2013.02.16 登山靴のこと


 靴を買った。登山用の靴といっても様々でメーカーは幾つもある。スポーツ用品というのは、何にしてもメーカーが多くいざ購入しようとすると、いつも迷ってしまう。以前は、MERRELLのシューズを履いていた。この靴は、自分の足にフィットして気に入っていたが、爪先のゴム部がすぐ剥がれきて不満だった。この靴は、もう10年近く履いているはずで、人工皮革にひび割れが出てきて、もう限界だと思っていた。50歳を過ぎた頃に、再び登山を始めたときに購入したものだ。
 MERRELLの靴は、ほとんどデザインを変えずに、現在でも売っている。この点には感心する。だが、爪先のことが気に入らず、候補から除外した。こんど買った靴は、キャラバンのGK62だ。トレッキングシューズの仲間に入るもののようだ。何も買ったことを自慢できるような製品ではないが、自分のように冬山をやらず、夏は沢ばかり歩いている者にとっては、必要で十分な性能であると思う。何しろ登山靴で登るのは、雪のない低山ばかりなのだから。日本のメーカーというのも良い。修理工場を持っているので、長く履こうと思えば履ける。
 キャラバンの靴といえば、1960年代後半に地方の学生だった頃、初めて履いた。当時の本格的な登山靴は、誂えて作るとても高価なものだった。なかなか学生には手の出ないものだった。キャラバンの登山靴は、ナイロン製のアッパーで男性用としては青一色だった。今では値段を忘れてしまったが、量産品で比較的安く手に入る価格だったのだ。いわゆるキャラバンシューズだ。みんなその靴を履いたものだ。だが、学生も三年次、四年次になると、格好を付けたくなるのだろう。高価な革製の登山靴を履く者もあった。
 私は、金のない学生だったのでとてもそんな高価なものは買えなかった。沼津の会社へ就職して山を続けた頃には、たしか中国製の黒皮の「登山靴」を履いたように思う。街の靴屋に、タウンシューズとしては使えそうにないゴツイ靴が売られていたのだ。登山靴として販売してはいなかったので、もしかしたら登山靴ではなかったのかもしれない。だが、見た感じも造りも、登山靴そのものだった。今のように、ブランドを気にして買うような時代ではなかった。もしかして、それは、軍隊用の靴だったのかもしれない。丈夫で靴底がなくなるまで履いた。1万円しないで買えたと思う。その後、日本で売られるシューズは、たいがい中国製になってゆくのだが、これがそのはしりだったのだろうか。
 勤めてから金も少し貯まったせいだろうか、沼津に住んで5年もしてからやっとスウェードの重登山靴を買った。当時の価格で、確か3万円ぐらいだったので、今の金額で言えば10万円はゆうに超えていただろう。厳冬でも使えるものだったが、重くて硬くて夏山には使いにくい大げさな靴だった。格好は良かったが、その靴を買ってからいくらもしないうちに山を登るのをやめてしまった。
 それから、20年ぐらい経ってから、物置の掃除をしたときにその靴が出てきた。さぞやカビだらけで使いものにならないと思って見たが、当時の品質そのままの輝きを放っていた。靴底を張り替えればいくらでも履けただろうに、その時はもう登山をする気はなかったので、惜しげも無く燃えるゴミに捨ててしまった。それから何年もしないうちに、また山を歩くようになるとは、なかなか思うようにいかないものである。
 キャラバンといえば、普段履いている渓流シューズもキャラバンである。渓流シューズの中では固めのようだが、沢を始めた時に最初に使ったのがそれだっので、いまでも愛用している。渓流シューズは、ほぼ毎年二足を履きつぶすので、私は良い客ということになるのだろう。さすがに登山靴のメーカーである。しっかりと足を包んでくれる頼もしさがある。外国製のメーカーが幅を利かす登山靴やスキー用品だが、沢登りのシューズまでは手が出せないのだろう。もっとも技術的な面ではなく、採算面の問題なのだろうが。

キャラバンGK62


 冬も寒さが緩んでくると、自然に春先のことを考えてしまう。先日、渓流シューズのフェルトソールの張替えをキャラバンの修理工場へ頼んだ。二足頼んだ内、一足は他メーカーのものだったが、キャラバンのOEM製品であるとのことで、同じ値段で張替えをしてもらうことができた。一足の張替えが6200円(税別)ということだった。
 考えてみれば、国内でしか売れない、輸出されない渓流シューズの生産量など知れたものだろう。日本の中でも5社ぐらいのブランドで売られているが、作っているのは全部キャラバンということもあるかも知れない。需要が低迷して採算が合わなくなり、メーカーが渓流シューズを作らなくなる。そんな夢想をすることがある。そしたら、沢登りというジャンルは消えるのかな。そんなつまらない、どうでもいいことを考えるのは春めいてきたばかりではなく、脳が相当老化してきた証拠かもしれない。

 さっそくキャラバンGK62を履いてみた。すこし自分の足には幅広だが、余裕があっていい。しばらくこの靴のお世話になるだろう。だが、もう登山靴を買うのはこれで終わりだろうというさびしい感慨もある。若い時に履き始めた登山靴がキャラバン、沢靴もキャラバン、そして、終わりもキャラバン。偶然ではないだろう。でも、何故か歳取ると感傷的になるなー。



Home