大武川本流 南アルプス釜無川

シモツケソウ  摩利支天前沢へ入ってから

2011年8月14〜16日
クマチさん、ガクさん、タケさん、高橋


遡行図




コースタイム
8月14日
篠沢橋7:10−朴の木橋7:45−二ノ沢8:14−赤薙ノ滝9:38〜51−滝ノ沢出合11:05−カラ沢出合12:59−前栗沢出合16:32−テン場(標高1460m)16:47
8月15日
テン場(標高1460m)7:03−中栗沢出合7:54−奥栗沢出合9:25−摩利支天前沢10:06〜14−(高巻き)−大武川本流12:20〜40−摩利支天沢出合12:58−水仙峠登り口13:24−水仙峠14:56〜15:10−北沢駒仙小屋16:00

遡行図

 大武川本流の遡行図を作成した。私の知る限り、大武川本流の初めての遡行図だと思う。4m以上と判断した滝を記載した。大きな滝は少ないが、4〜5mのスラブ滝の多い沢であることが分かる。記載したすべての滝に深い釜がある。遡行図では省略した。なお、一日目のテン場となる可能性の高い前栗沢出合から赤石沢出合までの間には思いのほかテン場の適地は少ない。われわれの泊まった標高1460mの左岸のテン場はやや暗いがベストに近い。
 大武川本流の遡行ガイドは、『日本登山大系南アルプス』にしか見当たらない(P58)。遡行図に相当するものは、同頁に「甲斐駒南面のアプローチ」として大武川本流の遡行概要図が紹介されている。この概要図には、大きな滝のみが記載さているが、今度の遡行の体験から、その内容には誤りがあるものと判断した。また、この概要図には示されていない滝が多くあることも分ったので、今度の遡行で得られた情報をもとに最新の遡行図を作成した。
 登山大系には、カラ沢出合手前にある大きな滝を「10mヒョングリノ滝」とし、カラ沢出合の先にある大きな滝を「鵜の首ノ滝」としている。しかも、「鵜の首ノ滝」は、地形図ではヒョングリの滝と誤記されているとの記載がある。この滝の名称に関しては、web情報でも錯綜しているように見える。
 まず、カラ沢出合手前の滝は、次のような滝である(写真1)。私の観察では、この滝を三段12mとした。落水が岩の曲面で躍り上がるのをヒョングリという訳だが、この滝にはそのような箇所は見られない。だが、上段部にわずかだが小さなヒョングリが見られる。だが、これでヒョングリノ滝と言うには少々無理がある。右岸側から撮影したわれわれの写真では、この滝の特徴をつかめていないが、web情報の貴重な資料(写真2)がある。この滝の左岸側の端、上段部に、垂直に近いトイ状滝が隠されている。このトイ状滝は、縦にかなり長く特徴のある滝になっている。このトイ状滝が、見方によっては「鵜の首」のように見える。

写真1 右岸側から見た三段12m滝





    web情報から (鵜の首ノ滝 資料)

写真2 左の滝の右端、上段部の水の流れ 縦の流れが鵜ノ首に見える(web資料より)



 一方、登山大系でカラ沢出合の先にあるという「鵜の首ノ滝」の実物を見ると、次のような滝である(写真3)。なぜこれが、「鵜の首ノ滝」と命名されたのか、その形からは判斷できない。私の観察では、この滝を二段10mとした。この滝を良く見ると上段の落水が中段の凹部へ当たり、下部のスラブをナメ落ちているのが分かる。形状的には、明らかにヒョングリノ滝の形を見せている。この滝は、水量が多くなればヒョングリを見せるのではないか。あるいは、かつてヒョングリを見せていたが、その後の滝の摩滅で、ヒョングリが見られなくなった。そう考える方が自然ではないか。
 以上の理由から、私の遡行図では、カラ沢出合の手前にある12m滝を「鵜の首ノ滝」、カラ沢出合先の二段10m滝を「ヒョングリノ滝」とした。日本登山大系の表記は正しくないと判断した。

写真3 カラ沢出合先の二段10m滝 滝の中段が凹み
ヒョングリを打つ形状になっている



プロローグ
 7月末の時には天候が悪く中止。そこで、「沢登り同好会さわね」のお盆の山行として再度、企画提案した。だが、みんなはお盆の計画で忙しいらしく、参加者はタケさんだけという寒い状況だった。南ア・釜無川大武川(おおむかわ)は二人で入れるような小さな沢ではない。そこで、会の山行を諦めて、急遽会員外のガクさんに参加をお願いした。ガクさんは、お盆には計画があったようだが、ぜひにとお願いして高橋の企画に載ってもらった。すると、クマチさんがギリギリで参加表明。
もちろん大歓迎だ。仔細考慮して「個人山行」として実施することにした。大武川は、南アルプスの初級の沢?として選定した、ぜひ遡行したい沢であった。大武川の詰め上げる先、甲斐駒ヶ岳は往年、畑本さん、山本さんと登った山だが、すでにふたりとも鬼籍に入っている。私にとって、今度の山行は追想の旅でもあった。70年代に渉猟したピークを、今度は沢から詰上げるという趣向である。とは言っても今回は仙水峠までの旅だ。

アプローチ
 前日の夜、中央線の穴山駅に集合した。この穴山駅には初めて降りた。武田家と縁のある穴山家の発祥の地のようである。無人駅穴山駅の近くの秘密の場所で、前夜祭を繰り広げた。それでも節操を守って、11時には就寝。

 翌朝、前日に頼んでおいたタクシーに乗り込み篠沢橋まで走ってもらう。篠沢橋は大武川の支流、篠沢を渡る橋だ。この橋のすぐ先のゲートから歩く。現在の林道は、2.5万図とは少し違う。左岸に伸びる新しい工事用道路を進み、標高900mで朴の木橋で右岸に渡る。もう一ノ沢出合を過ぎた上である。この朴の木橋の前後は、税金の無駄遣いの大規模土木工事が沢を荒廃させている。
 二ノ沢を渡るまでは、作業道がしっかりある。二ノ沢には橋が架かっていない。二ノ沢を過ぎたすぐ先で道路が二俣になる。大武川の沢へ降りる右へ下がる道路を見送り、左の道路を上る。だが、すぐ道路は無くなる。そのまま踏み跡を歩くと旧道になる。歩くのには支障がない。二ノ沢と赤薙沢出合との中間辺りから旧道は崩れ、懸垂を一度強いられた。その後は、固定ロープがしっかりしていて、効率良く旧道を進むことができる。アルミ梯子を降りると入渓点は近い。釣り人が入るのだろう。固定ロープが沢まで導いてくれた。そこにはスケールの大きな南アの沢が待っていた。


朴の木橋 異様に豪華な建造物が  この先、道路は1キロしかない
朴の木橋の手前を歩く 朝日が射して暑い



入渓点を上から いよいよ大武川へ
旧道崩壊部をフィックスロープを使って降りる 赤薙沢が近くなると旧道は崩壊が激しい



入渓点の小滝 とは言ってもこの岩も巨大だ
赤薙ノ滝 大きい 20mはある 水流左の人が小さく見える


大武川の概要
 タクシーの運転手によれば、大武川は「おおむかわ」と発音するらしい。大武川は、なかなか美しい沢である。基本は花崗岩の沢だ。こぼれた砂は白い。入渓したときには、ご飯粒が落ちているのかと思ったぐらいである。スラブの滝やナメは苔が付いているので薄く褐色掛かっている。だが、砂粒は流され絶えず動いているので苔が付かず、花崗岩の白さがそのままに見えるのだろう。大武川は、登攀の沢ではなく基本的にはゴーロの沢だ。ゴーロには、小滝が始終現れる。石が重なって造るゴロタ滝(石滝)は、数えきれない。4,5mのスラブ滝も嫌というほど出てくる。沢床が現れている場合は、花崗岩のナメとなり歓声を上げることになる。どの滝も大きな釜を持っていて、その深さに応じて碧から深い緑に色を変える。この色がまた美しい。ときどきに現れる大きな滝や連瀑帯は、滝通しで登れないのでその全容はつかまれていないものと思う。大きな釜を従えたスラブの連瀑帯は両岸の緑と相まって、南アルプス特有の景観を造り出している。沢幅は一般的に遡行されている沢の中では、広いほうだ。だが、昨年の歩いた尾白川よりは狭い。尾白川は特別だろうか。六町ノ滝上からは水量も減り、沢幅が狭まる。これでやっと奥多摩や丹沢の沢の規模になる。


 大武川の遡行図は、日本登山大系、南アルプスのものしか知らないが、この遡行図には多くの滝が抜け落ちている。


8月14日 赤薙沢出合から前栗沢出合の先

赤薙沢出合先で 大岩の上で 水の色が釜々で変わる


二番目に出合う滝5m この手前で二人の釣り人に会う 四段の滝最下部5m滝 これが下一条ノ滝か いずれも左岸を巻いた 美しい渓相が続く
釜に入り右の岩へ上がる


登りにくい滝が続く 水がきれいだ ゴルジュ 奥の滝はスダレ状4m滝 スダレ状4m滝は釜を越えて左を登る


美しい淵の前で少し早い昼食にした 日差しが当たるといっそう水の色が映える


巨石の滝4m 登れない 両岸切り立っているが左岸を戻っ
て巻く 絶妙な巻ルートがある 落ち口から巨石を見れば、
お釈迦様の顔に見える(釈迦ノ滝) 






標高1170m付近









ゆるやかに落ちる滝
12m滝 三段になっている 鵜の首ノ滝 鵜の首は滝の上段右端に隠れている


大岩の滝6m 勢い良く水が落ちる4mスラブ滝 また大岩が現れる


標高1250m付近 ゴルジュの行き止まり 6m滝 ここは少し戻って右岸を巻いた 奥に見えるのが二段10m(ヒョングリノ滝) 前衛の滝は4m  二段10mの滝を含めて大釜を持った四段の滝が続く


二段10m滝(ヒョングリノ滝) 左岸から巻いたが、この上が連瀑帯なので、戻って右岸から高巻いた 二段10mの上 6、4、5mスラブ滝の連瀑 ここは戻って右岸から高巻いた 対岸の支尾根を望む 雄大な南アルプスの尾根


標高1330m付近 小滝 標高1340m付近


標高1340m付近の5m滝 左岸をフリクションで上がる


横手ノ滝手前のナメ 爽快 ナメと釜と小滝が続く楽しいところだ 歓声が上がる ゴルジュになる スラブ滝の登攀は結構難しい ゴルジュの奥に10m滝 これが横手ノ滝か 前衛の滝はツルツルで登れない 戻って右岸を巻いた

広いナメ滝 1400m付近 沢幅いっぱいに水が流れる


二段6m スラブ滝は白く、水は碧い 傾斜が緩くても滑るのでルート探索が必要


3mナメ滝 魚影が素早く動く 美しい




























摩利支天が見えて来た 前栗沢出合手前 前栗沢出合付近本流 標高1440m



8月15日 標高1460m左岸テン場から北沢駒仙小屋

摩利支天が見える 天気が良い 10m滝 簡単そうに見えるが登れない 10m滝の落ち口 古いロープが残置


水が少なくなってきた 斜瀑のナメ滝 正面には摩利支天が見える 心洗われる風景だ



中栗沢出合も過ぎて、水が少なくなる
摩利支天の絶好の展望



滝の右にタカネビランジが咲いていた
摩利支天前沢出合がもう少し


摩利支天前沢出合のすぐ先 本流の傾斜が増す 摩利支天前沢へ入って最初の支流  出合から標高差30m登ると現れる 最初、摩利支天前沢と平行して流れるが、標高差40mで左へ向きを変える



六町ノ滝の高巻きを終えて本流へ  1970m付近 水が少なくなる 水は冷たい高巻きには二時間を要した
本流が右旋回し北西を向いた地点、右岸にガレが現れる このガレ左のブッシュに入り 奥の針葉樹林帯まで入る そこから仙水峠の方向、西へ向かう



仙水峠への詰めの途中
仙水峠から 右は摩利支天 左奥、甲斐駒ヶ岳に雲がかかる


仙水峠から遙か入渓地点を望む


北沢駒仙小屋のキャンプ場にタープを張る




















8月16日 北沢駒仙小屋から帰路へ


北沢駒仙小屋の朝 朝暗いうちから動き出し出掛けて行く 6時半の今は静寂が
満ち足りた心で、足取り軽く北沢峠へ向かう


6:46北沢峠 朝から人が 北沢峠に30年前の面影はない 長衛荘 こんなきれいなプチホテルになって



大武川の核心など
 机上調査によれば、今回の遡行の核心と心配ごとは幾つかあった。これらは、遡行者が少ないため、情報が少ないことに理由がある。
1)赤薙沢までのアプローチが、旧道崩壊のために相当な困難があり、時間がかかるだろう。この時間によっては、赤石沢出合手前の予定のテン場まで行けないだろう。
2)標高差があり行程が長いため、場合によっては、二日目の最終バスに間に合わない可能性がある。1)項でしくじれば、この可能性は更に高くなる。(標高差:1300m、水平距離:6.1km)
3)少ないながらもweb情報によれば、そう難しい高巻きは無さそうである。だが、この沢を歩くのは、大武川の大支流、赤石沢を登攀する猛者ばかりなので、これらの情報は割り引いて捉えなければならない。
4)六町ノ滝の登攀は、web情報にただひとつの記録が残されている。日本登山大系では、「かなりやっかいなので、摩利支天前沢に入って、最初に出合う小沢を登って摩利支天南山稜下部を乗越し本流へ下る。」とある。地形図的には、ルートが分かる。だが、この250mの標高差の高巻きは行ってみなければ想像がつかない。
5)仙水峠の下で大武川が右旋回して北上するところからは、本流を離れて仙水峠へ向かわなければならない。このルートどりは数少ないweb情報でも様々であり、しかも、どれも成功しているとはいえない。参考にできる資料は無かった。独自にルートを拓かなければならない。

 1)項についてはすでに述べたとおりである。旧道跡を辿れば、固定ロープが有り、慎重に行けばそう難しいところはない。足の遅い我々でも篠沢橋から赤薙ノ滝手前の入渓点まで二時間であった。
 2)項については、まさにそのようになってしまった。余分に一泊してしまったのである。特別に理由があったわけではないが、高巻きのやり直しや高橋の登攀の未熟さにより時間が取られたこと、六町ノ滝の高巻きに二時間掛かったことなどが理由だろう。だが、どれも大きな失敗というようなものはなく、ひとつひとつの行動に少しづつ余分に時間が掛かったということだ。よる年波の影響といえば言える。そんな訳で、北沢峠発の最終バス15:30には間に合わず、北沢駒仙小屋のカラフルなテン場の中にただひとつ,カーキ色の地味なタープが広げられたのだった。
 3)項については、すべての滝が深い釜を持った磨かれたスラブ滝であるため低い滝であっても直登は難しい。大方の滝は巻くことになった。だが、方角を失いそうになる難しい大高巻は無い。滝や釜を望みながらの巻きになるのが大半である。標高1170m付近の巨石の滝は両岸岸壁で絶望的だが、10m程もどった左岸に「逆くの字」に登る絶妙なルートがある。この滝は、落ち口から見ると巨石がお釈迦様の顔に見えることから「釈迦ノ滝」と命名した。
 4)項については、我々の実力からすれば、当然高巻きだ。六町ノ滝が始まろうとする摩利支天前沢の出合から先の本流は急傾斜となり、渓相がいかにも厳しい雰囲気に変化する。ここは予定通り摩利支天前沢に入って巻くことにした。出合から標高差30mを登ると左に細流が現れる。この細流に入り、さらに標高差10m登ると、沢が左に大きく曲がる。思った以上に水量がある。この水のある沢を登るが、次第に倒木や巨石に行く手を阻まれる。そのうち左手に涸れ沢が現れる。そこからは、水流のある沢を右に、涸れ沢を左に見てその中間尾根をしばらく上がった。どちらの沢も倒木や巨石があって登るのは難しい。その中間尾根も登りにくくなったところで、左の涸れ沢を右岸に渡り、涸れ沢に沿って、この右岸の針葉樹林帯を上がる。ヤブは無い。このルートが岩で行き詰まる辺りで右手の涸れ沢に入り遡行する。右手下には、水の流れる沢の音がする。涸れ沢にはすでに巨石や大きな倒木は無くなっている。忠実に涸れ沢を詰めると目的の南山稜下部の鞍部が現れた。。そこから、本流までの下降はわずか5分足らずだった。この高巻きには、ちょうど2時間を費やした
 5)項については、既知のルートや踏み跡を頼りにはできない。独自にルートを拓く必要がある。web情報では、栗沢山側に登ってしまう例があったが、おそらく窪を登ったものと思う。このルートではロスが多い。できれば、最短距離で仙水峠へ上がりたい。「本流が右旋回してちょうど北西に向く地点、地形図のガレマークの起点辺りからブッシュに入り、かすかな窪を上がる。標高2250m辺りで仙水峠へ向けてトラバースする。」こういう作戦だった。実際には、ガレマーク起点からまっすぐ稜線へ向かう大きなガレがあったので、このガレの左手からブッシュに入りその先の針葉樹林帯の急な斜面を登った。樹林帯は藪がないので見通しが効く。その後は、仙水峠の真西方向へ直登した。西へ向かうと右手に先ほどのガレが現れ、しばらくはこのガレに沿って登った。ここにはかすかな踏み跡がある。ほどなくガレは消失する。ここからはさらに西方向へ登る。途中で見つけた顕著な踏み跡をたどりガレのあった窪を北へ横断すると、右手に本流を認めた。この踏み跡は、峠から本流へ降りるためのものだろう。ここで、西へ方向修正をして踏み跡を離れた。急な斜面、腐った倒木、緑の厚い苔が付いた不安定な岩々を苦労して登れば次第に高度は上がる。標高2150m辺りからは左手に稜線らしき明るさが見えた。2200mでは、仙水峠の鞍部と思われる稜線を目視できた。左手に方向を修正して鞍部を目指し、最後に薄いヤブを抜けると明るい仙水峠が開けた。



Home