2011.12.21 沢登りの道具**高度計**


 先日、NHKBS放送で、ヨセミテ公園のカテドラルピークとハーフドームの登攀を放映していた。カテドラルピークは、天空に伸びた尖塔を持った頂きで、ハーフドームはお椀を伏せたその谷側の半分が切り取られた山容である。どちらも花崗岩の巨大な一枚岩のルートで、正確なクライミングの技術が要求される登山のようだった。地元の山岳ガイドがNHKの取材班をリードして二つのピークを登るという趣向だ。この放映で見て驚いたのは、そのギアの多さである。ハーケンとハンマーを使わない登攀をめざしているためだろうが、ガイドも取材員も腰のあたりには、機械のような道具を幾つもぶら下げている。ひとり10個ぐらいは下げていだろう。カミングデバイス(カム)と言われるものだ。花崗岩のクラックをルートに登るため、クラックに差し込んで支点にする。岩を傷つけたりハーケンを残したりしないという思想は分かる。だが、安全のためのプロテクションとはいえ、至極単純なハーケンを避けて、こんなに複雑で重い機械を持ち上げて登るというのは、どうもフリークライミングの思想とは一致しないように思えてしまうのである。もっとも、クライミングの「ク」の字も知らない自分の言うことなので、感覚的な反応にしか過ぎないのだが。カムなどの装置(ギア)をこんなに大量に持ち込んでする登攀というのは、一体何なのかなと思ったのだった。
 これは、自分が沢を歩くことを趣味にしていることが関係しているかも知れない。沢を歩くときのギア類は、少ないのが普通だ。私などは、ハンマーもハーケンも持たない場合が多い。持たないと言うよりは、それを上手に使えないというのが理由なのだが。沢を歩く時には、確かに大きな滝の登攀もあるが、大方は他の登山と同様に、歩くことが中心である。そのため、そんなに重い登攀具を持ち歩くという考えが元々無いのだ。沢は泊まりの装備になると、荷物が結構重くなる。そんな多くの道具を持って長い距離を歩けないという事情もある。大きな滝であっても、その滝の登攀を目的にしていないのならば、滝を直登せずに高巻くということもできる。

 カムの話から始めたので、何やら面倒くさい話になってしまったが、今では、登山用の様々な便利な道具を持ち込まずに登山する人は無いだろう。そのぐらい、登山用具の進歩の威力は大きい。その用具を一度使ったら、もう使わずに登山することを考えられないぐらいに登山者には影響を与えているように思われる。例えば、現在登山をする者でゴアテックスやそれに類する雨具を持たない者は無いだろう。それほどしっかりと登山用具のお世話になっているのだが、先日、沢を歩く時には、どんなギアや用具が許容されるのだろうか、ということが同好会で話題になった。沢で面白く遊ぶには、あまり文明の利器を使わないほうが良いのではないか、というようなことである。
 自分が沢を歩く時に使うグッズを少し考えてみたい。吉川栄一編の『沢登り 入門とガイド』山と渓谷社という本がある。奥付を見ると、1990年発行だ。私が買ったのは初版第五刷(1995年)である。沢の本で、増刷した話は殆ど聞いたことが無いので、驚くべきことである。まあ、それは良いとして、20年以上前に発刊されたこの本を見てみると、現在普通に使われていて、当時は必要装備として考えられていなかったものがある。気が付いたまま記してみると、携帯電話と高度計である。思いのほか驚いたのは、ゴアテックスの雨具がすでに使われていたことである。高度計というのはいつ頃一般化したのだろうか。『沢登り 入門とガイド』にその記述がなく、1995年発行の若林岩男著の『沢登り』山と渓谷社には、高度計の記述があるので、高度計が一般に普及したのは19901995年の間だろうか。だれか知っている人がいたら教えてもらいたいものである。
 沢の遡行を面白くなくする文明の利器として槍玉に上がったのはGPSだ。私は使ったことが無いので、その威力のほどは分からないが、上手に使えば高度ばかりではなく自分の現在地、平面的な位置が分かるというものである。その便利さ故に、現在地を確認しながら自分の進路を決める沢登りにあっては、その楽しみを無くすものとして責められるのだ。だが、これがあれば、自分が今どこを歩いているか、たちどころに分かる。地形図によって現在地を確認する必要もない。これさえ持っていれば、道に迷おうと思っても迷うことができないほどの優れものだ。つい先日読んだ『空と山のあいだ』田澤拓也――岩木山遭難・大館鳳鳴校生の五日間――のような道迷いによる悲惨な遭難事故は無くせるのだろう。冬山や山岳スキーで難しい天候に変わったときには、威力を発揮するだろう。そういう意味では、素晴らしい文明の利器である。かつて、高度計が沢登りの楽しみを少なくするとして非難されたように、今GPSが非難されているのかも知れない。私も、今はGPSを持って沢を歩こうとは思わない。しかし、こういう非難は、自分のやり方を正当とみる恣意的な判断によるものが多い。もともと、正当などというものは、時代によって変わるものである。
 沢登りにおいて、高度計は優れて便利なギアである。ある意味、GPSと同じように、現在地の特定に優れた効果を発揮する。沢を歩いている場合、尾根を歩くときのように道迷いする可能性は少ない。沢を外れて歩いてしまう可能性は極めて少ないのである。沢はどんな踏み跡よりも明瞭な「踏み跡」だからである。沢を歩いている限りにおいては、高度計があってそれが正確な高度を示しさえすれば、現在地の特定は簡単である。そういう意味で、沢で持ち歩く高度計は、GPSと同じだ。いまや高度計を持たない沢歩きは考えられない。特に、遡行図を描こうとすると、高度計は威力を発揮する。先に述べたように、高度計と地形図さえあれば、正確に現在地が分かるからである。とはいえ、実際は高度計が様々な事情により、正確な高度を示すとは限らないので、思いのほかその使い方は難しい。

購入した高度計 スポーツギア SGW-300H-1AJF


 先日高度計を購入した。以前から使っていたものが、どうも狂い出したからだ。山を登り続けているのに高度が増していかなかったり、休息していても高度が変化するというような症状が出たためである。それまでは、狂っても一時的なもので、すぐ正常と思われる値を示していたが、最近はどう見てもおかしい値を示すようになってしまった。修理しようと思ったが、思い切って購入することにした。それまで使っていたのは、バリゴNo.49である。今思えばおかしくなる兆候は、購入して一年目ぐらいで現れた。そんなことから、仲間に聞いてみると、カシオが良いのではないかということだった。だが、カシオは結構高いという印象がある。
 元々、腕時計型の高度計は高い。普通に売っているのは4万円ぐらいする。だが、よく調べてみるとカシオにも廉価品*があるのが分かった。定価が9,975円、売価が6,980円だった。高度計の原理や造りは、値段の差は無いだろう。そう思って、安いものを買った。壊れることもあるし、失くすこともある。今のところ、これがカシオで一番安い高度計だろうと思う。
 バリゴNo.49の欠点は、風防がプラスチックのため(最近は改良されている)、ヤブこぎ一回で、傷が付いてしまったことだ。これには、正直がっかりした。もうひとつの欠点は、ひとつのボタン操作で、「時刻〜高度〜気圧」と表示が変わることだ。これは、バリゴNo.49の明らかな欠点だ。高度を見ているつもりだったのが気圧を計っていたりすることがある。致命的なのは、高度表示で高度を合わせていたと思ったのが、実は気圧の目盛りを合わせていたりすることだ。その結果、高度の表示が狂う。事実そういうことがあった。基本的に、工場出荷時に調整してある気圧を自分で合わせてはいけない。今度買ったカシオは、風防はガラスだし、高度と圧力を表示する操作ボタンが違うので、これらの間違いは起きないだろう。まだ一度しか山で使っていないので、測定の精度や信頼性がどの程度かは分らない。もし、信頼性のあるギアであれば、沢登りの強い味方になるだろう。

                    *スポーツギア SGW-300H-1AJF



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