谷川本谷〜赤谷川源流 谷川連峰
2012.10.21〜22 
高橋 他3名

青い空に、黄葉の真っ盛りだった 22日 <Y>














コースタイム
10月21日
谷川温泉5:55−二俣7:28−本谷大滝10:45−本谷大滝上13:49−右俣沢14:36−三俣15:38−谷川乗越16:40−赤谷川本流1400m17:30(泊)
10月22日
赤谷川本流1400m7:35−1520m二俣10:34−1810m稜線登山道11:55〜12:16−オジカ沢ノ頭12:35−肩の小屋13:48〜55−天神平15:40

 本当に久方ぶりの誘いである。新橋に本社のあるT社の山岳会OBの企画だ。もう30年もご無沙汰だった。T社は、からくり儀右衛門をルーツとする。本社で、そのからくり人形のコピーを見た。精密機械の極みだった。もう縁が無いと思っていた。
 久方ぶりに話がまとまって、気の合う人たちと、赤谷川の源流を歩いた。感激だった。二俣までの登山道歩きと谷川本谷の遡行、これらが全てアプローチと考えて良い。われわれの脚で、11時間以上のアプローチだった。互いに歳をとった。

 谷川本谷は、言うまでもない。谷川岳の南を流れる長い谷である。ヒッツゴー沢、鷹ノ巣沢、川棚沢を擁している。一ノ倉沢を擁し、北東を流れる湯桧曽川に比べると、「不遇の谷」といって良いかも知れない。本谷は大滝を擁しているだけで、大方がゴーロ歩きに終始するからだろうか。支流にクライミングに好まれるルートが少ないからだろうか。だが、俎ー(まないたぐら)山稜を望むと、登攀の対象はいくらでもあるように思うのだが、どうだろうか。
 今日は、ウェクラの二人が、宝川ウツボギ沢を遡行するはずだ。きのう東黒沢から入り、宝川ほとりの広河原に泊まっている。期せずして、同じ日に谷川連峰の東と西を遡行することになった。





10月21日 谷川本谷

 二俣から始まる本谷の遡行は、まず巨石との格闘になる。この巨石が尋常ではない大きさだ。ものによっては、小さな住宅ほどの大きさがある。自分としては、こういうゴーロを歩くのは嫌いではない。体力は使うが、大きな滝のように行き詰ることもなく、たいがいどこかにルートが見い出せるからだ。時に懸かる小さなゴロタ滝や支沢から落ちる滝を見るのも楽しい。途中、真近に迫る俎ー(まないたぐら)山稜は、圧巻である。折からの紅葉で、美しく色付いている。巨石のゴーロが終わると両岸壁が競り上がり、樹木の位置が高くなる。上空は紅葉の真っ盛りだ。ゴルジュといってよいのかもしれないが、釜や滝が無いので、通過に不安は無い。だが、このV字谷に大岩が詰まり、その傾斜が増し始めると、あやしく不穏な空気が漂ってくる。いくぶん気温も下がって来たようだ。大岩を越えてゆくと、突如右手に大滝30mが現われる。


早朝の俎ー(まないたぐら)山稜


大きな岩のゴーロが続く
ときどき、きれいな滝が現れる

川棚沢出合から 俎ー 川棚ノ頭


上ノナメ沢が滝になって出合う
V字谷が始まる

V字谷で競り上がるブッシュ 紅葉が美しい


 水量の多い左の滝が本谷、右の滝が奥ノナメ沢である。クライミングの心得の乏しい自分にとっては相当の迫力である。ウーン、自分に登れるだろうか。不安がドカッと支配する。だが、今日は強いMさんがいる。
 定石どおり、本谷の右岸の乾いた岩からMさんが10mほどトップで上がる。Mさんは、途中ザックをおいて先行する。二番手の高橋に続いて狭いテラスにYさんが上がり、てきぱきとザック荷揚げの処置をする。ほほー。高橋は、ただ見ているだけである。うーん、手馴れている。悔しいが、技術の差は歴然だ。勉強になった。これからは、自分でもやりたい。そう思った。
 傾斜が緩んだ所で、水流を渡り中間テラスへ、そこからさらに奥ノナメ沢の左岸へ渡る。今日の水量は多くないので少し濡れただけで済んだ。この上は、奥ノナメ沢の水流右に沿って登攀、落ち口へ上がり、その後右岸から境界尾根を越えて本谷へ戻ろうという作戦だ。

 奥ノナメ沢の登攀は、左岸のホールドのしっかりした岩を5m登って小さなテラスに立つ。そこから、確保してもらい水流右の窪を上がり右手に一段上がってから、傾斜の増した落ち口下を攀じる。さらに、落ち口手前右手のV溝を数m這い上がる。ここまで、12mはあるだろう。ホールドはある。そこからは、左岸のブッシュをつかんで4m上がると、やっと落ち口へ立つ。ここは、5m滝のすぐ下だ。アンカーの高橋は、途中で息が切れ、のどはカラカラ、やっとのことでクリアした。motoさんは3級というが。



大滝の下部 左の乾いた岩を上がり、テラスを右へトラバース
谷川本谷大滝30m 右の細流が奥ノナメ沢


テラスから谷川本谷の落ち口を仰ぐ とても登れそうにない
奥ノナメ沢の落ち口下を上る 写真で見たよりも傾斜がある

落ち口下のSさん ズームで


 谷川本谷へ戻るには、奥ノナメ沢右岸の中間尾根を越えなくてはならない。まず目の前の5m滝を上がり、それから2〜3の小難しい小滝を越えながら、右岸のブッシュを探す。中間尾根までの高さは10m以下だが、途中にホールドの乏しい垂壁がある。ブッシュが尾根までつながるルートを探す。ルートが見つかれば、中間尾根越えはすぐだ。本谷への降り口が急だったので、上流側に5分ほどトラバースしてルンゼを下がり、本谷に立った。ベストの高巻き。自賛。

 谷川乗越1560mまでは、まだ先が長い。4〜5mぐらいの滝が時々出てくる。だが、そう難しい滝は無い。大滝上には下部が立つ5m滝が待つ。ホールドが細かい。左岸を少し戻って小さく巻いたが、ブッシュ便りのトラバースで、腕が疲れた。もっと良い方法があるかも。右俣沢出合の先にあるCS5m滝は、左岸の草付きを小さく巻いた。一歩がやや怖い所があるが、恐怖を知らないSさんが何なく突破。度胸あるな。
 左俣沢出合は見過ごしたようだ。標高1360mで二俣になる。左俣には水流がある。右俣のすぐ先でまた二俣になるので、ここは、三俣といっても良いだろう。ネットの情報どおり、貧弱な中俣へ入る。ひたすら涸れた沢形を登る。最後に、20分ぐらい急な草付きとヤブ漕ぎで疲労困憊。ようやく谷川乗越に出る。標高1560m。三俣から1時間だった。


大滝上の5m滝 左岸のブッシュから巻いた 右俣沢先の5mCS 左岸を小さく巻いた <Y>

三俣の中俣に入り水の無い沢を詰める 振り返ると登ってきた沢が はるか


 谷川乗越からは、ひたすら真北を目指して笹ヤブを下る。こちらは傾斜が緩く先が見える笹丈なので楽チンだ。だが、すでに午後4時40分だ。今度は、日暮れとの戦いだった。日の短い季節にはかなわず、暗くなった5時半にようやく赤谷川の広い河原に降り立った。早朝6時に谷川温泉を発っているので、11時間半の行程だ。疲れた。

 冷たい風が吹き始めた河原で、あわただしくテントを張ってやっと一息ついて乾杯。Yさんたちが手際よく料理を作ってくれるのをただ見ていた。テントの外は嫌に寒い風が吹いていた。だが、そのときは、誰も次の朝に凍った沢靴に足を入れるとは思っていなかったのである。高橋は、下りで二度ほど滑って、ずぶ濡れになったのでまいった。それも、着替えをすると、自分の体温が徐々に戻ってきた。


10月22日 赤谷川源流
 赤谷川は、私のような初級者+には、厳しい谷だ。裏越ノセンやドウドウセンが待ち受けているためである。それぞれ、6段70m、10段100mとある。かつてmotoさんは、我々と同じルートの谷川本谷を遡って乗越を降り、さらに赤谷川本流を巻き下って、ドウドウセンを登攀したというのだから、驚きである。
 さて、われわれは、赤谷川の難しい滝がすっかり終わった源流部に立っている。標高1400mだ。ここからは、傾斜の緩やかな沢を大きく右旋回しながらオジカ沢ノ頭を目指す。源頭部までは、ほとんど標高差が無いので散歩のようなものだ。テン場の近くからナメになり小さな段差の幅広滝がきれいだ。全員歓声を上げながらの遡行である。目を上げれば、正面に谷川岳−万太郎山の主稜線がくっきり見える。右手は、川棚ノ頭に代表される俎ー(まないたぐら)山稜に囲まれている。われわれは、谷川岳の南西面のすり鉢の底に居ることになる。

 テン場からほどなく、通過に多少の困難があるゴルジュになる。とはいっても、どれも楽しみながら、ヘツリをまじえて越えることができる。歓声が絶えない。ただひとつ、悩ましい両岸スラブのトロがある。夏ならば、水に漬かり軽々と越えて行けるだろう。だが、今朝は沢靴が凍るほどの気温だった。汗ばんできたとは言っても、水に入るのは御免だ。Mさんは、長身を生かして全身のツッパリでかろうじて越えた。だが、われわれにはどうにもならない。うーん、困った。最初から水に入るか。しかし、うーん、入ったら寒いし。10月の下旬ではどうにもならない。「必要が発明を生む」ではないが、「必要がルートを開拓する」のだろう。右岸8m上にブッシュが見えた。そこから懸垂すれば狭隘部のトロを越せるはずだ。幸いブッシュまでの岩には、スタンスがある。ブッシュ前に立つと、先達者のスリングが、二つも下がっていた。みな同じ思いなのだろう。だが、古いスリングは避けて、高橋が工作。皆が懸垂で降りた。ゴルジュの際どいところはここだけだった。

いよいよ赤谷川の源流を歩く 穏やかな流れ <Y> 幅広の釜と滝 早朝静かな雰囲気が



青空の元 ゴルジュの上は黄葉 <Y>
この辺りからゴルジュが始まる

スラブをへつれば越えられる ゴルジュの先が開けてくる

 ゴルジュをやり過ごすと、正面に1800m大障子ノ頭がどっかりと座る。雲ひとつ無い快晴だ。風が少しある。右岸の草原と笹原がビロードのように波を打つ。みんな幸せ。本流が大きく右へ曲ると、俎ー山稜が正面になる。1520mの二俣に近くなると、オジカ沢ノ頭の美しい山容が見える。この二俣から稜線登山道までは、ひたすら足許を見て、1時間と20分だった。ヤブ漕ぎは20分ほどだが、傾斜が緩いので昨日のような苦労は無い。正午に登山道に出た。相変らず遅いが良い調子だ。あとは、高速道をぶっ飛ばすと言いたいところだが、肩の小屋までは、マイペースだった。疲れた〜〜。



オジカ沢ノ頭か
正面に大障子ノ頭が見えてくる


オジカ沢ノ頭 強い風が吹いている <Y>
谷川岳へ向かう稜線 雲が晴れた一瞬 <Y>


 快晴だった空も、昼前から雲が広がり、強い風が吹いてきた。稜線では、群馬県側から更に強い風が吹き上げていた。それでも、歩くのには支障がないので有り難い。朝方のように晴れていれば、素晴らしい展望が開けたのだろう。だが、心の中は、晴天の内に終えた赤谷川の源流遡行で十分満足だった。初めて歩く尾根の展望を期待もしていたが、尾根ならば、またいつか、一人でも来られるだろう。おそらくは、赤谷川の源流を歩くチャンスは、今日しか無かったのだろう。今回は、奇しくも、危うい縁で結ばれた。分かれた時の再会の約束を、来年果たせることを願う。
 全長16kmの長い旅だった。今年は、幾つも感動的な遡行があったが、今回もその最大の収穫のひとつだった。




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