2011.09.11 箱根 芦ノ湖西岸

ガクアジサイが咲いていた  少し季節外れか














 家から箱根峠までは車で走れば15分ほどだ。夏に箱根を歩くのは久々である。このところ、ことごとく沢の遡行が中止となって、足腰を使っていない。来週の中央アルプスの合宿に向けて少し歩いておこう。そう思って、午後から箱根へ出掛けた。家から箱根峠を越えて、芦ノ湖の西岸を歩こうというわけだ。芦ノ湖の観光開発は、東岸に限られている。小田急、箱根登山鉄道を利用する首都圏の観光客は芦ノ湖の東岸を見て帰る。それが定番になっている。震災前は、箱根の観光客の大半は中国人と見られたが,今年の夏はどうなのだろうか。とにかく近年中国人が多かったのは確かだ。東京から近いリゾート地として外国人には人気があるらしい。
 だが、その観光客は、芦ノ湖の西岸を訪れない。交通機関がないからである。不便であることが、自然を昔のままの姿で残している。芦ノ湖は、周囲長20kmほどの結構大きな火口湖である。この東岸は、船舶の港湾、ホテル、ゴンドラ、ロープウェー、別荘に開発され、夏の間は騒々しいばかりの観光地である。そんな中で、西岸はスカイラインが整備された程度で、開発が進んでいない。静かな箱根が残っている。西岸に箱根の湖畔を周遊する歩道が整備されている。私は、晩秋や春先のトレーニングの場として利用する事が多いが、夏にここを訪れたのは初めてだ。
 箱根峠の近くにある「やすらぎの森」に車を置いて、湖畔へ下がる。周遊歩道を湖尻へ向かって歩いた。時間的には、途中から引き返すことになるだろう。まだ、夏の名残があるせいだろう。白浜では、水泳をしている若者たちのにぎやかな歓声が上がっていた。だが、湖尻方面に向かうに従い、ひとの気配は徐々に失せ、芦ノ湖に飛び出した最初の岬、「箒ヶ鼻」を過ぎる頃には、湖のひとの気配が消えた。だが、シーズンなのだろうか、トレイルランニングで行き会う人が多い。ところどころマーキングしてあるので、近々大会があるのかも知れない。トレランは最近のスポーツだと思うが、そのファッションもなかなモダーンである。タイツに短パン、お洒落な上着、見るからに軽快である。自分のドブネズミのようなファッションからすると、まるで別の世界から来たような気がする。やはり、ハイキングや登山というのは泥臭い、カビの生えたような「スポーツ」なのかも知れない。最近は、スポーツ選手のことをアスリートと言うたらしいが、このアスリートと言う言葉を聞くと、自分は過去の人間なのだなとつくづく思う。その、アスリートの格好をした何人かの若者と挨拶を交わした。こんなことは、シーズンの過ぎた箱根では無いことなので、なんとなく嬉しい。
 周遊歩道とは言っても、登山道と思ってもらえば良い。舗装されているわけでもなく、整地されているわけでもない。ただ、湖面の10mぐらい上に造られた歩道なので、大きなアップダウンがない。この環境が、トレランの初級クラスのトレーニングには良いのかも知れない。箱根のホテルや別荘に泊り、朝や夕方にトレランをする。何か絵に書いたようなセレブの匂いがする。トレランというのは、やはりハイキングや登山とは相容れないように思う。ハイキングや登山というと今では、何か貧乏な匂いがする。世の中をすねて、何か自分だけが不幸な星を背負っている。そう思うような人が、やることなくてやっている「スポーツ」、それが登山やハイキングだ。少し偏見かな。
 周遊歩道をできるだけ早く往復14kmを歩く。それが、今日の課題だ。歩道とは言え、木の根や岩が突き出ているところもある。舗装道路を歩くようにはいかない。「白浜」、「箒ヶ鼻」の先は、「真田浜」だ。もうこの辺には、人影もない。だが、砂浜で右を向いてギョッとした。人が倒れていた。人が眠っていた。釣りでもして疲れたのだろうか。人騒がせだ。
 芦ノ湖東岸の中ほどに、駒ケ岳に上がるロープウェーがある。じっと対岸のロープウェーを見ていると、そこに固定された人生というものを感じた。なぜそんな想念が突然現れたのかは分からない。見ていると、ゴンドラが中程で交差する。この交差するときに運転手は、互いに敬礼するのだなと思った。一日に何度も何度も、同じところで行き交うたびに挨拶をする。しっかりと固定された支柱にぶら下がって、決まったルートを来る日も来る日も行き来する。この運転手というのは、実に狭い人生を生きるのだろうなと思ったのである。この、ロープウェーの運転手というのが、我々の人生の縮図なんだ。そう思ったのだった。それに比べ、長距離トラックの運転手は、まだ広い世界を生きている。そう言えるのだろうか。果たして、同じ会社の同じ部門に
40年近くも務めていた自分は、このロープウェーの運転手だったのではないだろうか。そんなことを、箱根園と駒ヶ岳を結ぶロープウェーを見ていて、思ったのだった。家に帰って分かったのだが、ローウェーには運転手はいないのだった。おそらく、地上勤務でゴンドラをコントロールしているのだろう。とすれば、その人達は、もっと狭い世界に生きているのかも知れない。「百貫ノ鼻」を過ぎると、駒ヶ岳ロープウェーが正面に見えるようになる。夏も冬も運転されていて、一年が巡る。
 この歩道を歩いていて楽しいのは、ときどき潅木が切れて湖面や対岸の景色が見えることである。このことが、この歩道を開放的に見せている。白い壁と赤い屋根の小田急・山のホテルが青い樹林の間に大きく見える。箱根園の右手に緑錆を吹いた屋根の龍宮殿が見える。芦ノ湖の腰のくびれを見せる「立岩」、そしてその先が、最も湖幅が狭くなる「小杉ノ鼻」である。今日は、この辺りで引き返すことにしよう。もう片道7kmも歩いたことになる。変に急いで歩いたせいか太股の付け根が痛い。沢を歩くときの疲労とは少し違う。
 帰りの駐車場に着いたときには、へとへとだった。これでトレーニングになったのだろうか。ベンチで休んでいるうちにも夕暮れの空気が澄み、涼しい風が吹いてきた。あの出掛けるときの30℃を超える三島の気温とは大きな違いだった。温度標識では22℃となっていた。



真田浜から見た対岸 駒ヶ岳の頂上にロープウェーの建屋が


平で歩きやすい歩道 木の根が張り出したところも


緑錆を吹いた屋根の龍宮殿が見える 天気が良くなって対岸が明るい



樹間に湖面の輝きが見える
右に雑木と湖、左に植林地が続く


小杉ノ鼻で湖幅が最も狭くなる ここで引き返す ヤギのような鳴き声が聞こえた 鵜だった こんなところに



山のホテル 対岸から見た美しさを考えて造った?
帰りの歩道 少し晴れ間が出て




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