大行沢樋ノ沢1 二口山塊
2012.10.06 
SSC5名、ゲスト1名

3年前、大滝で流してしまったロープを見つけた










  大行沢樋ノ沢2


コースタイム
10月6日
大行沢橋11:00−梯子滝前12:26−大行沢入渓点12:51〜13:14−大滝12m13:45〜14:16−カケス沢出合15:25〜38−樋ノ沢避難小屋16:10


プロローグ
 大行沢(おおなめさわ)は、ナメの沢として知られているが、その特徴はナメにとどまらない。この沢は、出合いの大行橋から、大きく三つの渓相を見せる。下流域では、釜と淵の連続するU字ゴルジュが続き、泳がないと先へ進めない。中流域では、相当に頑固な巨岩帯がありそのダイナミックな渓相に驚かされる。このU字ゴルジュと大釜を持つ「地獄」のような巨岩帯を抜けて、ようやく「天国のナメ」に到達できるという訳である。

 大行沢の左岸には大東岳(だいとうだけ)や小東岳(こあずまだけ)へ向かう登山道が並走しているので、どこからでも入渓できる。だが、ナメの沢だからといって、上流部のナメだけを歩いては、「天国のナメ」の良さは分からない。できれば下流域から遡行したい沢だ。だが、10月ともなると、泳ぐという発想は閉じられる。まだその先に巨岩帯が残り、大滝の待つ京淵沢の出合から入渓することにした。ちょうど梯子滝の下なので、場所を間違えることはないだろう。だが、入渓できるルートはあるのだろうか。


大行沢対岸に見える「裏磐司」の垂壁 この辺りから下降
京淵沢の梯子滝 大きい 20mはあるだろう

梯子滝の下へ降りてから京淵沢を下降する


巨岩帯
 左岸登山道を歩いて行くと、京淵沢に近い辺りに「裏磐司」の標識と二つのベンチがある。大行沢の対岸に裏磐司の大きな垂壁がそそり立つ。紅葉はまだ少し早い。きょうも季節はずれの暖かさである。この展望地に大行沢への下降点があった。梯子滝を見学するルートとして使われているのだろう。それにしても、かなりの急降だ。足元不安定なところで一箇所補助ロープを出した。梯子滝を見ながら降りる。20mはあるだろう。飛沫を上げながら落ちる滝は、うっすらと虹を描いている。梯子滝の下からは、京淵沢の流れに沿って下降して、大行沢の巨岩帯の只中に入渓する。登山道からの下降に気を取られて、昼ごはんを忘れてしまった。大行沢を見ながら昼ご飯にした。
 巨岩に挟まれてできた滝の釜は大きく深い。巨岩に水流が絞られるので、水の勢いは強くはやい。トップは、巨岩で先が見えないため、出口を求めて、右往左往しなければならない。巨岩を縫ってルートを拓くことになる。巨岩と大釜に阻まれて高巻きを強いられるところもある。だが、この巨岩帯の流れの変化は激しく、その渓相は美しい。大行沢の遡行では、外さずに歩きたいところだ。
 引き千切られて、流木に絡んだ青いザイルの残骸を見つけた。見覚えがある。これは、三年前に大行沢を遡行した時に、この先の大滝で流してしまったロープに違いない。おろしたてのロープだった。こんなところでお目に掛かるとは思わなかった。何かの縁だろう。

巨岩帯の滝 釜が深く大きい 巨岩と大きな釜で行く手が阻まれる


巨岩帯 突破に苦労する
遠くに大滝が見えてくる 巨岩帯は大滝まで


大滝から大ナメ
 ようやくにして巨岩を縫って開けたかと思うと、豪快な大滝になる。大滝は流れが湾曲しながら落ちる二段12mの滝だ。上段の下には大釜がとぐろを巻いている。下段はバンド沿いに上がった。残置支点が二つある。ちょっとバランスの取り難いところがある。上段は前回と同じように水流左を上がろうとしたが、水量が多くホールドが隠れていて難しい。先週の台風に降った雨でまだ水が多い。巨岩帯を遡行する間にも、両岸の高いところまで青草が倒れているのが見えた。相当の水量だったらしい。

 大滝の上段を簡単に登れそうなところもなく、仕方なしに水際を気合を入れて上がった。ガバホールドがないので水を浴びながらも静かに体重移動する。お陰ですっかり濡れてしまった。後続は、左岸側の水の無い岩にロープを出して確保した。上部の太いブッシュでビレイが取れる。あとで気がついたが、ここにも残置支点があった。

 大滝までで巨岩帯が終わり、岩床沢、バケモノ沢が入る辺りから、徐々にナメが現れてくる。標高630m辺り、両岸から顕著な支沢が入るところからは、両岸いっぱいにナメが広がる。ようやく「天国のナメ」だ。右岸からカケス沢が出合う辺りからは、幅広のナメが800mほど続く。魚影がある。この大ナメを夢中で歩くと、あっという間に、避難小屋下のハダカゾウキ沢と樋ノ沢の両門の滝になる。どちらも7mぐらいの滝だ。めいめい勝手に上がっていく。この滝を上がると左岸に樋ノ沢避難小屋がある。三連休というのに、だれも泊まる者は居ない。今日は貸切らしい。


下段6m滝 斜上するバンドに沿って上がる 上段6m トップは水流際左を上がった 後続は細流の右


大滝上段を上がる
大滝上段を上がる 滝の水量は多い


ナメ滝が現れる 何故かホッとする
まだまだ大きな釜もある

ナメが多くなる ブナも美しい






















結構水勢は強い
平ナメが次々に


カケス沢出合付近
心洗われる風景


樋ノ沢出合7m滝 直登できる
ナメを夢中で歩くと避難小屋まではすぐだ 紅葉はまだ少し早い



地図読み
 地図読みは難しい。沢を歩くときの地図読みは、奥の深いパズルだ。私たちは、高度計と地形図によって現在地を特定することが多い。この場合、沢の本流を外れない限りは、現在地の標高さえ分かれば、本流中のどの位置に自分がいるかは、たちどころに分かるはずである。だが、そうはいかない。高度計は往々にして、正確な高度を示さない。少なくても10mや20mのズレはすぐ出る。通常その程度の誤差は問題にならないが、傾斜のゆるい沢を歩くときには、そのズレが決定的な問題を起こすことがある。

 大行沢樋ノ沢の源頭で本流を外れて、970mの鞍部に上がれない者は多いようだ。現在地が分からなくなり、目的外の支流へ入り込んでしまうからだ。調べてみると、半数以上の遡行者が、予測していない沢へ迷い込んでいる。数時間のヤブこぎを強いられたグループもいくつかある。樋ノ沢は、本流大行沢と同じくゆるやかな沢である。その上、この源頭では、沢がいくつにも分岐している。そのため、現在地の特定が難しい。これが迷う理由だろう。
 現在地の特定が難しい時には、パズルが俄然面白くなるので、遡行のメンバーが次々にこのパズルに参加してくる。「現在地はここで、この右俣へ入るのが正しい。」というような具合だ。だが、多くの遡行者を迷わせるには理由があるはずだ。だから、さして地図読みが得意でない私などは、簡単にその罠にはまってしまうだろう。実は、つい最近も、米子沢の源頭で現在地が分からなくなった。ここも、傾斜のゆるい流れだった。
 現在地の特定を難しくさせているのは、地形的な問題ばかりではない。地図を読む者の心理にもその理由がある。それは、現在地が分からなくなってくると、少しの理由で現在地を特定しようとする心理が働いてくるからだ。仮にでも現在地が特定できれば、少しは安心できる。だが、地図読みで大切なのは「断定しないこと」ではないだろうか。断定的に現在地を特定すると、そのことによって、その間違いに気付く可能性を狭めてしまうからである。「現在地は、Aである。」という判断よりも「現在地は、Aであるかも知れないが、Bの可能性も残されてる」、こういう判断が求められるのが、遡行時の地図読みではないかと思う。
 沢の地図読みばかりでなく、断定的に語ることが、いかにも勇ましくもっともらしく聞こえることがある。だが、断定すると他の可能性が排除されていく。判断を修正する余地を小さくしてしまう。地形図と高度計で判断することで足りれば、誰も迷う者は無いはずである。迷いやすい場所で幾つかの疑問を残したまま「断定」してしまうと、それが間違いであった場合に取り返しがつかなくなる。遡行での地図読みは、笹竹のようにしなやかな思考と強さ、「断定しない強さ」というものが求められていると思う。遡行の先の過程で、過ぎた不確定部分を補っていくやり方が、沢の地図読みの本道ではないか。地図読みは、単純で奥の深いパズルである。



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