両毛国境縦走1 足尾山塊
2012.11.04〜05 
高橋ほか、ウェクラ5名

積雪のため、獣の足跡濃い両毛国境










  両毛国境縦走2


コースタイム
11月4日
銅親水公園8:25−大ナギ沢出合前ゲート9:08−ウメコバ沢出合10:34−三沢出合11:03−大ナラキ沢出合11:40−釜ノ沢出合12:00〜10−ニゴリ沢出合12:47−モミジ尾根取付き13:18−国境平14:30−カモシカ平15:15
11月5日
カモシカ平6:58−釜五峰7:58−三俣山10:05−P1840m12:09−西ノ湖入口15:20

プロローグ
 『皇海山と足尾山塊』(白山書房)という書物がある。増田宏氏の力作だ。ほとんど独力で成したと思われるこの書物を手に取ると、ただそれだけで感銘する。足尾山塊の道無き山稜と主たる谷の遡行を、三百頁近い書物に集成したものである。現在入手できる当山域の最も優れた案内書になっている。
 足尾山塊とは、足尾銅山でよく知られた渡良瀬川の右岸側の山塊、袈裟丸山、皇海山の辺りを指すばかりでなく、中禅寺湖の西に位置する宿堂坊山や錫ヶ岳、白根山に至る山塊をも指すようである。この広大な山塊を歩いて記録を貯め、独りその熟成を待って集成した増田氏への、個人的な興味も尽きることがない。
 さて、その足尾山塊の背骨ともいえる、両毛国境の主稜線を縦走しようという話が持ち上がった。ウェクラの山崎さんの企画である。足尾山塊を南側から、庚申山−鋸山−皇海山−三俣山−宿堂坊山−錫ヶ岳−白根隠山−湯ノ湖の主稜線を三泊四日で歩こうという企画だ。山崎さん達は、すでに二回ほどここを歩いているようだ。
 一泊やせいぜい二泊の山しかやっていない者からすれば、三泊四日といえば、短距離走者が、突然1600m走に参加するようなものである。ちょっとこれはまずいなと思ったが、歩いてみたいという意欲が先走り、参加の手を上げてしまった。だが、そのうち山々は晩秋から初冬になり、強い冷え込みも始まった。これは、ますますまずいと思ったが、もう手を下ろす訳にはいかない。初志貫徹だけが自分の特徴だ。自ら旗を降ろすわけにはいかないのだった。
 つくづく「自分は沢が好きなんだな」と思った。山崎さん企画のこの山行に、単独で松木川ニゴリ沢を遡って、皇海山を過ぎた国境平の先で合流しようという企画を接木した。山崎さんには迷惑なことであったのかも知れない。これで、皇海山の登頂はできないが、行程が二泊三日になり、何とか短距離走者にも手の届く企画になったという訳である。どこの山を、どこの山頂を踏みたいという意欲のほとんど無い自分にとっては、なんの不足も感じなかった。皇海山という名山を踏むよりも、その懐を流れる大流、松木川の姿をこの目にしたいという思いの方が強かった。

11月4日
異界

 ここでは、増田氏の前著にならって、渡良瀬川の支流、久蔵沢、仁田元沢の合流地点、銅親水(あかがねしんすい)公園の上流部を松木川と呼ぶことにする。渡良瀬川本流の松木川は、その全長が11kmにもおよぶ長い谷である。

 松木川は、それ自体には何の違和もないが、両岸の景観は異様である。松木川の最初の印象は、これに尽きる。おそらくは他の山では見られない、異界の雰囲気がおおっている。樹木の生えない裸の岩山である。山といえば、高山でない限り緑に被われたものと思うが、ここの山は、岩の色彩が山の色である。それは、茶であり黒であり白である。「無機的な色彩の殺伐とした風景」、そう評すれば少しは近いだろう。足尾銅山の鉱毒や森林伐採、はては大規模な山火事によるものと言われている。現在は銅山を閉鎖しているようだが、その痕跡はいたるところに残っている。
 ようやく丹平治沢出合の辺りから緑が現れる。この緑が本格的に現れ始めるのは、ウメコバ沢出合を過ぎて三沢出合辺りからである。


奥のピークが中倉山だろう
いよいよ松木川に入る


旧松木村の名残が
対岸にはグランドキャニオン(ジャンダルム)が



松木川と支流
 銅(あかがね)親水公園すぐ先のゲートから大ナギ沢出合い前のゲートまでは、立派な道路が続く。だが、一般車や営業車の通行はできない。この約一時間のアプローチの先も、旧工事用道路がウメコバ沢出合付近まで続く。この旧道は、大ナギ沢出合いの少し先から、左岸のガレの押し出しで度々埋まっている。絶えず、左岸上の岩の崩落を心配しながらの歩行となり、時間も取られる。上流に向かうに連れて、ガレの押出しが多くなり、ウメコバ沢の少し手前で旧道を歩くことが難しくなる。

 踏み跡に導かれて、堰堤上のウメコバ沢手前の広い河原に降りた。登山靴から、沢靴に履き替えて歩く。地形図では、砂防堰堤は、ここまでのように描かれているが、実は、もう一基の堰堤が、三沢出合の手前にある。これが、最上流部の堰堤、松木川六号ダムである。ここは、左岸にロープが下がっているので、これを使う。堰堤には取り付け梯子がある。
 松木川は、大きな谷である。季節がら水量こそ多くなかったが、広大な河原を持った谷である。幅広の谷は、大ナラキ沢出合あたりまで続き、その上流でようやく源流の雰囲気を見せてくる。松木川は、ニゴリ沢出合まで滝らしい滝はない。標高差の小さい流れになっているためだろう。そのため、遡行の難しい箇所もない。
 松木川を遡行しながら目につくのは、支流の出合いの美しさだ。ついその美しさに惹かれ、遡行してみたくなる。下流部左岸の丹平治沢は、3m、5m、10m、4m滝の連瀑が見え、その上にはどんな沢が待ち受けているか知りたくなる。ウメコバ沢は出合から直瀑を二つ懸け、険谷の様相十分である。このウメコバ沢出合の前を歩いていた時に、上部から大きな声がした。おそらくはウメコバ沢あたりの岩壁をクライミングしているのだろう。ウメコバ沢に限らず、右岸側の谷は急峻で、沢登りというよりはクライミングの世界のようだ。
 左岸の三沢、小足沢の出合も魅力的である。どちらも、出合いの景観が美しい。起立する岩壁の谷間に、折からの紅葉が燃え、ナメや滝が陽の光を照り返している。三沢は、出合いの谷間を少し溯った。流れが右に曲がった先に小滝の連瀑をみせている。思わず、そのまま遡行したくなる景観である。三沢出合のすぐ先で現れる小足沢は、4mほどの小滝の先に轟々と水を落とす20mほどの直瀑を懸けている。できるならば、この険しいゴルジュの先に何が待っているのか、歩いてみたいものである。

3、5、10、4mの連瀑を見せる丹平治沢 ガレの押出しで埋まる旧道 次第にガレが多くなる

いかにも険谷のウメコバ沢出合の滝 人の声が聞こえた


三沢 人の訪れることも少ないナメ滝が続く
三沢出合から少し入るとナメ滝が


小足沢出合 小滝4mの先に大きな滝が見える
小足沢出合 ゴルジュ内の20m滝 豪快だ


松木川源流部
 大ナラキ沢(大楢木沢?)と釜ノ沢は左岸のゆるやかな斜面を水が流れる。優しい雰囲気の支沢である。 大ナラキ沢の出合は、松木川の遡行の中では、唯一緩やかにスダレ状の滝を落としていた。本流には大きな渕がある。この先で本流は岩盤の発達したスラブの沢床を見るようになる。松木川の渓谷美が現れるところだ。

 釜ノ沢は釜五峰に詰め上げる沢だが、出合は、険しい源頭部に似合わない優しい雰囲気である。地形図によれば、釜ノ沢の左俣は、カモシカ平に詰める比較的ゆるやかな沢に見える。出合いの4m、5m滝の平穏な雰囲気が続くなら、ぜひ歩いてみたい沢である。群馬県、泙川の湯ノ沢に降りるのも良いが、国境平を経てモミジ尾根を下れば松木川に戻ることもできる。
 河原の広い松木川が渓流らしくなるのは、大ナラキ沢の出合先である。釜ノ沢出合すぐ先で、ゴルジュの小滝と深い釜が現れる。文字に現すのが難しい美しい場所だ。ここは、小さく左岸を巻けるので遡行上の問題はない。本流は、このあと二条の小滝やナメを越えて丸石沢出合に至る。丸石沢出合はゴーロで、平凡な沢のように見えた。



まだ広い松木川の河原を歩く
大ナラキ沢出合 松木川では珍しいスダレ状滝6m


岩盤の発達した左岸と沢床
釜ノ沢出合いの滝 4m、5m滝

釜ノ沢出合先の本流 深い淵が待ち受ける 左岸を小さく巻いた


 この先で皇海山から北東へ向かう主稜線の国境平を目指すために、本流を離れてニゴリ沢に入る。今日の泊りはカモシカ平だ。出合には、しっかりと表示があるので迷うことはないだろう。この沢は、モミジ尾根の取付きまでは、ゴーロの続く平凡な沢だ。モミジ尾根取付きの30mほど先に、4mの白い滝が見える。ここからのニゴリ沢は、皇海山東の源頭部に至るまで、短い間に多くの滝を懸ける魅力ある沢のようだ。だが、増田氏によれば、「源流部に険悪な涸れ滝が三つ連続し、大高巻を強いられる。」とあるので、ここだけは作戦を立てて当たるべきだろう。
 松木川の源流部には、このニゴリ沢の他に、さきほどの大ナラキ沢、釜ノ沢、シナノキ沢、本流皇海沢など、遡行興味の尽きない沢がある。大ナラキ沢、釜ノ沢は、増田氏の記録にもない未知の世界である。ただ残念なことは、アプローチがあまりにも長い。釜ノ沢の出合までは3時間半、ニゴリ沢の出合までなら4時間はかかる。だが、もし時間が許すなら釜ノ沢出合付近にベースキャンプを設えて、この松木川源流付近の沢を遡下降してみたいものである。
 希望は大きく興味は尽きないが、それが実現されるかどうかは、「神のみぞ知る」である。


モミジ尾根
 ニゴリ沢のゴーロを遡ると沢が大きく左へ曲がり始める。ここから5分ほどで左岸にモミジ尾根の取付きがある。赤/黄の目印があるので分かる。ここからは、この目印を拾いながら登る。取付きの30mほど先の本流に、白い4m滝がある。
 取付きからは、かなりの急登である。踏み跡も薄い。時間が押していたので、沢靴のまま登った。近頃、たいがいは沢靴のまま歩いてしまうが、この急登はちょっと苦しい。登り始める前に履き替えるべきだった。傾斜のゆるくなるところまで、標高差200mを50分だった。モミジ尾根というからには、紅葉がきれいだろうと思ったが、すでに終わっていたようだ。
 傾斜が緩むと歩きやすくなる。ダケカンバの広がる美しい林を歩く。気持ちのよいところだ。笹は膝下丈なので見通しが良い。二人組とすれ違った。私と同じぐらいの年代だろう。皇海山から降りてきたという。これから下山すると言うが、すでに二時を過ぎているので、途中で暗くなってしまうだろう。忠実に尾根の上を歩いて行くと、笹原の右手に鞍部が見えてくる。右へ大きく旋回しながら鞍部をめざす。

 国境平に二時半に着いた。木に目印が付けられている。予定より30分ほど早い。ほとんど休まずに歩いたためだろう。皇海山から降りて国境平を通過するはずの本隊は、まだ来ていないのだろうか。ちょうど二時半に通過予定のはずだ。耳を澄ましてみるが、何も聞こえない。熊よけの笛を吹いているはずだから、近くに居れば分かるはずだ。いずれこの先45分のカモシカ平が今日のテン場だ。そこまでは、そのまま歩くことにした。
 日向山までの笹原の斜面を喘ぎながら登った。何やら、後方にかすかに人の声がするようだ。笛が鳴った。笛を返すと笛が返ってきた。目を凝らすと国境平で手を振っている。手を振り返した。また笛が鳴った。本隊だろう。3時15分にカモシカ平に到着した。



ニゴリ沢の出合左岸に目印が 右岸にも
モミジ尾根の取付きに目印 白滝4mの手前30m 急登開始

本流4m白い滝 モミジ尾根の取付きはこの手前30m

50分ほど急登を続けるとゆるやかな傾斜になる 右手に日向山が見えてくる


写真左の鞍部をめざして腰丈の笹原を登る
ダケカンバの美しい林をゆっくりと登る


1600m国境平 「水」という表示もある
国境平から日向山1695m このピークを越えるとカモシカ平 ここを登る途中で笛の音が聞こえた



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