2014.07.24 渓流シューズのこと
                   渓流シューズのこと(続)へ

 先日、マスキ嵐沢へ行った時に、12m滝の上の7m滝から懸垂下降して降りてきた二人組があった。出で立ちからすると、どうやらアルパインのトレーニングに沢の遡行下降をしているようだ。ふと見ると足には運動靴らしき白い靴を履いている。こちらは沢屋だから、「渓流シューズは履かないんですか。」と声を掛けた。二人組は、「すべらない靴を履いているんです。」と、白いスニーカーのような靴の白いゴム底を見せてくれた。「へー、フェルトが良いに決まってるのに」と内心思いながら、無事を祈って二人とは別れた。

 先日、テレビの番組で「滑らない靴」という番組をやっていて、驚いたことがある。日進ゴム(株)で製造している作業靴、ハイパーVソールだ。磨かれた鉄板の斜面に油を流し、その上をハイパーVソールの作業靴で歩いても滑らずに上がれるというものだった。もちろん通常のゴム靴では、滑って歩けない。すごい靴があるものだと思った。当然沢屋だから、渓流シューズのラバーソールの代わりに使えるのではないかとすぐ思った。

今春5月から履き始めたキャラバンKR_1R ビブラム製のラバーソールだ


 ラバーソールの渓流シューズをこの春から履いている。キャラバンの2014年新製品、KR_1Rである。キャラバンは、昨年まで製造していたアクアステルス(ファイブテン製)のラバーソールを製造中止にして、今年はビブラム製のイドログリップソールを新製品として製造し始めた。ラバーソールを検討していたので、ちょっと高いがこのキャラバンの渓流シューズ(KR_1R)を買った。値段は1万6千円(税別)なので、恐ろしく高い。確かモンベルでもラバーソールの新製品を1万円(税別)で出したので、これはキャラバンの負けだと思う、と別のところで書いた。
 ラバーソールを履いたのは初めてなので、キャラバンのKR_1Rに期待した。濡れたスラブでの摩擦力を当てにしたのである。ラバーソールの効果と欠点についてはヒロタさんのHPで良く語られている。ヌル苔では滑るが、苔の無い岩ではしっかりしたフリクション(摩擦力)を期待できるというものだ。その他の長くフェルトソールを履いてきた沢愛好家の話としては、ラバーソールの評判はあまり芳しくなかった。そのため、私も長いことフェルトソールで通してきた。だが、「その空の下で。。。」のヒロタさんのHP"沢靴について"(2010年10月28日)には、ラバーソールとタワシの組み合わせがベストというようなことが書かれていて、いつか履いてみたいと思っていた。

 キャラバンのKR_1Rを履いた感想は、1)ヌル苔があれば良く滑る。2)苔がごく薄い場合は滑らない。3)濡れた岩でも苔がなければ高い摩擦力が得られる。4)乾いた岩では、抜群の摩擦力が得られる。だいたい、こんな感じだ。アクアステルスを評価したヒロタさんの結果とあまり違わないと思う。
 ヌル苔が付いている岩では、フェルトソールではそこそこの摩擦力を確保できるが、ラバーソールではよく滑る。ラバーソールは、滑る滑らないがはっきりしている。という感じだ。長いこと沢を歩いていれば、岩に付いた苔の様子や足を置く角度によって滑るか滑らないかはだいたい分かる。だから、沢を長く歩いている者にとって、ラバーソールでの通常の歩行には問題はないだろうと思う。
 滝の登攀でも、スタンスをタワシで擦ることを前提にすれば、摩擦力はしっかりと得られるので、面倒ではあるが問題はないだろう。苔の無いところでは、濡れていてもラバーソールはフェルトソールに比べて優れた摩擦力を示すので、スラブなど磨かれた岩の登攀にはフェルトソールより向いている。
 タワシというと亀の子タワシをイメージするが、現在私の使っているのは、頑固な汚れを落とす研磨剤入りのナイロンタワシだ。苔の落ちが良いし軽くて水の乾きが早い。

 キャラバンの渓流シューズKR_1Rは、少し高いのではないかと思っている。スポーツ用品というのは、すべからくそういう感じがする。速乾性の肌着なども市販の製品に比べて、二倍や三倍の値段で売っている。沢の装備は、デザインが重要とは思えない。性能が備わっていればそれで十分である。
 さてここで、ようやくまわりくどい話を完結しよう。先に書いたマスキ嵐沢で出会った二人組の履いていた靴は、日進ゴムのハイパーVソールではかなったのか。そう思ったのである。あるいは、他社製の同じような製品かもしれない。ミドリ安全では、”滑りに強い靴”「ハイグリップシリーズ」を世に出している。

 われわれ沢屋は、どうしても以前から渓流シューズを作ってきたキャラバンや秀山荘、モンベルといった決まったメーカーにしか自分の求める製品がないと思いがちである。手短に言えば頭が固い。だが、先に記した「油を塗った鉄板」というのは、「ヌル苔の付いたスラブ」と考えても良いのではないか。とすれば日進ゴムのハイパーVソールは、われわれ沢屋にとって画期的な装備になるかもしれない。「滑りにくい、擦り減りにくい、安い、軽い」と理想的な渓流シューズになるかもしれない。なぜこんなことに気付かなかったのだろう。アルパインのある種の人たちは、すでに実践しているかも知れないのに。自分の世界の狭さにあらためて気付かされたように思った。もしこの予測が確かであれば、従来のフェルトソールやラバーソルの持つ欠点をカバーした革命的な渓流シューズが現れるはずである。
 というわけで、このハイパーVソールのスニーカー(HyperV#003、片足265g)を買った。靴代、送料、税金を合わせて、3,402円だ。作業靴なので驚くほど安い。このスニーカーを履いてヌル苔の岩を登ってみたいと思う。その結果をまたこの欄で報告するつもりだ。ご期待下さい。
 「そんなの待っていられない。」という人がいたら、ぜひ自分で確かめて下さい。靴は安いです。沢靴として本当に使えるかどうかは、保証の限りではありませんが。



ハイパーV#003 靴底は、何の変哲もない 色はグレー、ブルー、エンジの三色だ この型番は先芯なし 


(注1)
 靴の選定にあたっては、日進ゴムもミドリ安全も作業靴、安全靴のメーカーであることに、注意しなくてはならない。爪先を保護する鉄板型や樹脂型が入った(先芯入り)製品が主流である。沢歩きには、それでも良いが保護型(先芯)が入らないタイプもあるので、そちらのほうが良いと思う。ネオプレンの靴下を履くなら、その分少し大きめの靴を買う必要があるだろう。

(注2)
 キャラバンの渓流シューズ(KR_1R)は、一回遡行したところで爪先のラバーソールが8mmほど剥がれた。製品のクレームを出した。新しい製品に変えても同様の問題が起きるかも知れないとして、メーカー修理で接着してもらった。初期不良だと思われるが現在流通している靴には、この問題があるかも知れない。要注意だ。なお、修理後は問題なく使っている。



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