魚沢 奥鬼怒・鬼怒川黒沢

ゴゼンタチバナ 魚沢 黒沼田代の上標高2500m付近


2011年9月24〜25日
ウェルネス・クライマーズ
トビウオさん、山崎さん
タケさん(ゲスト)、高橋



遡行図



コースタイム
9月24
女夫淵温泉7:41−魚沢出合8:26−1360m二俣10:48−ゴルジュ4mCS11:20(戻る)−1360m二俣11:37−大滝25m11:57−旧林道13:28〜52−4m滝上ナメに再入渓14:29−1620m16:00(泊)
9月25日
テン場7:48−三俣8:48〜9:16−1830m二俣(2:1)−Y字ナメ滝10:28−黒沼田代10:55〜11:15−黒岩山分岐11:48−小松湿原上水場12:35〜13:00−1980m鞍部14:11−スーパー林道15:15−女夫淵温泉18:20

プロローグ
 魚沢は、今年の7月初旬、ウェクラの行事で計画したが、天候悪く中止した。この魚沢は、昨年のやはり7月初旬に、さわねの四人で北隣りの赤岩沢を歩いたときに、下降に使った沢である。美しいなめを下り、大きな滝を懸垂して降り、懸垂も怖そうな18m滝手前から左岸の林道へ上がって下山した。このナメの美しい魚沢をいつか完全遡行したいと考え、今回の計画とした。
 魚沢の遡行は、赤岩沢の遡行に隠れて不遇な位置にあった。今でもそうあり続けている。だが、この魚沢は、十分に遡行するに値する美しさと厳しさを持っている。問題は下山路である。今回は初心者もいたので奥鬼怒林道を下山したが、足が揃えばコザ池沢支流の北沢や小北沢を下り、コザ池沢を下降する方法もある。ただし、このルートの情報はない。もちろん、赤岩沢の下降も良いだろう。
 当日は、台風15号の大雨のあとで、水がまだ少し多い状態だった。だが、台風が去って3日目となり、遡行には全く支障がなかった。前泊するべく女夫淵駐車場に一泊する夕方、沢支度を解いていたグループに聞いたところ、魚沢は足をとられるほど水勢が強かったと言う。だが、このグループ、赤岩沢遡行、魚沢下降を日帰りで済ませたというから、ただ者ではない。確か、行動時間が11時間と言っていた。

 前日、女夫淵駐車場の東屋にタケさんと陣取って酒を飲み始めたが、薄ら寒い風が吹き始めた。このままでは、寒くて寝られないかも知れないと見て、風の当たらない場所へ移動した。夕方、おそらくは夕立の中をバスで到着したのだったが、いつの間にか夜空に星が瞬くようになり、明日の遡行を約束していた。天気を心配しないで遡行できる安心は、南ア大武川以来である。

登場人物

 トビウオさんとは初めての遡行だ。トビウオさんは、「水に入ると飛び魚のごとく泳ぐ」ということから付けられたニックネームのようだ。ウェクラは、もともと水泳を基本に繋がっているクラブだ。その水泳仲間からトビウオと呼ばれるのは、相当な力を持っているためだろう。トビウオさんは、以前、栃木百名山完登の女性として紹介したことがある。以前から、私の企画する遡行に参加したいと意欲を示してくれていたようだが、なかなかチャンスが巡って来なかった。今度ようやくその機会がめぐって来たという訳である。
 山崎さんによると、自然の「理科」に博学だという。稜線付近の小さな赤い実の草の名を聞くと、彼女は、たちどころに「ゴゼンタチバナ」と返した。星座にまつわる知識も豊かだと聞いた。だが、その夜はあまりに良い焚き火だったので、様々な話に花が咲き、満天の星を仰ぐ時間は取れなかった。
 彼女の物言いは、率直であって説得力がある。たぶん、天性のものだろう。お義母様の介護をする日常を語る言葉にはリアリティーがあり、感動的でもある。今度の遡行に対する喜びを語る率直さにも、彼女の人間性があふれていた。私も人に率直でありたいと心に願っているが、及ばない。彼女に、日本的で豊穣な母性を感じ取るのは私だけなのだろうか。おそらく、山崎さんたちもその豊かさに触れて、彼女のファンになっているのだと想像する。
 トビウオさんは、生活の忙しさのために、最近はなかなか山に行けないという。もちろん、沢は初心者である。だが、水泳とトライアスロンと山で鍛えた体力は相当なものだ。一日目の、私の「ルートミス」による体力消耗、二日目の10時間半にも及ぶ強行に、ひとことの弱音も吐かずに通したのだった。運動神経も天性のものだろうと思う。初心者には難しいホールド乏しい滝をフリーで登ってしまった。実は、ロープを出すまでは、登って欲しくない滝だったのである。

 山崎さんとは、某沢教室で一年間学んだ仲だ。もう5年も過ぎたが、この5年間、シーズンには月に一回づつ山崎さんとは様々な沢を歩いて来た。私が心底信頼する数少ない沢仲間である。我々はともに初心者である。そう思いながら沢を歩いてきた。山崎さんは、常に冷静で、ひとに対する配慮を欠かさない。そのために、ウェクラのリーダーで在り続けるのだろう。リーダーは、単に技術に優れていたり、声が大きいだけでは務まらない。寄せられる信頼がその礎にある。
 最近は、トライアスロンに凝るスポーツ万能の還暦組だ。どうやら、山崎さんは、「横好き」のようだ。「下手な横好き」ではない。「横好き」でありながら、ひとつひとつの興味を徹底して掘り下げるタイプのようだ。それにしても還暦を過ぎ、トライアスロンに熱中する「馬鹿者」がどこにいるだろうか。その種の個人競技を理解しない私には、そう思えるのである。山崎さんといつまで沢を一緒に歩けるのだろうか。そんな思いを一年一年で区切り、付き合いを続けてもらっている。今年も残りあと一回になった。

 タケさんは、私から見れば彗星のごとく現れた星である。もともと会の経験も浅く、沢の基礎技術が不足している私に、付き合ってもらえる相棒は少ない。7月に会を辞めたガクさんには、言葉では表せないほどお世話になった。彼氏は良き相棒だったが、今は急変する経済状況の中で苦境にある。いずれ沢に戻ってきてくれることを願うが、定かではない。そんなところに、タケさんが現れたのである。
 どうした訳かタケさんは、私の企画する遡行に都度参加してくれている。山というのは不思議なものだ。一緒に行動していると、自然と心が通うようになるのである。私は、タケさんの率直さが好きだ。「今は、どんな沢へも行って学びたい。」 この言葉に嘘はないだろう。沢へ行って楽しい。その楽しさを率直に語ってくれる。ありがたいことである。今年の私の遡行は、タケさんによって支えられてきた。

魚沢 ゴルジュの滝まで
 女夫淵駐車場から黒沢沿いに伸びる林道跡を北に30分ほど歩くと右から大きな沢が入る。この沢を渡って少し歩くと黒沢の右岸に魚沢の出合が見える。この地点から少し戻って笹薮をかき分けると簡単に黒沢に降りられる。薄い踏み跡がある。黒沢を徒渉して魚沢に入る。
 魚沢は、最初ゴーロだが、次第に小滝や見応えのある滝10mが現れる。釜があるところは水が碧い色を見せる。ゴルジュの中に突然大きな滝が現れる。この滝は右と左に流れを分けて滝を落としている。勢いのある右の滝をまたいで登る。岩がすべらないのが救いだ。ここから、標高1320m付近の15mほどの大きな滝までは、釜が現れたり小滝が現れたりで、心いやされる渓相になる。15m滝は末広りの大きな滝だ。この左の流れを登れるとの情報があったが、ここは結構すべる。今日は水も多い。ここは右岸を小さく巻いた。この15m滝上からは赤い岩のナメになり小滝が時々現れる美しい渓である。天気が良いので木洩れ日がキラキラ輝いてまぶしい。1360m付近で左岸から水量の多い支流を迎えると、その先で両岸切り立ったゴルジュに突入する。滑りそうな3m滝を跨ぐと、左から枝沢の滝が落ちる。前方にはゴルジュの中に3〜4mのCS滝が見える。水量が多くとても登れそうにない。ここは、標高1410mの地点である。CS滝手前には、左岸に踏み跡が認められるが、情報では高巻きのバンドのトラバースが怖いという。

魚沢出合いから本流黒沢を見る 黒沢の徒渉は問題なし 小滝が現れ始める 台風のせいだろう水は多い


こんな渓相 どこか庚申川に似ているが岩はすべらない



突然前方に大きな滝が見える
ゴルジュに10m滝 右滝の左岸をトラバースしながら
上がった 
赤い岩の滝だ 水量が多い


10m滝を上から見る 流れが左右に分かれて滝になる 10m滝上 小滝のナメが続く この上はナメが続く


淡い緑色の釜と小さな滝 ここでひと休みした 心洗われる 先に大きな滝が見えてくる 二条15m滝だ



二条15m滝上は、またナメが続く
二条滝15m 左の流れは樹木に隠れて見えていない 
ここは右岸を小さく巻いた


左岸から水量の多い支流が入る(1360m付近) その先の
ナメを行くとゴルジュになる 奥に3mの滝が見えてくる
ゴルジュ3mの滝をまたいで上がる


ゴルジュ4mCS 両岸切り立っている 直登は難しい
左岸の草付きに踏み跡があるが、ここは登らず下流へ
戻り
1360m付近の左岸支流へ入る 水量は多い


もどって支流の巻き
 ゴルジュCS3〜4m滝は無理せず、1360mの左岸支流出合に戻って、この支流を標高差150mほど遡って林道へ上り、林道を使ってゴルジュの先の二段18mの滝も大きく巻いてしまおうと考えた。新しいルートを開拓しようという思いもあった。だが、これが大きな間違いだった。地形図を見るかぎりは、おとなしいこの支流は、大きな滝がいくつも懸かる「険谷」だったのである。まず、沢がヤブっぽくなるとその先で大滝25m四段滝になる。魚沢のどの滝よりも高い。ここは段をなしているので登れそうだったが、安全を見て左の涸沢から巻いた。これで難しいところはクリアしたと思ったが、さらに10mの滝が現れた。ここは、左の弱点から一段目を上がり、水流沿いを上がり落ち口を越えた。岩がやや脆い。この10m滝上にすぐゴルジュ6m滝がある(標高1480m)。取り付きが小難しいので、少し難儀した。水流の左をフリクションと笹づかみでやっとのことで越えた。この先のゴーロを少し歩いてヘトヘトで林道へ上がった。支流に入ってから林道へ上がるまで1時間50分も掛かってしまった。林道へ上がってからさらに沢本流に下降するまでに、35分かかっている。ずいぶん大がかりな巻きになってしまった。だが、隠れた大滝を見たことで満足することにしよう。写真ではこの大滝の全容はよく分からないが、変化に富んだ美滝である。一度はこの滝を登ってみたい、そう思わせる滝である。難度はそう高くないだろう。

下降すると左岸支流が見える 左岸支流に入るとゴーロ


思いがけない25m四段滝(5、5、5、10m) 水量が多い
上段の滝は立っている 左の涸沢を上がり巻いた
10mナメ滝 左の弱点から下を上がり上部は水線通しで
上がった ロープを出した

6m滝 左端を笹を掴んで登る 微妙に難しい


魚沢降下地点上の難しい滝
 ここからは、林道を少し歩いて魚沢1500m辺りの地点へ降りれば、二段18mもかわせるはずである。ただ、笹薮で林道周辺の地形が良く読み取れず、予定の地点より少し先で沢に降りてしまった。そこは二段18m滝の上、4m滝上の広いナメが連続する場所だった。ナメの先の12m懸垂滝は、垂直に立っていて落ち口の水量も絞られているため、そう簡単には登れそうにない。ここは、右岸の泥壁を上がり適当な高さでトラバースをして落ち口へ出る。ここは、あまり登り過ぎない方が良いだろう。枝尾根を越え、ロープを使って急な窪を降りた。枝尾根を越えるところと、窪を下がるところにかすかな踏み跡がある。ここは結構体力を使った。12m滝すぐ上の扇状8m滝は、左の弱点を登ることができた。この先で、左岸が崩れ大きな岩が二つ並ぶCS滝になる。4m、5mの二段滝である。上段には倒木が架かっている。二つ目の大岩に沿って右の斜面を上がり、岩の後ろを巻いた。難しくない。この上の1620mで左岸から枝沢が入る。この出合いすぐ上の左岸にタープを張った。この上はナメが続き、適当なテン場は見つからなかった。ナメの続く魚沢は、段丘の発達がなく、テン場を探すのは苦労する。


こんな落ち着いたナメもあって
林道から降り立った本流はナメだった ここは、18m滝、
4m滝の上だ



巻いて落ち口へ下降する ロープを出した
12m懸垂滝 達人であれば登れるかも知れない ここは右
岸の泥壁を上がりトラバースして小尾根を越えて窪を下降



またまたナメになる
扇状8m滝 12m懸垂滝のすぐ上 ここは左が登れる



水辺のテン場に座って見える小滝二つ 風流がある
下段4m、上段5m 滝の右に巨石が二つある 二つ目
の岩の周囲を右から回りこむように巻いた


1620mテン場上の難しい滝
 テン場から20分ほど長いナメを歩くと、沢が直角に左へ曲がる地点に6mの滝がある。ここは直瀑で、両岸の岩が脆いため登れない。滝を少し戻って右岸を巻いた。この滝上からもまた長いナメが続くが次第に沢幅が狭くなる。4mほどの滝を右から登り、狭くなった沢を上がると、三俣になる。この右俣は幅広の大きな滝になっている。7mぐらいはあるだろう。左俣は細流で高い滝を水が落ちている。右俣の滝は、登れそうだが、落ち口が立っているので微妙に難しいだろう。この滝は、中俣を少し登ってから右俣へトラバースしている情報があった。だがここは、タケさんの判断で右俣の左岸から巻くことにした。ここは、かなりのヤブである。ヤブを上がり左手にトラバースしたいのだが、斜面が微妙に急なので上へと追いあげられた。左手上に樺の木が見えたのでそこを目指した。そこから下には、右俣本流が見える。樺の木にロープを掛けて、急な笹薮を降りると30mロープいっぱいで右俣の落ち口だった。

テン場の上から小滝を越えてナメを歩く ナメをヒタヒタと歩いて 6m滝 少し戻って右岸を巻いた



三俣の右俣7m滝 左岸の藪に上がって巻いた
またまたナメを歩く



7m滝落ち口から三俣左俣の滝を見る
7m滝の左岸を巻く ヤブが濃い


詰め 黒沼田代へ
 黒沼田代へ出るルートを選択した。地形図をよく見ればルートが分かる。途中の枝沢を見送り田代を目指す。途中、3mの急なナメ滝をロープで降りる4名のグループと行き会った。赤岩沢を登り魚沢を下降して来たという。軽く挨拶して別れる。1950m付近で急なナメ滝になる。もう水は少ない。ここは二俣になっていて、右へ入る。急なナメ滝の右端を細い笹を頼りにジリジリと上がる。落ち口までは15mはあるだろう。ここは、初心者のトビウオさんには、ロープを出すべきところだったと思う。反省する点だ。この上に小さな支沢が出てくるが、沢形がしっかりしているので、本流を外すことはないだろう。水が少なくなり、平らな地形になると、右手が明るくなった。樹木の向こうが黒沼田代だった。ヤブ漕ぎなしで着くことができた。
 突然、明るく開けた草原に出合い、みんながいっせいに歓声を上げた。薄暗い沢を詰めて来たみんなの心がいっぺんに弾けたのである。鬱蒼と茂る針葉樹林の中に、ひっそりとした草地が広がっていた。静かで美しい別天地であった。昨年7月に赤岩沢を遡行して黒沼田代に出たときも同じ感動だったが、そのときは、虫がうるさく長居ができなかった。きょうは、全く虫がいない。みんなで写真を撮ったり、草地に座ったりして静まり返った別天地の景観をのんびり堪能した。


黒沼田代に着いてパチリ
源流の沢を忠実に詰める


静かな黒沼田代 寒いせいか虫もいない


稜線山道へ
 黒沼田代からは真西に進路を取り、黒岩山へ登るルートの踏み跡を探した。標高2050mぐらいを南北に歩いている踏み跡があるようだ。針葉樹の下、藪のない地形を西へ登り踏み跡を目指した。途中、2050m辺りで薄い踏み跡があった。この踏み跡を左へ(南へ)たどったが、それはすぐ消えた。右手上方へ進路を変えると赤いテープが見え濃い踏み跡に出た。赤テープの踏み跡をたどると、ほどなく稜線の黒岩山分岐に出た。ここは、最初に見つけた薄い踏み跡の上に本道が走っていたのだろうと思う。本道にはテープが続いている。

下山
 黒岩山分岐から小松湿原水場を過ぎて鬼怒沼山方面へ稜線を歩く。コザ池沢源頭の稜線最低鞍部、標高1980mの分岐を東へ降りる。小松湿原の方から歩くと、何度か鞍部へ出るが目的の鞍部はなかなか出てこない。急坂を一気に降りたところにあるのが、この鞍部である。分岐にはテープがあるので、分かる。ここから急坂の踏み跡を転げるように降りる。コザ池沢源流に入り、歩きにくいゴーロを沢伝いに下降する。大きな堰堤を右から降りてすぐ、林道に出る。あとは、林道を惰性で歩いて行くだけだ。



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