記憶に残る沢4 2011


西横川、東横川 中ア中御所谷 2011.09.1719
 さわねで久々に集中山行を企てた。私の記憶によると、さわねで集中山行をしたのは、2009年6月の二口山塊名取川だけである。大行沢と穴堂沢から樋ノ沢避難小屋へ集中するという企画だった。この山行で経験したのは、互いに他のルートを遡行して、同じぐらいの時間にひとつの場所に集まることの難しさだった。この山行では、泊り場での集中だったので、なんとか集合できたが、山行途中で長い時間待つことの難しさを感じたものだ。2010年の6月にも、泙川の支流で集中らしき山行をしたことがあるが、これは、覚悟が足りなく、集中に「失敗」している。
 という訳で、今度の空木岳集中は、三度目ということになる。太田切川本谷と中田切川大荒井沢をそれぞれ遡行して、空木岳で集中しようという企画だった。「だった」というのは、実施しなかったからである。この企画も、今年の週末の悪天というジンクスに見舞われてしまったのである。結局、この時の山行は、第二案としていた中御所谷西横川、東横川に変更した。西横川は小雨の決行だったが、東横川は思いがけない晴天の遡行となった。

 西横川の遡行は、小雨の中だったが、大きく天候も崩れず、ガスの中に入ることもなかった。考えられる中では、幸運な遡行だった。集中した雨が振れば、一度に増水する地形だと思われたが、それがなかったので、十分だったと思う。西横川は谷が浅く広闊なので、雨の中でも暗くならないのが長所である。おそらく、雨が降っていなかったなら、もっと印象に残った遡行になっただろうと思う。標高差850mを日帰り装備で一気に遡行した。結局、ロープを使ったのは、終盤の段々30m滝の落ち口だけだった。雨のため休息時間も短く少なかったため、4時間半ほどで長谷部新道へ達した。廃道になった長谷部新道は、沢屋にとっては有難い存在である。ロープウェー駅まで、一時間半あれば十分である。だが、廃道の踏み跡には、ハイマツの枝が張り出して来て、数年前よりは荒れていると感じた。

西横川 12mナメ滝 中盤はバンドを左へ 5m二条滝 ホールドはある 前方に段々30mが見える


 次の日に天候が悪かったら、遡行をやめて帰るつもりだった。だが、思いもかけず、早朝にはしっかりと青空が望める天気だった。もちろん、東横川の遡行を決めた。だれも文句はない。せっかく、中央アルプスの麓まで来て、このまま帰るのではいかにも惜しい。誰もがそう思っていただろう。バスターミナルで待つ間、みんなは空を仰ぎながら嬉々としていた。天候がぐんぐん好転しているのが誰の目にも明らかだったのである。好天の沢を遡行できるとは、誰も思っていなかった。昨夜までの雨に抑えられていた感情が弾け、みな饒舌だった。今日こそ中央アルプスの沢に思う存分挑むことができる。そういう意気込みが、ことばとして弾けて出てくるのだった。
 遡行の開始点は、昨日の西横川と同じしらび橋である。20分ほど遡行して右俣の東横川へ入る。早々に20mの滝が現れる。まだ沢慣れしていない間の大滝なので緊張した。Tさん先行でロープを出してもらったが、人数が多いのでなかなか時間がかかる。

東横川 入渓早々に20m滝が現れる 4m大岩の滝 ガスがかかっている 全体がルンゼのような沢を登る


 東横川は、昨日の西横川と同じように急峻で浅い谷であった。好天のせいもあるのだろうが、明るい沢だった。どこも沢全体に明るい陽が差し込んで来る。平坦な所が無い、沢全体が大きなルンゼと考えていいような沢である。急峻なため、青い空めがけて登っているような、そんな遡行になった。大岩の滝、ナメ滝、巨岩の崩落地帯などが出てくるが、どこも大高巻が必要なところは出てこない。注意すべきは人工的落石だろう。長谷部新道と交差する少し手前の5m滝が小難しく手こずった。私は、ロープを出してもらい、やっとのことで登った。

2050m三俣 左俣本流 次々と現れる滝を越えて 8m滝の弱点を探って


 長谷部新道の探索も心配するほどではなかった。両岸に目立つように赤いリボンを付け加えた。ここは東へ入りうどんや峠を経て、北御所登山口へ降りた。一度歩いてみたいと思っていたルートだったので、嬉しかった。登山口までの長い道中が気になったが、林道に入ってからは、取り留めのない話に気をとられ、時間を忘れるほどだった。登山口では、みんなねぎらいの固い握手を交わしたのだった。みんな満足の遡行だったと思う。


長谷部新道(旧道)をうどんや峠方向へ
長谷部新道に交差する前の5m滝 手強い


 ベースキャンプは菅の台バスセンター近くだった。初日の大駐車場は閑散としていた。雨天のせいだろう。他の人々は車の中で泊まっているようだった。以前は、駐車場のなかにテントを張っている者もあったが、少なくなったのだろうか。二年ほど前にさわねの行事で西横川を計画したことがあったが、雨天で中止になった。このときは、秘密の場所で屋根のあるところに一泊した。だが、今年は全員で9名という大人数である。秘密の場所では狭い。今度は、幸い屋根のある広いスペースをキャンプ地として借用することが出来た。これも幸運だった。テーブルと椅子も付いていた。初日の雨も全く気にならなかった。贅沢をいえば、焚き火ができなかったことぐらいだろう。だが、それは望み過ぎというものだろう。この、広い快適なキャンプ地で、前泊含めて三日間泊まったことになる。
 人数が多かったせいだろうか、それとも、女性が多かったせいだろうか、とにかく楽しい会話が夜遅くまで弾んだ。それが三日も続いたのである。計画した食料とそれぞれに持ち寄った酒と食料を出し合い、呑み、食い、喋った。車が一台あったので、麓へ降りて酒とビールを調達もした。さらに、歩いて5分ぐらいのところには、温泉もあったのである。もちろん、毎日夕方には風呂につかった。まるで、天国のような三日間だった。これは、空木岳集中山行の中止によって得た幸運だったが、もうすでにみんなの頭からは、あの中止の悔しさは、頭のどこからか消えていたのである。




魚沢 鬼怒川黒沢 2011.09.24〜25
 9月末にして、シーズン初めてのウェクラの山行だった。それまでの計画は、6月から8月まで、ことごとく悪天で中止になった。魚沢は7月に計画した再企画である。魚沢は、ナメの沢だ。この沢は、2010年にさわねで北隣の赤岩沢を遡行した時に、下降に使ったことがある。この時は、下降途中から林道へ上がって下山したので、いつかこの美しいナメの沢を完全遡行したいと考えていた。魚沢の遡行で考えなくてはならないのは、下山ルートだ。沢慣れた者の集まりなら、赤岩沢を下山に使っても良いだろう。だが、今回は、時間が正確に読める登山道と林道を使って下山した。
 今回のメンバーは、常連の山崎さんの他に、タケさんが参加してくれた。特筆すべきは、トビウオさんが参加してくれたことだ。なかなか泊まりの山行には出掛けられない事情が有るようだが、それを押して参加してくれたのだ。トビウオさんは、沢の中で泊まるのが初めてのようだった。ナメの美しい谷を歩いたことばかりでなく、焚き火を前にした食事、タープの下での眠りなどなど、沢での生活のすべてが感動だったようだ。今思えば、トビウオさんにとっては、少しハードな企画だったのかも知れない。それでも、われわれに遅れることもなく、最後まで持ち前の頑張りを見せてくれたのである。早朝、タープの下で眠りから覚めたとき、天空の白い月をシュラフの中から見たことを、感動的に語ってくれた。沢での喜びが、そのような自然との小さな交歓にあることを、改めて教えられた思いだった。

 魚沢は、入渓してしばらくは平凡である。水量は多い。だが、ゴーロを淡々と歩くのも沢の喜びの一つである。この先どんな難所が現れるのか、そんな期待と怖れを抱きながらゴーロを歩いた。ゴルジュに赤っぽい岩の滝が現れた辺りから、ナメと滝が連続するようになる。このゴルジュの滝は、左岸の岩のバンドを伝い、水流をまたいで落ち口へ降りた。その上から、キラキラと日差しを反射するナメが始まった。この辺り特有の赤い岩の滝やナメが現れる。二条15mナメ滝は、最も特徴のある大きな滝だ。傾斜のゆるい赤岩の滝に、白く泡立つ水が布を引いたように滑り落ちている。この滝は正面の左側にも流れが隠されている。こちらもなかなか水量が多い。ホールド豊富だが、水量とその冷たさに耐えられずに右岸を巻いた。

入渓後は平凡なゴーロを歩く 小さな滝が 水の多いゴーロを歩く


 二俣の先で両岸狭まるゴルジュになる。突き当りの4mぐらいのCS滝は上がれそうにない。左岸に踏み跡があるのでここから越えられるのだろう。だが、ここの高巻きは険しいとの情報が多かった。ここは、きわどい高巻きでなく、簡単に超える方法はないだろうか。手前の二俣まで戻って支流の右俣へ入り、支流の先にある林道へ上がって高巻くことを考えた。だが、この支流がなかなか手強い谷だった。ゴルジュを左岸から越えたほうが、はるかに楽だったと思う。途中藪っぽい上に、四段25mの連瀑、10mナメ滝、6mナメ滝と、越えるべき障害が次々に現れた。この支流を遡り林道へ達するまでに二時間も掛かってしまった。思いがけない体力の消耗だった。だが、未知の領域に足跡を残すことが出来たという喜びもあった。

ゴルジュ赤岩ノ滝10m 二条15m滝 大きなナメ滝 右岸を巻いた 二俣先のゴルジュ4mCS 二俣へ戻る



6m滝ナメ滝
二俣から右俣へ 10mナメ滝


 林道からヤブを漕いで本流へ降り立ったのは、二時半だった。日が短くなっていたので、少し慌てた。とはいっても、走って登る訳にもいかないだろう。面倒な懸垂滝12mも現れた。ここはぬかるむ右岸を上がり、滝を交わしてからルンゼをロープで降りた。左岸に大岩が二つ並ぶ5m滝を大岩の右を回りこんで上がると左岸から枝沢が入る。この二俣に出来た小さな洲にタープを張ることにした。標高1620mだろう。洲は平でよかったが、流れからわずかに高い程度で、増水したらすぐにも浸水するような地形だった。この先も偵察したが、テントの張れる適地は無かったので、やむを得ずそこに決めた。背後の斜面には、ロープを貼って避難路を確保した。
 狭いながらも、屋根を張り寝床を作ると落ち着いた棲家になった。すぐ先には小滝が二つ見える。なかなか風流な環境だった。薪も何とか確保したころには、夕闇が迫る時刻になっていた。何はともあれ、宴会になった。火をおこすと、そこが暖かい団欒の場になった。何を話したのだったか、今となっては忘れてしまったが、和やかな時間がいつまでも続いたのを覚えている。夜も更けた頃、明日の黒沼田代までの無事を祈って、眠りについたのである。


林道からヤブを降りてナメとナメ滝の世界へ
懸垂滝12mは直登が難しい 左を巻いた 5m滝 右に大岩がふたつ




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