沢の散歩02 玄倉川大野山沢 丹沢山塊
2013.07.27

高橋



 深夜、突然の大音響で起こされた。雷のようだ。先程から蒸し暑さで寝苦しいので、うとうとしていたところへ前触れもなく「ガーン」と来た。雨もぱらついていたようだったが、雨はあがっていた。蒸し暑さと突然の雷鳴で、それからは珍しく眠られない夜だった。朝、西丹沢へ出掛けることにしていたが、天候はどうなるのだろうか、と思いながら、またうとうとした。目が覚めたら、空は白い濁りを帯びていたが、明るい空だった。出かけよう。
 丹沢湖の東端、玄倉の先に大野山沢がある。とは言っても、誰も知らないだろう。きのう、地形図を見ていて、探し出した小さな沢である。地形図にも沢の名は入っていない。丹沢湖の東端には、丹沢の名渓、玄倉川が流れている。大野山沢は、この玄倉川の名の知られていない支流である。以前、玄倉川の河原でキャンプしていた人々が、増水によって流され、13名の犠牲者を出したことがあった。大野山沢は、この現場に右岸から入る支流だ。この事故は、「玄倉川水難事故」として、テレビ中継されたので、記憶している人もいるだろう。1999年というから、もうあれから14年も経ったことになる。経る歳の速さは、驚くほどである。
 「あす丹沢へ行ってくる」という私に、家族はもう呆れ顔である。「どうぞ、勝手にすれば」、「途中で倒れて帰れなくならないでね」など、「激励」の声が聞こえて来る昨日の会話だった。誰も「付いて行く」とは言わなかった。貴重な家族の時間を犠牲にして、付き合ってもらうような山行ではないので、私としては、その方が気が楽だった。「単独行」、なんて魅力的な言葉なのだろう。

 玄倉の丹沢ビジターセンターに車を止め、ダム湖に沿って歩き始めた。他の関東のダムと同じく、水が少なかった。近年では見たこともないぐらい、湖底の泥が乾いていた。玄倉第1発電所を左に見て、連続した三つの堰堤を過ぎると、玄倉川は大きく弧を描いて屈曲する。最後の堰堤の先で河原へ下りられる踏み跡がいくつかあるが、道路が左へカーブするところから早々に河原へ降りた。広い河原になっている。夏の休日になると、この辺りで泳ぐ人は多い。だが、今日は人影がない。水量が少ないためだろうか。
 玄倉川が、右へ大きく湾曲する右岸に大量の岩石の押し出しがある。膨大な量だ。地形的には、この辺りが大野山沢のはずだが、水の流れる形跡はない。乾いた岩また岩である。
「ん、失敗だったか。」、大野山沢は、地形図では立派な水線が引かれた沢である。こんなはずではなかったのだが・・・。本流の上流を見ると、50人以上の親子が、川遊びをしている。場所が違っているのか、少し歩いて水のある沢の出合を探してみたが、岩石押出のところ以外に深い切れ込みはない。ここまで来て、帰るのも癪だ。



丹沢湖も渇水 湖底が見えている 玄倉第1発電所の先に堰堤が続いて見える


碧い水がきれいだ
堰堤の上で玄倉川本流へ降りる ゆるやかな流れ


上流では子どもたちが川遊び
大野山沢出合い 大きな押出しが見られる


 押出しの上には水が流れていないとも限らない。そう思うことにして、乾いた石を踏んで急な斜面を登って行った。最初の二俣370m地点で、岩の押出しは左の枝沢のものであることが分かる。右が大野山沢だ。石に埋もれた小さな堰堤が現れると、わずかな流れが現れた。「お、これはいい。歩けるかもしれない」。沢には両岸の樹木がかぶり始めて、ようやく沢らしくなってくる。
 だが、その先で、期待は失望に変わる。突然に傾斜がきつくなり、沢はトイ状の二段滝になる。2m滝ほどの上にトイ状の6m滝がつながっている。この6m滝は、チムニーのようだ。ぎりぎりのホールドはありそうだが。少々手こずるだろう。ロープを持って来ていないので、下降は難しい。両岸は急峻で高巻きも難しい。6m滝の先は左へ曲がり、その先は見えないが、その上も同じようなルンゼ状のようだ。覗いてみたい気もしたが、まだまだ、右肩の筋肉は回復していない。無理するのはやめておこう。すぐ結論が出た。
 大野山沢の散歩はあっけなく終わった。この文章を読んでもらっている人には、気の毒な気もするが、まあ仕方ないだろう。しょせん、散歩の記録なのだから。沢の源流の方角で雷鳴があった。どういう訳か、にわかに雨粒も落ちてきた。「帰れ」ということなのだろう。完全に門前払いをされて、残念だったが、次の散歩に期することにした。あっけなく、大野山沢の散歩は終わった。雷鳴に押されるようにして、ビジターセンターの駐車場へ向かった。

大野山沢370m二俣 左の枝沢

薄暗い大野山沢本流には二段の滝が 2m、6m滝
下は登れるが、上の6mが登れない 高巻きもできない あっさり沢の散歩も終了

帰路 370m二俣から対岸を 日影山?が見える



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