」と話が盛り上がった。歳によって脚に衰えが見えたときに、気軽に歩ける沢として候補に上がったのだ。「いつかこんな所で合宿をしてみたい」など、本気とも冗談ともとれる会話が飛び交った。
 沢同好会の中でも、脚に衰えを感じ始めていた五人が、行程の長い金山沢大荒川谷を二泊で計画したのだった。「いつかこんな沢を歩いてみたい。」と言ったのは、本気だったのだろうが、厳しい金山沢大荒川谷を歩き通せた満足感にひたっていた時の感傷であったかも知れない。この冗談ともとれる沢を今回は本気で歩いたのである。

*沓切沢: 沓切沢(くつきりさわ)は標高1480mで左岸から峠沢に出合う沢である。標高1340mに、やはり左岸から出合う沢は唐松尾沢と呼ばれるようだが、この沢を渡る林道の橋には「沓切沢橋」と名が付されているのでややこしい。

地形図検討
 久渡沢(くどのさわ)は、笛吹川広瀬ダムの上流に注ぐ左岸支流である。久渡沢はその上流、標高1355付近で二俣となり、右俣が峠沢、左俣が中ノ沢、ナメラ沢と分かれる。今回は、右俣支流の峠沢を歩こうというわけだ。なお、ナメラ沢は最近でこそ人気が薄れているようだが、一時ナメの続く沢として初級者に良く歩かれた沢であった。
 久渡川は、地形図に記載されている大堰堤を避けて、雁坂トンネルの山梨県側入口の近くから入渓して、標高1355mの二俣を経て峠沢の沓切沢出合あたりまでの3.4kmを歩こうという算段である。計算上では3時間ほどで歩けるはずだが。
 今度の沢歩きは、金山沢大荒川谷の遡行の帰りに見た、峠沢のあのきれいなナメを見たいというのが最初の動機なので、途中まで登山道を登りその付近だけを歩けば良いのだが、それでは楽しみがあまりにも少ない。せっかく、遠くへ出かけるのだから、なんとかその楽しみを大きくしたい。そんな考えもあって本流の久渡沢も歩くことにした。

 地形図を見るとその沢の大体の様子が分かると思っている。久渡沢峠沢は、勾配のゆるやかな沢である。勾配の大きい滝の多い沢とは異なり、穏やかな流れにゴーロが長く続くのではないか。ただ、入渓地点から両岸には岩マークがあり、700m以上も続いている。もしかしたら両岸に美しい岩壁を見ながらの遡行になるかもしれない。峠沢もゆるやかな沢である。隣のナメラ沢にはあれだけスラブのナメがあるのだから、この沢にも美しいナメが点在するのではなかろうか。少なくても、沓切沢の近くにはそれがあるのを見ている。久渡沢はハズレでも峠沢は納得できる遡行になるはずだ。だが、ハズレのときはハズレでもいい。そう思った。
 遡行前に思案したのはだいたいこんなことである。まあ、全くその沢の知識を持たないで出掛けたと言っても良いのかもしれない。ただひとつ、ウェブで見つけた情報によれば、久渡沢には大きな滝がひとつあるらしいこと、そして支流から幾つかの目立った滝が落ちているらしいということである。

久渡沢峠沢の遡行
 朝6時に家を出て、河口湖を経由して御坂、一宮を抜けて雁坂みちに入り、雁坂トンネルをめざす。さすがに好天の三連休とあって乗用車の数が多い。が、最近は道路も整備されて渋滞なしに雁坂トンネル入口に停まった。8時半だった。かかったのは、2時間半とわずかである。トンネル入口には、大駐車場とトイレがあるがこの駐車場はいつも空いている。

 トンネル入口駐車場の下からは、沢を流れる水の音が高く聞こえて来る。その音からすれば、かなりの水量があるようだ。駐車場の柵を越えて西のゆるやかな斜面を降りると、すぐ古い舗装道路が見える。この道路に従い降りると簡単に久渡沢へ降りることができた。
 入渓点は、ちょっと暗い。両岸とも切り立ち、上部には緑が濃く葉を茂らせているためである。沢床まで陽が届かないのだ。これは、標高1340m付近の唐松尾沢出合まで続く。これが、久渡沢の第一の特徴である。ただ、沢幅は広いので圧迫感はない。
 久渡沢は、基本的にゴーロを歩くことになる。ただ水量は多いので流れは強いところがある。ときに花崗岩のスラブが現れナメを作ったり小滝を作ったりする。河原の石は花崗岩で水は澄んでいる。水量は多いが沢幅があるので淵や釜で行き詰まるところはない。高巻きを要するところもない。淡々としたゴーロ歩きが続く。ときに現れる小さな滝や石を縫う奔流や釜に心を奪われることもあるが、全体的に単調である。
 久渡沢の大きな滝は、1250m付近の二段7m滝と唐松尾沢出合手前の大滝二段10m滝である。どちらも、優美な滝だ。両滝とも流れが絞られているので、水勢は驚くほど強い。また、支沢から大きな滝が落ちているところがある。1220m付近の左岸支沢と1325m付近の右岸支沢である。どちらもブロック状の黒い岩の重なりを見せ、それぞれ12m、15mに豊富な水量を落としている。つい登ってみたくなるような滝だ。
 肝心の峠沢だが、思いのほかナメは少ない。本格的なナメは沓切沢出合付近に連瀑があるだけで、ほかには小さなナメや小滝がときどき現れる程度であった。峠沢のナメやナメ滝は期待していただけにちょっと残念だった。こうしてみると、われわれが金山沢大荒川谷遡行の帰路に見た峠沢のナメ滝は、最も美しい場所を見たことになる。さらにそんな場所が続くと思ったのも、無理ないかも知れない。支流の沓切沢も出合付近に黒いナメとナメ滝が見えるが、その先には、きれいなところはないとのウェブ情報をどこかで見たが、今回はその先を確認する時間も元気も無かった。


久渡沢
両岸切り立つゴーロを歩く 川面に陽が届かないためにちょっと暗い


ゴーロの岩は花崗岩だ ゴーロが続く
左岸支流の滝12m つい登りたくなるような滝だ


頭上には緑が濃く茂っている 水量は多い 時々はっとするような景色が現れる
時々小さな滝やナメが現れる 切り立つ両岸


釜に入り右の岩を上がる 水の勢いは強い
初めての大きな滝 二段7m 大きな釜を持つ 標高1250m付近

深い淵やナメが時々現れる 木漏れ日が水面に落ちる ゴーロ歩きに飽きる頃に現れるほっとする景色 水が綺麗だ

時々に小滝が現れる 深みは碧い 両岸狭まる時もある


















1325m右岸支流の滝15m なかなか美形だ 
支流15m滝出合の先に大きな滝のような気配が


大滝二段10mの登攀
 大滝付近は両岸切り立っており、近くに高巻きルートはない。大高巻きをするとすれば、少し戻って右岸支流の15m滝を上がる他ないだろう。ここは、なんとか二段10m滝を登りたい。左側の方が水飛沫もかぶらず、落ち着いてルート探索できると考えたが、大釜で近寄れない。
 右側は、上段の滝が岩壁に当り遠くからでも分かる白い飛沫を上げている。まずは、カッパをかぶり右側から取り付いた。スラブの下段を上がってから落ち口を渉り対岸へ向かおうとしたが、流れが強く足元がすくわれる。何度か試したが怖くて渉れない。
 右手上部に上段落ち口へ向かうバンドを見つけ、水飛沫の中をスラブを上がりバンドに取り付こうとした。しかし、逆層で岩が脆い上に手が探せずバランスが取れない。落ち口最後の状況も把握できないため、ここは思い切れずに撤退した。この撤退も足元悪い泥壁があり難儀した。フリクションで上がった下段のスラブの下降にも苦労した。思案の末、岩角にスリングを残してようやく撤退できた。
 撤退できた時には、胃が何かにつかまれたように固くなっていた。おそらく、この左岸の試登と撤退に50分は掛かっていただろう。仔細の分からない沢にハンマーもハーケンも持たずに入ったことを後悔した。ただ、この左岸の撤退はあとで正解であったことが分かる。二段10m滝を上がってから左岸のバンドを見下ろすと、バランスの取りにくい難所に見えたからである。バンドの途中で行き詰まると進退極まったと思えたのである。
 この左岸側の難しさに比べたら、釜へ入り右岸を上がる方がまだましだろう。そう思うようにして腰まで釜に入った。水をわずかに浴びながら水流左を這い上がる。中間地点から落ち口へ向かうバンドが見える。不安が無いわけではないが、ルートがここしかなければ上がるしかないだろう。だが、さらに滝左の窪を上がるルートが見えた。岩に土が被った急なザレだが、足場はなんとか得られそうだ。登ってみると、肝心な上部2mには、しっかりした木の根が張っていた。安心して滝上に攀じ登った。
 この二段10m滝にちょうど一時間費やしたことになる。最初から左の窪のルートが分かっていれば、10分とかからないだろう。ここには、先駆者の踏み跡があった。

轟音とともに現れた飛沫の上がる二段10m滝 簡単には登攀ルートを読むことができない 釜に入るのを嫌って右から試登したが途中撤退 撤退に苦労した 高巻きルートが探せないので突破する他ないだろう 腰まで釜に入り左からルートを探る バンドを落ち口へ向かうルートが見えるが、ここは慎重に滝左の窪を上がった


大滝上の唐松尾沢出合 右手にかすかに唐松尾沢の5m滝が見える 本流は左
明るい1355m二俣 正面が峠沢 ナメラ沢を左に分ける



峠沢

さっそく小滝が出迎えてくれる
思いのほかナメは少なくこんなゴーロが続く


こんな滝が現れたあとナメ滝が続く
ゴーロを歩くとようやく沢の雰囲気が変わる



これがあの登山道から見たナメ滝の連瀑だろう 三段目
沢幅に広がる花崗岩のナメ滝の始まり ブッシュが少しかかる


水流が絞られた四段目のナメ滝
五段目の階段状ナメ滝 沓切沢出合手前

五段目のナメ滝左から 奥に沓切沢の小滝が見える 沓切沢出合 沓切沢の小滝 登山道がこの辺りを渡る

沓切沢出合から本流峠沢を200mほど辿ると4mのナメ滝がある
この日当りでお昼にし、大滝で冷えた身体を温める 
今日はここで終了

秋の始まった登山道を降りた
いつもと変わらぬ満足感を胸に













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