2013.12.26 愛する小道具たち3 ヘッドランプ

愛用のPETZLのヘッドランプ















 若い時に山を歩いたあと、相当長い間、山から遠ざかっていた時期がある。その間の山道具の進歩には、目をみはるものがある。雨具そしてテントなどがその顕著な例だと思うが、中でもヘッドランプの進化には驚くものがある。1970年代、テントでの照明はロウソクか懐中電灯だったと思う。今ではロウソクを持って歩く者は、まずないだろう。山小屋に発電機は無く、灯油ランプが使われていた時代だ。
 当時、現在のヘッドランプのようなものはなく、携帯用の電灯は手持ちの懐中電灯だけでだった。これは、単一の乾電池を二個入れる筒型の電灯だった。ごく最近まで使われて来たが、その信頼性はすこぶる悪かった。まず当時のマンガン乾電池は、かなり早く消耗してしまう。今では記憶も定かではないが、連続して使える時間はおそらく2~3時間程度だったと思う。乾電池を新しく換えていっても、一回の山行きで、電球が暗くなったりするようなことが度々あった。光源の豆電球も切れ易く、換えの電球を持っていないと安心できなかった。さらに、この懐中電灯の欠点は、どうした訳かいつも突然スイッチの接触が悪くなり、点灯しなくなることだった。
 南アルプス荒川三山を椹島から千枚岳へ向かった時に、蕨ノ段を過ぎ千枚小屋に近くなった辺りで、道に迷ったことがある。いつの間にか、脇道へ入ってしまったらしい。歩くに連れて踏み跡が薄くなってきた。間違ったかなと感じるようになってからも20分ぐらいは突っ込んだかも知れない。次第にヤブが絡むようになり、間違えたことは確実になった。すでに日暮れが近かった。慌てて戻ることにした。どこで間違えたのか分からなかったので、どれほど戻ればよいか見当がつかない。道迷いの経験はあまりなかったので、四人いたメンバーの誰もが内心穏やかでない。かなり慌てた。戻る間にも辺りは暗くなってきた。本道を探せるのだろうか。
 30分ほど戻ったろうか。完全に暗くなる前に、幸いに本道らしき踏み跡を見つけた。我々は登山道の左手の踏み跡に入っていたらしい。いかにも間違えそうなところだった。この本道らしき踏み跡を辿ることにした。だが、それが本道かどうか、いまひとつの確信が持てなかった。闇が辺りを支配して来たので、懐中電灯を出した。今日中に、懐中電灯の明りが弱くなる前に千枚小屋に辿り着けるだろうか。そんな心配をしながら、すっかり暮れた夜道を急いだ。20分、30分と歩くと、ようやくこの踏み跡が登山道だという確信を持った。長く続く山道を辿ると、やがて傾斜が緩み、樹木が消えて草地に出た。ここは見覚えがある。確か、この先で道は左へ曲がり、少し下れば千枚小屋があるはずだった。その通りになった。千枚小屋の窓の明りを認めた時には、一気に力が抜け安堵した。幸いにも懐中電灯の明るさにもまだ余力が有った。途中、電池が無くなるのを始終気にしなければならなかったのだが。
 現在、広く使われている発光ダイオードを用いたヘッドランプでは、こんな心配をすることはない。電池が新しければ、100時間過ぎても明かりが消えることはない。時代が変わったと思う。もう、電池の消耗を気にする者はない。仮に次の日の朝まで歩いても、明りは消えることがないだろう。フィラメントが消耗して電球が切れるという欠点もない。ものの本によれば、発光ダイオード球の寿命は10万時間という。計算してみてほしい。これは、一年間で100日の山行をすると仮定して、一日に10時間点灯したと考えれば100年、つまり一生使ってもダイオード球は切れはないということだ(10h/日✕100/年✕100年=100,000h)。その前に、ヘッドランプの外装部品が壊れてしまうだろう。
 谷川連峰の赤谷川笹穴沢を歩いた時、源頭近くで日が暮れたことがあった。当日下山の予定だったので夜間歩行した。まだ滝が残っていて登攀も必要だった。もちろんヘッドランプのお世話になった。行動中、少しも電池の寿命を心配することはなかった。だが、強力なヘッドランプとはいえ、夜間の滝登りは難しい。滝の全容を照らすことができないので、登攀ルートを判断するのが難しい。登攀中はホールドのある足元に明りが当たらない、など夜間の遡行は難しく危険であることを知った。また、夜間に薄い踏み跡を辿ることも難しい。いくら明るいヘッドランプで照らしても、日中のように眼で微妙な踏み跡を辿ることができず、踏み跡を外しても気が付きにくい。この日、踏み跡を辿り、下山して越後湯沢の駅についたのは、夜11時を過ぎていたと思う。その日は駅前に野宿となった。ヘッドランプの有り難さとその限界を知った貴重な山行であった。

 現在使っているヘッドランプは二代目である。一代目は、うっかり焚き火の中に落として燃やしてしまった。現在使っているpetzlのランプは、四連のダイオードが付いている。明るさ三段、点滅一段に変更できる標準的なヘッドランプである。光源の透明なカバーを紛失し、外装に割れが入ってしまっているが、まだまだ何の支障もなく使える。おそらくは、自分が山から足を洗う時までは。
 ただ、これらのヘンドランプは、その電池の消耗が少ないという長所の故、いたずらに点灯しすぎるという「弊害」もある。電池の消耗を気にしないために、焚き火の炎でくつろいでいる時でも、ついヘッドランプを点けっ放しにしてしまう。対面の者は眩しいし、焚き火の情緒が減じてしまう。食事を摂りながら焚き火を囲むので、手元の料理を明るくしたいためだと思う。そういう時は、せめてヘッドランプを下向きにしたいものだ。


充電池eneloop 現在はパナソニックのブランド


 ヘッドランプの電池のことをついでに言っておこう。乾電池の性能についていえば、これも隔世の感がある。マンガン電池、改良型マンガン電池、アルカリ電池、と高性能の電池が開発されてきた。現在では充電式の乾電池(充電池)もある。エネループ(eneloop)は、元々サンヨーの商標だったが、2012年からパナソニックのブランドになった。エネループは、ニッケル水素電池と言われる充電式の乾電池で、それまで普及していたニッケル・カドミウム充電池の2.5倍の容量(性能)がある。現在私は、ヘッドランプの単4電池などは、この充電池を使っている。一個あたりの価格は高いが、2,000回の充電に耐えるというから、コストにはダントツに優れている。まだ使っていない人があればぜひお薦めしたい。
 とはいえ、愛用のヘッドランプは二回の充電で一シーズンは充分持つので、2,000回充電できると言われても、使い切れない性能ということになる。若い者こそ、充電池を使うべきか。




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