2012.07.10 歩かない沢のこと


 ひまだなー。もう三つも沢の計画が潰れてしまって、やることがない。今年は、梅雨がしっかりと雨を降らせてくれるので、沢の遊びもなかなか思うようにはいかない。ちょっとでも雨が降るようだと中止にしてしまうので、もう三つも計画が中止になったというわけだ。

小中川弓ノ手沢
 足尾、袈裟丸山の南面を下る小中川弓ノ手沢は、以前から気になっていた沢だが、今年もかなわなかった。ウェブの沢情報が殆ど無いので、その内容はよく分からない。よく分からないから魅力があるのだが、情報がないというのは面白みのない沢だという可能性もある。小中川の大滝の先で分岐する林道を右に入り、弓ノ手沢を渡る八子岩橋(ヤツネイワバシ?)から入渓する。前袈裟丸までの流程は4km、標高差1000mだ。長く緩やかな沢であることが分かる。滝は少ないのだろうか。袈裟丸山から南下する登山道のない三つの長い尾根は、どれもヤブ愛好家に歩かれていて、たいがいは尾根の情報を得ることができる。尾根筋にヤブはなく歩きやすいようである。林道へのつなぎを上手く考えれば、遡行後の下りに使うことができる。
 袈裟丸山周辺は、
5月中旬から6月にかけて、アカヤシオ、シロヤシオ、ミツバツツジ、シャクナゲが次々に花開くという。花の名所としても知られているようだ。今度の計画では、弓ノ手沢の右岸尾根を下るつもりだったので、その美しい花々を見ることもできなかったことになる。


野呂川小仙丈沢
 7月の初旬に行くはずだった小仙丈沢は、沢歩きというよりは、登山のバリエーションルートと考えたほうが良いだろう。2.5kmの水平距離で1000mの標高差を持つ急峻な沢である。中流部以降は、25°の斜度を登ることになる。こうなると、沢全体が大きな滝といっても良いのかもしれない。沢の遡行というと、両岸に緑の枝葉がかぶる薄暗い沢床に、淵や釜を従えた滝があったり、ゆるやかなナメが広がったり、時には両岸狭まる暗いゴルジュを想像したりするだろう。だが、この小仙丈沢は、暗い湿潤な沢のイメージとは正反対の印象を与えることだろう。広く浅い沢筋には、陰りを与える樹木の影響など無く、明るくあっけらかんとした朝の陽が、我々の背中を直接照らすだろう。標高2700mを越えると仙丈ヶ岳の東に広がるカールが我々を迎えてくれる。先日、ウェブで調べてみると、まだ多くの残雪があった。この残雪を踏みしめながら、傾斜が緩くなったカールの底から、煌めく稜線を目指すはずであった。その稜線の向こうには、底の抜けたような青空が広がっているはずだった。雪のない足元には、ようやく開き始めた夏の花が顔を見せるはずでもあったのだが・・・・。
 小仙丈沢は、大きな滝が二つある。最初の滝は三段30m、次の滝は二段25mとある。最初の滝は、左岸の枝沢から簡単に巻けるようだが、問題は、次の滝25mだろう。この滝の左に白糸のように落ちる滝がある。この白糸の滝を登って巻く者が多いようだが、落ち口に近い上部は、結構立っている。なんとか越えられるとは思うが、もう少し心臓に悪くないお手軽なルートが無いものかと思う。ただ、これだけは現地で判断するほかないだろう。それが沢の面白さでもあり、いつまでも不安の残る理由でもある。
 小仙丈沢を登る者は、速攻日帰りのパターンが多いようだが、我々ロートル組の脚を考えると、朝一番で出ても、北沢峠の到着が18:00頃になってしまう。足が遅いというのは困ったものだが、そのおかげで、小仙丈沢の音を聞きながらテン場の楽しい夜を過ごせるというものだ。2000mの辺りには絶好のテン場があるという。そこからは、夕日に照らされた小太郎山や北岳の勇姿を仰げることだろう。

鬼怒川湯沢
 奥鬼怒温泉の女夫淵温泉を基点とする沢を幾つか歩いた。いずれも鬼怒川の支流である。鬼怒川は暴れ川として有名だが、女夫淵から日光沢温泉へ向かう時の鬼怒川の流れるさまを見ていると、「鬼の怒る川」と名付けられた理由がわかる。この辺りは、川で言えば源流に近いはずなのだが、その水量はすこぶる多い。帝釈山脈の一角、黒岩山と鬼怒沼山の水の豊かさを感ずることができる。雨の降った時の勢いはどんなに変貌するのだろうか。水勢を弱めるためだろう、川底が凹凸のコンクリートで手が加えられているのは残念である。
 黒沢赤岩沢とオロオソロシ沢を2010年に、黒沢魚沢を2011年に歩いた。どの沢も行き詰るような難しい箇所はないが、それなりに工夫の要る沢である。どの沢も滝とナメが美しい。奥深いこの辺りの沢は、下山のルートを探すのが難しい。沢を遡行して、沢を下るという、沢屋の本領が現れる谷ということができるだろう。魚沢を登ったときは、沢を下らずに、黒岩山南面の稜線に上がり、鬼怒沼山手前の鞍部からコザ池沢の源流を下った。途中からスーパー林道へ出て、延々と林道を下った。八丁の湯を経て女夫淵温泉に着いた頃には、日がすっかり暮れていた。昨年のこととはいえ、思い出深い沢となった。
 随分前置きが長くなってしまったが、湯沢のことを書こうとしていたのだった。本題に戻ろう。湯沢は知る人ぞ知る「野湯」の沢である。湯沢の出合いは、女夫淵温泉から鬼怒川を1.5kmほど下ったところにある。湯沢の河原には、幾つか野湯があるという。広河原と噴泉塔近くには、湯に入れるところがあるらしい。湯沢出合いから噴泉塔までの間、5kmには歩道があるが、徒渉点に設置された木橋の多くは流されているらしい。徒渉を繰り返す後半部は、沢登りの範疇なのだろう。
 野湯を求めて山を歩き沢を遡行するという人々もあるようだが、「真の目的を冒険に求める沢屋」からすると、どうも温泉というヤワな目的を受け入れることができない。そう思ってきた。湯沢は以前から気になっていたのだが、この「温泉」という観光地的な「猥雑物」が湯沢の遡行を思いとどまってきた理由だ。そこで、今回の目的は、湯沢本谷の完全遡行の前準備の調査として考えた。噴泉塔の近くにタープを張り、野湯にはちゃんと入ろうと思うのだが、それが真の目的ではない。噴泉塔の先のゴルジュを巻く、右岸の巻き道を調査しようという訳である。湯沢本谷を遡行しようとすると、1日目は少なくても大岩沢の出合いまでは入らなくてはいけない。その核心が噴泉塔のゴルジュの通過である。そんな美しい目的を持って、のぞもうとしたが、結局安定しない天候に足元をすくわれた。目的が不純だと、あきらめるのも早い。
 ところで、この湯沢の完全遡行の核心は、1700mから1850m付近に懸かる251210CS25m滝の連瀑帯であるに違いない。ガイドブック『関東周辺の沢』にある湯沢の項では、「高巻きルートもあり、特に難しいところもない」とあるが、初級者がこの言説を信じてはいけない。25mの滝、10CS滝といえば、ただでは済まないと考えるのが沢の世界である。この言葉を真に受けて苦労した人がいるようだ。だが、幸いなことに、この人達はその辺の初級者ではなかったようだ。無事、難関をくぐり抜けて日光沢温泉へ下山した。万年初心者の私にとっては、真に冒険的な湯沢本谷の遡行を実施するかどうかが、これからの課題になった。それにしても、下山の時間が4時間とは少し長い。なかなか、真の冒険に踏み出せない理由でもある。やっぱり、昔の小学校の校舎のようなあの日光沢温泉に一泊して、次の朝帰るというのがベストなのかなー。それとも、最初から完全遡行をあきらめて、噴泉塔の辺りで引き返すのが、自分にはふさわしいのかなー。
 ついでに言っておくけど、奥鬼怒温泉郷に御殿のような建物を造ってしまった加仁湯温泉には、絶対泊まりたくないなー。いくら、「豪華な」露天風呂があっても、嫌だなー。どう見ても、奥鬼怒温泉には、あの豪華な建物は似合わないし、センスが無い。奥鬼怒温泉郷の価値をみずから下げてしまっている。




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