伝丈沢右俣 金峰山南面荒川
2014.08.17
高橋
(フェルトソール)

小ゴルジュの4m滝に咲くガクアジサイ 飛沫で濡れている











遡行図  




参考情報
Matsumura’s Mountain World  甲斐荒川・伝丈沢から八幡山
 http://matsumura.jpn.ph/mountain/?p=851
ブナの沢旅  甲斐荒沢伝丈沢左俣〜県境尾根〜チョキ〜金石沢  2012.5.30
 
http://www.bunano-sawatabi.com/2012/05/

コースタイム
伝丈橋9:00−大滝下11:26〜38−二俣(右俣へ)12:15〜22−1750m(右支沢へ)12:58−1900m鞍部13:33−登山道13:44−林道横断14:10−林道14:16−林道終点(行き止り)−荒川右岸林道14:58−伝丈橋16:05




プロローグ
 荒川は、甲州の名峰、金峰山の南面を源頭として南下し、甲府市街を流れて笛吹川に入る長い谷である。荒川とは、荒ぶる川として名付けられたものだと思う。昇仙峡や荒川ダムのさらに上流は屈曲して谷が深い。車から降りて、谷を覗くとその深さと水量の多さ、そして谷をつくる岩の大きさに圧倒される。上流の木陰に見える大きな滝の荒くれにも驚かされる。遡行してみたいと思うが、一筋縄ではいかない豪放さを持った谷だと、直感的に分かる。
 伝丈沢は、西隣の金石沢と合流して、金峰山の南麓、黒平(くろべら)の集落近くで荒川に注ぐ。荒川とは打って変わって穏やかな支流である。黒平の集落は、甲府の北、20km以上も離れた山間部に突如現れる20軒足らずの小さな集落で、他の地域とは隔絶された生活を送ってきたことが想像できる。現在なら甲府から車で一時間ほどの距離だが、車の無いつい最近までは、甲府の町まで日帰りのできない距離にあったことになる。なぜ、そんな隔絶された山間部に集落ができたのか、その縁起が気になるが、今のところは何の資料も得ていない。


山深い土地に突如現れる黒平集落 集落の縁起に興味が湧く


伝丈沢概要
 伝丈沢は、日本の沢である。基本はゴーロだが、ときに花崗岩のスラブが広がりナメやナメ滝を見せる。登攀する滝が少ないために、あまり歩かれていないようである。情報も少ない。滝登りをおもな目的とする現代の大方の沢屋からすれば、滝のない平坦なゴーロを歩く沢はどうしても敬遠されがちである。沢屋からすれば滝は遊具であるし、遊具のない渓は退屈ということになるのだろう。私もそのような感覚を持っているので、その嗜好を否定はしない。だが、前回のコザ池沢といい今回の伝丈沢といい、滝のない沢であっても楽しめる沢はあるものだとつくづく思う。
 滝が少ないとどうしてもその歩行が単調になって、遡行することに飽きてしまう。だが、ゴーロが長くても時々にその渓相が変化する渓は、沢登りの魅力は大きいというべきだろう。日本では、元々谷を歩くのは峠を超えるためあるいは山へ入るための生活の手段であった。谷を歩くのに面倒で危険な滝は無い方が良いに決まっている。そういう意味で伝丈沢は「日本の沢」である。
 金峰山に登ったことのある人は、知っているだろう。五丈岩や頂上周辺の岩は、巨大な花崗岩でできている。この金峰山南面の伝丈沢も花崗岩の沢である。ゴーロを歩いていると突如大きなスラブが現れ、滝やナメを見せる。高さのない滝であっても、スラブに当たって白く砕けたり渦巻いたりする様は美しいものである。標高1570m付近に現れる大滝の花崗岩の造形美は、その豪快さにおいて特筆すべきものがある。大滝の右岸を見上げるとその巨大さに圧倒される。紛れも無く伝丈沢の最も大きな魅力と言えるだろう。
 伝丈沢の大半はゴーロだが、石はみな花崗岩で、濡れているところは茶色っぽい色を見せている。何故、褐色に変化するのは分からないが、経験的によく見られる現象である。ただ、この色の岩は滑らないので安心だ。この花崗岩が風化してできた砂は白い。伝丈沢のゴーロはこの白い砂が埋まっている。小さな滝の釜に沈むこの白砂の流れる紋様はことのほか美しい。
 伝丈沢は、小さな沢だがその水量は予想以上に多く太い流れを見せてくれる。その両岸は開けているところが多く、段丘に広葉樹、針葉樹に下草が生え特有の景観を見せている。釣り人によるものだろう。段丘には、踏み跡がとぎれとぎれに大滝の上まで続いている。ゴーロに飽きてあるいは先を急ぐために、緑の生い茂る段丘を歩くのも伝丈沢遡行の楽しみのひとつである。

入渓から大滝まで
 黒平の集落を過ぎ、荒川林道を右に見送り左の御岳林道を走る。そこから3kmほどで伝丈沢の入渓地点である。伝丈橋手前が三叉路になっている。橋の正面にゲートが有り、伝丈橋を渡った左に大きな駐車場がある。当日は、行きも帰りも自分の車一台だった。駐車場前の舗装された林道はさらに西へ伸びている。
 ゲートを越え未舗装の林道を200mほど歩くとUカーブになる。ここが、入渓地点である。少し分かりにくいが対岸の右岸に踏み跡が付いている。踏み跡は左岸や右岸に渉り、幾つもの堰堤を越えるように続いている。踏み跡を30分ほど歩くと最後の高い堰堤になる。ここは、右岸の小さな支沢沿いに上がり堰堤の上へトラバースした。ここにも踏み跡が付いている。ここから本格的に沢を歩く。じきに、花崗岩の小滝が現れその先には大きな滝が見え、先々の期待を盛り上げてくれる。


右岸左岸の踏み跡を辿っていくつも堰堤を越える 堰堤の間には、こんな流れが続いている

堰堤をすべて越えてようやく入渓 遠くには滝が見え期待させる

5mナメ滝 最初の滝 水量が多いせいかヒョングリを見せていた





















 歩くにつれて右岸や左岸が開け、段丘を見せるようになる。概して沢幅は広く明るい。ときにはインゼルが流れ、ときには草原の丘が出現する。両岸切り立つ所は無く暗い雰囲気は無い。あるとすれば大滝前の花崗岩の屹立地点だけである。ここだけは両岸迫り深山の渓谷の雰囲気を十分に見せてくれる。
 ゴーロ歩きに飽きた頃、あるいは歩きにくいゴーロにさしかかった時には、下草やシダ、苔の生えた段丘に上がり歩を稼ぐ。ヤブのない緑濃い段丘を歩くのもまた楽しいものである。いたる所にビバークポイントはある。釣り人によるものだろう。いくつか焚き火の跡も見つけた。


右岸が開けた中を沢は流れる
ゆるやかなスラブのナメ滝をつくる

豪快に流れる小滝


広い釜に白砂が溜まっている 小さいが水量の多い見事な滝だ
ナメそしてナメの小滝が続く おおう緑も美しい


段丘に踏み跡が続く どこでもビバーク可能
1420m付近 左が高原状に開けていてのどかだ

釜には白い砂が広がっている


水量が多いせいか豪快な流れ
小ゴルジュ4m滝 1500m付近 右のバンドを上がった

 伝丈沢は、傾斜がゆるやかなので高度計によって正確に現在地点を知ることは難しい。支沢の合流地点でこまめに現在地を確認するのが良いだろう。
 標高1545mでしっかりした沢を右岸から迎え、すぐに1560mで左に3mほどの滝を持った支沢を過ぎると幅広滝が二つ続いた上に大岩の先の木陰に大きな滝が見える。これが伝丈沢の大滝である。上下二段で20mはある。左右は、まるで花崗岩の石切り場のような様相を呈している。
 この大滝の直登は想像もつかない。高巻くなら右手からだと思うが、急な斜面の上、上部は岩場が取り巻いており、そこを簡単に越すことはできない。巻くとしたら落ち口高さで低くトラバースする以外にないが、そんな狭い範囲を安々と通してくれるはずもない。そう思ったが、左岸を上がってみると、落ち口の高さにようやく人ひとりを通すバンドが伸びており、絶妙な巻き道ができていた。ここには相当古い青いテープが二本下がっているが、力をかけるのはよした方が良いだろう。木の根が随所に伸びているので、これを上手に使って上がり落ち口へトラバースする。きわどいところはない。初心者がある場合は、ロープを出した方が無難だろう。単独行のためか、大滝の高巻きは10分ほどで終わった。




ナメ滝がいたるところに現れる
幅広の3m滝 その先に2m滝が続く


ナメの先にスラブの幅広2m滝
大岩の先に大きな滝が見える 大滝か

前方、樹間に映える大滝 手前は前衛の滝4m



























大滝と右岸に屹立する花崗岩 豪快な景観に圧倒される

高巻き途中から見る大滝



















大滝上から1670m二俣(右俣へ)、1750mまで
 大滝の上から1670mの二俣までは、沢幅が狭くなりゴーロが続く。左岸から小さな枝沢が入り、その先で沢が大きく左へ曲がるところで小さなS字状のナメとなる。1670mの二俣から八幡山へ向かう左俣と分かれ右俣へ入る。水量比は1:1だ。右俣は、二俣から見える3m滝から先で、連続するナメとナメ滝が続く、今度の遡行のハイライトが展開された。ここは、予期していなかっただけに思いがけない喜びだった。
 今回は、時間があれば右俣の1800m付近にあると思われる「幻の大滝」を確認したかったが、1750m付近で急に雲行きが怪しくなり、大滝の確認をあきらめた。午後から天候不安定になり「ところにより雷と雨」の予報があったからである。大滝を見て楽しむには、現地前泊で早立ちする必要があるだろう。


大滝上の沢 巻き道の上から 1620mの右岸支流がわずかに見える 左岸の踏み跡を急ぐ

1670m二俣 ここは右俣へ入る


1670m二俣(右俣へ)から1750mのハイライト
1670m二俣を右へ入るとすぐ3m滝 ここからハイライトが始まる


ときには幅広のナメ滝が現れたり
沢の幅は狭くなるが穏やかなナメ滝や トイ状滝が現れたり

屈曲したトイ状滝が現れたり 段々のナメ滝が続く

1750m手前のナメ滝


















1750mで左岸支流へ、登山道まで
 1750mでは、左岸から水のある支沢が入る。今日は、この支沢を上がり1900mの鞍部を越えて登山道まで下がる予定だった。この支沢へ入ると沢は荒れ始め足元不安定な流れが続く。高低差40mほど上がると右から水のある明るい急な枝沢が入ってくる。本流は沢形のしっかりある左だが、この先で白ガレの行き止まりになるようだ。ここは、右手の明るい急な枝沢に入り高度を稼ぐ。息を切らせながら登ればようやく傾斜が緩くなり、辺りが膝丈の低い笹原になる。ヤブがないので歩行は楽だ。笹原の間を流れる源流をたどり1900mの鞍部に出た。ここは、見通しの効く笹原で静かな気配である。
 登山道へは反対側の窪を下がればすぐである。ただ、登山道の踏み跡は薄いので、高度計があれば標高を確認して、踏み跡を見逃さない慎重さが必要だ。登山道に入ってしまえば、ピンク色のテープがあるので迷うことはないだろう。だだ、何の標識もなく導くテープが、目当ての登山道かどうかの確信が持てず、林道に出合うまでは落ち着かなかった。



1750mの左岸支流へ入る 荒れてくる
1790m付近で右の明るい枝沢へ入る 支沢本流は左

荒れた沢を辿るとこの上で傾斜が緩くなる 1900m鞍部の笹原 見通しは効く


尾根付近を通る林道
踏み跡薄い登山道にはピンクのテープが下がっている



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