白石沢  西丹沢

氷の華 5m滝の倒木に

2011年12月11日
高橋





遡行図




コースタイム
用木沢出合9:30−ザレノ沢出合10:18−白石沢本流遡行−F1・16m10:34〜40−(高巻き)−2m滝11:57−白石ノ滝12:06〜13−白石ノ滝上段の下12:19−登山道12:37−(下山)−白水沢出合13:07〜19−用木沢出合13:45

プロローグ
 小松さん企画の1314日の平日山行が日帰りになり、犬越路の避難小屋での「新雪ラッセル鍋」が中止になってしまった。そんな訳で、天気が良いという日曜日11日に、単独で西丹沢の白石沢に出掛けた。単独行というのはいいものだ。まず天候が選べる。そして、朝起きて嫌ならやめればいい。こんな気ままな遡行が今の自分には合っている。とにかく人間も沢も、面倒くさいのは嫌だ。歳のせいだろう。
 白石沢は、中川川の最上流部の沢である。加入道山の南面を流れる。白石沢の右岸から出合うモロクボ(室窪)沢は、沢登りで良く知られている。よく知られているということは、ガイドブックに掲載されたということである。それ以外の理由はない。このモロクボ沢の枝沢に水晶沢がある。この水晶沢は3年ほど前にウェクラの山崎さんと歩いた。この沢も最近は良く歩かれているようである。モロクボ沢や水晶沢以外にもこの白石沢の支流には、魅力的な沢が幾つかある。大室山の西の肩に上がる手沢やモロクボ沢の枝沢である雷木沢がなかなか面白そうである。白石沢の左岸支沢のトリキ沢や右岸ヌタ小屋沢、篠大慈沢も地形図を見る限りでは面白そうな沢である。いつか歩いてみたいと思う。この辺りの沢情報は、大方、「丹沢の仙人」マシラから派生したものであろう。仙人は丹沢のどんな小さな沢でも歩いているように見える。



 私の沢登りの原点は、西丹沢にある。西丹沢の登山道は、沢沿いに付けられていることが多い。つい最近歩いた大滝沢沿いには大滝峠上を経由して畦ヶ丸に至る登山道が、小松さんと歩いた西沢沿いには善六のタワを経由して畦ヶ丸に至る登山道が、用木沢沿いにも登山道があり、白石沢沿いにも登山道がある。これらの登山道を歩くうちに、丹沢の清流に魅了されてしまった。踏み均された山道を歩くのではなく、水の流れる清流をいつか歩いてみたい、自然にそう思うようになっていた。試みに沢を歩き始めると、その美しさと冒険の虜になった。登山道を歩くだけでは得られない興奮が沢にはある。冒険は鬱屈した思いを浄化する。それは、救いだった。

用木沢出合からF1まで
 用木沢出合に車を止めるつもりだった。だが、用木沢出合には6台ほどの車がすでに止めてあった。それはそうだろう。あまり早く家を出ても、寒い沢を歩くことになる。そう思って、家を遅く出た。用木沢出合に着いたのは、9時過ぎていた。途中の西丹沢自然教室前の駐車場もいっぱいだった。こんなに寒くなってもまだ歩く人は大勢いるらしい。用木沢出合の狭い中に、ようやく自分の車を停めることができた。
 日だまりで沢の準備をして林道を歩く。空は、今年初めて見る青さだった。雲が何処にも無い。白石沢は南面の沢なので朝の陽がいっぱいに注いでいる。天気が良いと心も自然に明るくなる。樹木はすべての葉を落としていて、林の中も明るい。白石沢を左に見て歩くと、すぐに手沢の出合だ。この沢の水は多い。ゴーロの沢というが、いつか歩いてみたい。白石キャンプ場跡を右岸に見て、林道を歩く。


左に白石沢を見て歩く 木の葉は落ちて
今日は一人で 日が差して温かい 空は真っ青 林道をゆっくり


 標高720mの左岸からトリキ沢が出合う。この出合は開けていて明るい。日が当たるので寒い時期のテン場には最適だろう。ここで木橋を右岸に渡る。陽の当たらない右岸の斜面には白い雪が見える。寒気が来た三日ほど前に降ったものだろう。標高800mでヌタ小屋沢の出合いになる。この出合には、4mほどのトイ状滝があり、その奥は暗いゴルジュだ。難しそうな滝が二つほど見える。奥には大きなナメ滝がある。この沢は、まあまあの水量があり、ゴルジュの奥に興味がそそられる。このゴルジュ突破が第一関門になるだろう。

落ち葉の敷き詰められた林道を暫く歩く 時々丸太の寄せられた木橋を渡る ヌタ小屋沢出合 奥にゴルジュが見える


 ヌタ小屋沢出合を過ぎて白石沢を歩くと、じきに二俣になる。水量は右俣のほうが多い。左俣が今日歩いてみようという白石沢本流で、右俣はザレノ沢である。ところで、白石沢は堰堤の展示会のようなところだ。車を止めた用木沢出合から白石沢出合まで、15ほどの堰堤を見た。本流の出合先にも堰堤が三基見える。堰堤というのは時代の産物なのだろうか。それとも、これからも造られていくのだろうか。一基、完全に崩壊した鉄の堰堤も見えた。
 白石沢の遡行は、堰堤越えから始まる。だが、左岸は岩壁、右岸は急な斜面になっていて、堰堤を高巻きするのは難しい。だが、堰堤に近づいてみれば左側に立派な梯子が取り付けられているのが見える。鉄を樹脂でおおった高級な梯子だ。そう言えば、丹沢の仙人マシラもそんなことを書いていた。
 堰堤の前で、岩に塗りつけられた赤ペンキを見た。おや、こんな所にと思ってみたが、辺りにも赤いペンキが落ちている。このペンキが、血痕であることはじきに分かった。獣同士の争いなのだろうか、それとも猟の跡なのだろうか。目を凝らしてゴーロを見ても、残渣は残っていない。惨劇がここで起こったことは確かだった。しかも、昨日かおととい。背中がゾクッとした。慌ててその場を去って堰堤を上がった。
 梯子の付いた堰堤を三つ越えると沢は右へ曲がっている。左岸は岩壁、右岸は急斜面に雪がうっすらと積もっている。沢が右に曲がったところに大きな滝がある。ほぼ垂直の滝だ。落ち口からまっすぐに水が落ち、中間部でやや傾斜のゆるくなった岩壁にぶつかり、わずか斜めに流れを変える。これが、F1だ。16mぐらいだろうか。滝の両岸とも岩壁で、高巻きもできそうにない。朝日の当たるF1を前に少し休憩。12月とはいえ、歩けば汗が出る。薄手のヤッケを脱いだ。さて、どこから高巻こうか。写真を撮ったりしながらこの先のことを考えた。いずれ、高巻くなら右岸の急な土の斜面を上がるしか無いだろう。だが滝前は右岸も岩壁で守られている。ブッシュがまばらにあるが、とても攻略できそうにない。幸い右岸の稜線は、目で見える。高度差50mぐらいだろう。ここは、小さく巻くことを考えながらダメなら稜線に上がろう。そう考えた。だが、この中途半端な作戦がいけなかった。


標高830m付近 二俣になる どちらも堰堤がある
左俣の白石沢本流 この辺りで 赤い血が


堰堤を三つ越えた 雪の残るゴーロを歩いて右へ曲がると 朝日が降り注ぐF1になる 16mぐらいだろう 両岸は岩壁


F1の高巻き
 右岸を戻るとすぐガレルンゼがある。この左手の枝尾根は急だがブッシュがある。まずここを登ったが思惑通りだった。ブッシュと木の根を掴みながら急登をこなす。枝尾根を登り切ると傾斜が緩くなった。だが、行く手は岩壁で、左手へ逃げる他はない。この先は、ブッシュもまばらで、足元ゆるい急斜面が続く。しかも、北斜面のため、どこもうっすらと雪がかぶっている。この雪がいけない。沢靴のフェルトには雪がくっつき厚くなる。斜面を見ても滑りそうで怖い。慣れないせいだろう。雪の斜面の登攀は怖い。こういう時、沢靴の底の平らなフェルトは何の役にも立たない。実際には、思いのほか滑らないのだが、もう心が滑っている。軍手も濡れて手もかじかんできた。稜線まで斜面を三分の二ほど登ったところで、ブッシュはまばらになり、斜面が急になってくる。この先は岩壁の基部を左へトラバース気味に登り、最後は急なルンゼか枝尾根を上がらなければならないだろう。稜線手前の状況はここからは見えない。上がるかどうか躊躇した。行けそうでもあるし、難渋しそうでもある。朝出かける時に、うちの山の神が「戻るという勇気も持ってよね」と言っていた。こういう時のことを言うのだろう。そう思った。「雪のあるこのルートは難しい。」そう決断した。

右岸の北斜面 白い雪が残っている 上部の傾斜は急になる
最後は向こうに見える枝尾根を上がった


 とすれば、稜線へ上がるルートは、下流方向にみえる枝尾根しか無いだろう。だが、その枝尾根も稜線へあがれると決まった訳ではない。見るからに急で、ブッシュが途切れれば、前進は難しいだろう。だが、こちらのルートよりは良さそうに見える。とにかく、あの枝尾根まで行ってみよう。枝尾根に取り付いて登れなければ撤退しかない。そう思った。だが、まずは雪の斜面をその枝尾根までトラバースしなければならない。そう難しくないと思うが、隠れた木の根や岩で足を滑らせれば滑落するだろう。まばらなブッシュに、補助ロープで身体を確保しつつ何度かトラバースする。枝尾根まで30mはあるだろう。緊張のために喉が極度に乾く。枝尾根に上がるところが足元ゆるく急だ。足元をほじくりながらスタンスを作り、やっとのことで枝尾根に上がった。高巻きを始めて、ここまで、40分も掛かってしまった。沢床から30mしか無いだろう。
 幸い枝尾根は掴まるブッシュがあるし足元も固い。枯れた煤竹の枝をポキポキ折りながら登った。何とか使えるブッシュや木の根が出てきてひと安心する。雪の斜面には獣の足跡も見える。みんなここを歩いているんだ。下から見た時も、この枝尾根が最も易しそうだった。なぜ、最初からここを目指さなかったのだろう。ルートを眼で追いながら稜線を目指す。ふと見ると獣の足跡に混じって雪の上に靴の跡がくっきりと残っている。驚いた。歩いたのは今日でない。とすれば、先行者が歩いたのは雪の降ったあとだ。おそらく昨日の土曜日だろう。沢の道楽者が他にもいたのだろうか。それとも、ヌタ小屋沢との境界尾根を上がってから、この枝尾根へ一度下がってきたのだろうか。いずれにしろ、靴跡からすれば沢靴ではないことははっきりしている。猟師だろうか。とすれば、あの堰堤前の血痕はこの猟師と関わりがあるのだろうか。そんなことを考えるうち、やっと境界尾根の稜線へ出た。

写真では分かりにくいが、雪の上に靴の跡がある きのうか?
なぜこんな所に


 尾根にはしっかりした踏み跡があり、テープもあった。尾根を歩いていると後方で獣の動く気配がした。狸だろうか。獣の世界に踏み込んでいることに気づき、笛を吹いた。左にヌタ小屋沢の沢音を聞きながら、支尾根をゆっくりと5分ほど歩いた。しっかりした枝尾根を探し、沢を目指して下った。途中急になった枝尾根を離れて雪の積る窪へ下がる。この窪も先がガレていたので、ひとつ左手の窪へ移った。白い雪の窪をズルズル下がって沢へ降り立ったのは、高巻きを始めてから1時間10分ほど後だった。陽の当たらない暗い沢床であった。ここはどの辺だろう。沢を下ってF1の落ち口を確かめたい気持はあったが、あまりにも時間を費やしてしまった。この先を歩こう。

枝尾根を降り、雪の積る窪を沢へ下降 下に沢が見える 沢に降り立つと2m滝 その向こうには5m滝 両岸には雪


2m滝から登山道交差部まで
 マシラの遡行図によれば、F1の上には、4m、8mの滝がある。現在地から先を見れば、まず2mの滝、その先すぐに5mほどの滝が見える。とすれば、ここは8m滝の上だろう。8m滝は難しいというから、偶然だがベストの着地点といえるかも知れない。まず2mの滝を簡単に登った。その上の5m滝は遠目に難しそうだったが、近づいてみればホールドはある。滝に懸かる流木に、朝方の冷え込みで出来た氷の華が咲いていた。溶け掛かっているが、陽の当たらない沢の気温は5℃ぐらいだろう。今の時期、陽が当たらないところは極端に寒い。滝は苔なのかベルグラなのか、やたらと滑るので慎重になる。5m滝の上は、ナメと小滝になり、厳しい高巻きで昂った心をいやしてくれる。白い石を見つけ写真を撮った。凹面は灰色だが、転がり面は磨耗して乳白色の鈍い光を発している。これが、白石沢の由来なのだろう。この辺りでは、かつて大理石が産出されたという。この白い石も、磨けばピカピカの大理石に変わるのだろう。


5m滝の落ち口から上流を見る
2m滝上の5m滝 流木に氷の華が咲いていた 岩は滑る



この白い石(上)が白石沢の由来 大理石
5m滝上の小滝とナメ 心がいやされる


 この先で、沢がわずかに右に曲がると突然明るくなる。陽を浴びた連続する二段の大滝が正面に見える。下の滝は10mはあるだろう。その上の滝も大きい。二つの滝を足せば30mぐらいは有りそうだ。どうやらこの滝は、白石ノ滝のようだ。今は冬枯れの季節、両岸に緑が無いので寒々しいが、暖かい季節は更に美しい滝になるのだろうと思う。10m滝は、水に濡れたところには茶色い苔が付いている。滑りそうだ。幸い中盤にバンドがある。上部はホールドが見える。高巻く方法も残されていはいるが、ここは登ろう。滝下に寄れば、ルートが読めた。ただし左から取り付き、バンドで流れを渡り右へ上がるので、途中水を浴びて濡れるだろう。だが、スピーディーに行動すれば何とかなる。そう思ったが、実際は少し違っていた。

白石ノ滝二段30m 下段10mは左から入り水流右へ抜ける 
黒いところは苔で滑る 水を浴びてずぶ濡れになる


 まず左から、苔でぬめる滝の基部を一箇所微妙なバランスで斜めに上がる。細流がわずかに身体にかかる。バンドに立って流れを避ければ飛沫を受ける程度だ。だが、この上がいけない。右上段の取り付きが悪く、流れに身を投げいれてホールドをとらえないと右へ上がれない。苔も付いているので滑る。意を決して流れに飛び込んだが、バランスを取りきれず一度撤退。どうしようか。サクサクとは登れないので、水流で身体は完全に濡れるだろう。かといって戻るのも難しい。バンドに立っているうちに飛沫はかかる。ここは登るしか無いだろう。再び意を決して流れに身を投げる。どのぐらいホールドを探ったのだろう。おそらく5秒と掛からなかっただろう。それでも身体はすっかり濡れた。流れを越えて、乾いたホールドをとらえて、ひと休みした。思いのほか水は温かく助かった。背後から日に照らされているので思ったよりは寒くない。だが、激しい運動で身体が暖まっている。活動を休止したら身体は急激に冷えるだろう。
 上段の滝20mの手前には、広いテラスがある。この滝は立っていて、とても登れそうにない。日が当たるためだろう。褐色の苔も付いている。事前情報によれば、ここは、左岸右岸とも巻けるようだ。すっかり濡れ鼠になってしまったので、簡単そうな左岸を巻くことにした。ここは、緩やかなルンゼを落ち口高さまで上がり、枝尾根を越えて落ち口へ降りれば簡単に交わせる。高巻きの途中で、すぐ上を二人の登山者が歩いているのが見えた。向こうは、登山道の下に人がいるのに驚いたらしく、声をかけてきた。手を挙げて応える。

上段20m 急傾斜でとても登れない 右の窪から上がり
小さく巻いた 比較的簡単に巻ける


 白石ノ滝上は、すぐに6mほどの斜瀑だ。流れは正面の岩に隠れていて見えない。左から流れを覗いて見ると水はそう多くない。滝を登るとしたら水流に抗して登ることになる。登れるだろう。だが確実に濡れる。これ以上濡れたくない。正面の岩に沿って右から小さく巻いて、落ち口へ降りた。その先は、2mの滝が斜めに懸かっている。このすぐ上で沢は、登山道にぶつかる。右手に標識があるのですぐ分かる。すっかり濡れてしまった。きょうのひとつの予定はここまでなので、登山道を下ることにしよう。登山道を歩き始めると、少しだが風が通る。濡れた身体には応える。登山道を下がって、風のない日だまりでお昼にしよう。

要塞のような6m滝 正面の岩に隠れ、トイ状に滝が落ちる
6m滝を横から見る 登るなら水流沿いだろうが濡れる ここは小さく右を巻いた


2m滝 この上で登山道にぶつかる 左岸に標識 白石峠/用木沢出合 の表示


下山
 今日歩いた白石沢の遡行はたったの0.5kmに過ぎない。それでも変化に富んだ沢だったので、なかなか面白かった。時間が早ければ主稜線まで完登したいと思った。だが、朝遅く日暮れの早いこの時期、日帰りで沢を完登するのはなかなか難しい。しかも、白石ノ滝で濡れてしまったので、登山道から引き返すことにした。登山道を下るとすぐ「白石ノ滝」の銘板がある。木の葉の落ちた林の向こうに、大滝が見える。水が少なく緑も無いので今ひとつの景観だった。
 日の当たる登山道を駆け降りるように下った。身体が水に濡れていても、そう寒さを感じなかった。すぐに日に照らされたザレノ沢へ降りた。左岸をゆったりと歩いた。早くも西に傾き始めた日が、左岸いっぱいに差していた。風のない白水沢の出合いで、水の流れを見つめながら弁当を食べた。ときどき、風が吹いてくると寒さを感じたが、心は暖かだった。またいつか、歩き残した白石沢の源流を、この周辺の沢を訪れたいと思う。それは春になるだろう。

登山道を下るとはザレの沢に降りる 白石沢の右岸 日の当たる疎林を歩く


ヌタ小屋出合い近くに針葉樹の大木 白水沢の出合 暖かい日差しと青い空 白石沢の清流を見ながら弁当を


下山途中見た石棚山の方は雪が残っている



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