袴腰岳 愛鷹連峰
2014.01.19

高橋

馬場平に向かう南斜面に、こんな苔が生えていた














参考情報
沢の風と空」2013.02.03 袴腰岳



コースタイム
水神社9:52−登山口10:33−愛鷹山北鞍部11:4412:03−馬場平12:35−袴腰岳13:05−一服峠13:3037−林道14:24−水神社15:00


概念図




ルート図



プロローグ
 いつ降ったのか、富士山は裾野まで白い衣装に包まれている。風が強いのだろう、西斜面の雪が飛ばされ、ブルドーザーの轍が白くつづら折れに見える。愛鷹連峰に近付くにつれて、富士山は徐々に連峰の陰にその姿を隠していく。
 一年経ってまた愛鷹連峰に戻って来た。ここを歩くのはいつも冬だ。海に近いとはいえ、北寄りで標高も高い。1月ともなれば、遠目にも稜線近くは白く見えるようになる。西風の影響なのだろうか。海寄りの天気が良くても、稜線に雲が被っていることがある。今日の朝方もそうだった。だが、8時を回る頃には連峰の雲はとれた。迷いが吹っ切れ、今日は愛鷹連峰へ向かうことにした。
 いつものように水神社前の駐車場に車を置いて歩く。水神社から中腹の林道へ入り、30分ほど歩いてから愛鷹山の北鞍部へ上がるルートを採る予定だ。鞍部から右へ折れ、袴腰岳、位牌岳を目指す北向きの縦走ルートを歩くことを考えた。だが、家を出たのが少し遅いので、どこまで歩けるかわからない。場合によっては愛鷹山を折り返しても良いと思った。

水神社から愛鷹山北鞍部
 水神社から続く立派な林道は、融雪が凍り付いてよく滑る。雪が残っている所には今日の足跡が幾つもついている。南の山でも雪の山を経験できる愛鷹連峰は人気があるようだ。愛鷹山の北鞍部へ向かう登山口から急な林道を登り、やがて登山道へ入ると踏み跡が結構たくさんある。どれも新しいものだ。体にあまり負担をかけないように、ゆっくりとしかしペースを崩さずに歩く。急な林道を登ったおかげでもう身体はすっかり温まっている。途中、中着を一枚脱いだ。
 スローペースのつもりが、じきに同年輩の二人組を追い越した。行き先を問うと、「愛鷹山をピストンする」という。そうだろう。このペースでは、縦走するには少し時間が遅い。だが、気心の知れた友と四方山話をしながらスローペースで歩くのは楽しいだろう。独りで歩く気軽さと較べて、どちらが良いのだろうか。若い時には、一人で歩くことなど無かったのに、最近はいつも一人だ。気の合う友人たちは、30代から40代にかけて皆それぞれに仕事に時間を取られ、気が付いた時にはかなりの歳をとっていた。「沢は面白いぞ」と声を掛けたが、山に戻ってくるものは無かった。若い時に一心同体のように活動しても、歳を経るとみなそれぞれの人生のヒダを歩んでゆく。むしろ、再び山へ戻ることの方が珍しいのだろう。
 ヒノキ林を縫う薄暗い山道が笹混じりの明るい雑木林に飛び出すと、青い空が広がる。稜線の鞍部はすぐだ。ここでも、二人組に追いついた。鞍部で声を掛けたが、一人は外国人のようだった。一人がしきりに、遠望できる白い南アルプスを見ながら英語で話しかけていた。鞍部からの展望は素晴らしい。左手に駿河湾が広がり、右手にひときわ白いピークの連なりが遠望できる。南アルプスの山々だ。どこからどこまで見えているのだろう。こういう時、山座同定ができないのを残念に思う。
 鞍部は西風にさらされるので、来た方へ少し戻って早い昼食にする。見通しの良い東向きの斜面に座って弁当を開いた。おいしい。最近はとみに食欲がある。斜面には明るく日が差し、まだらに雪が融けている。東遠方に箱根の山々が見える。駒ケ岳の頂上に四角い建物がわずかに見えるのでそれと分かる。その左手の二つ目のピークが神山だろう。明神ヶ岳から明星ヶ岳へ連なる長い尾根が白い雪を被っているのが分かる。とすれば、金時山はどれだろう。こうしてみると、近場のあらかたの有名どころの低山を歩いて来たことに気付く。



朝日を浴びる雪の林道をしばらく歩く

山道へ入ると雑木林になるが、やがてヒノキ林になる


ヒノキの林になると日影になり雪が多くなる。ヒノキ林はかなり長く続く


いい加減ヒノキ林の暗さに嫌気がさした頃、景色が開ける。背の低い笹原とブナが現れる。じきに稜線鞍部だ。

鞍部が見える 日向なので雪が融けている



南アルプスの白い山波が見える

鞍部から見える富士市街と東駿河湾 見事な眺望が得られた



愛鷹山北鞍部から袴腰岳、一服峠
 天気も申し分ないし、思いのほか早く稜線に着いたので、縦走することにした。鞍部を北へ折れ縦走路に入った。しばらくは、雪が融けてぬかるんだ南斜面の急登である。毎年思うのだが、ここは難所だ。滑りやすい。息が切れ、何度も立ち止まりながら登る。振り返ると愛鷹山が対面する。左手後方に駿河湾が、左手前方に南アルプスが、思うように遠望できる。これだけきれいに見えたのは初めてだ。特に駿河湾と富士市街をこれだけ明瞭に鳥瞰できたことはない。
 丈の低い笹原の苦しい急登をこなすと、やがてなだらかな雪原になる。馬場平だ。ここは、だだ広い土地なので登山道を見失いやすい。今日は、踏み跡がしっかりあるので問題ないだろう。登り始めた時の雪の多さから、稜線の雪の量を心配したが、裾野と変わらないので安心した。15センチぐらいだ。枯れ木の間から、陽が差して雪面を眩しく照らす。真近で、突然動くものがあった。大きなシカが白い尻を向けて逃げてゆく。
 馬場平の端からは、枯れ枝の向こうに富士山の上部が見えてくる。一度鞍部まで急坂を下り、それからは長い登りになる。急斜面でないのが救いだが、これまでの体力消耗で息は切れる。切れ落ちる左手からは、強い西風が頬に当たり、ここは冬の山であることを何度も告げてくる。途中から尾根は西寄りに向きを変えるせいだろうか、方角が違うと思う。どこかで尾根を踏み間違えてしまったのだろうか。そんな錯覚を起こしながらも、なんとか袴腰岳に立って、ようやく安心した。ここには立派な看板がある。と、思いがけなく位牌岳の方面から一人の登山者が登ってきた。一言あいさつを交わしただけで、今自分が歩いてきた方角へそのまま下って行った。


馬場平への登りで振り返ると愛鷹山が対面する 逆光だ

急登をこなすと、ようやく馬場平になる 平らな土地なので迷いやすい


馬場平を行くと富士山が初めて姿を現す

馬場平の急坂を下って尾根歩きになる



途中、振り返ると下ってきた馬場平が見える

駿河湾が黄金色に輝き始めてくる 感動だ



袴腰岳には、立派な看板がある 一人の登山者とすれ違う
標高も高くなるので雪も多くなる 袴腰岳は近い


 袴腰岳への登りで今日の勝敗は付いていた。位牌岳手前の分岐まで登る気力はもうなかった。手前から下山するとしたら、一服峠を下がるしかない。だが、峠の位置がこの雪で分かるだろうか。峠と名前が付けられているのに、そこは鞍部ではない。峠には小さな標識があるはずだが、それを見逃せば下山地点が分からなくなるだろう。そんな心配をしながら、強くなってきた西風の稜線を歩いて行く。が、思っていたより早く一服峠の標識を見つけた。標識に、右手下り「水神社」とある。踏み跡はしっかりある。雪の愛鷹連峰は、思っていた以上に歩かれているようだ。
 風の強い稜線から少し逃げて、雪の原に休んだ。そこは、もう風もない。相変わらず天気は良く暖かい日差しが体を温める。こんな所でストーブを焚き、熱いコーヒーでも呑んだら、さぞ気持ちが良いだろうと思う。が、そんな気の利いたものは持って来ていない。冷たい水を流し、パンを口に入れて下山だ。


稜線東側のゆるやかな斜面 西斜面は切り立っている

左手前方に富士山が大きく見えてくる。 手前は鋸岳 尖頭の連なる尾根歩きはいかにも難しそうだ 歩くとすれば季節の良い時だろう。 登山道が荒廃しているので、「入山ご遠慮ください」の看板があるようだ。 右手には、位牌岳が姿を現した。この位牌岳の先に鋸岳がある。





一服峠の標識 右手が「水神社」となっている 今日の山歩きはここで終り
左手西側からは強い風が吹いてくる



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