記憶に残る沢4 2010



ケサ丸沢右俣 谷川連峰湯檜曽川 2010.9.11〜12
 以前、『岳人』に、湯檜曽川の支流である白樺沢が、比較的簡単な沢として紹介されていた。この白樺沢を調べているうちに、その支流に袈裟丸沢という結構面白そうな沢があるのを知った。この白樺沢とケサ丸沢を、2009年にガクさん、Kさんと歩いた。今度は、ケサ丸沢だけをウェクラの山崎さん、大橋さんと歩いた。日曜日の天候の崩れを考えて、土曜の早朝に水上駅に集合して、当日に遡行したのが良かった。前年と同様、晴れ渡った明るい谷川の沢を歩くことができた。

魚止ノ滝を覗く  右岸の岩を上がって巻く


ケサ丸沢出合いまでの白樺沢 スラブ滝が続く

 2010年の夏は、経験したことのないような暑さで晴天が続いた。そのせいで、湯檜曽川もケサ丸沢も水が少なかった。写真で大滝25mの水量を前年と比べると、およそ三分の一ぐらいであることが分かる。その点では、多少迫力に欠けたが、お陰で湯檜曽川本流の第一の関門、魚止ノ滝上のゴルジュを突破することができた。前年登れなかった10mトイ状滝も登ることができた。
 ケサ丸沢遡行の楽しさは、三つに分けられるだろう。第一は、白樺沢出合いまでの湯檜曽川本流の険しいゴルジュと豊かな静流の対照的な美しさ。第二は、白樺沢の出合からケサ丸沢出合までの、連続するスラブ滝を工夫して登攀する面白さ。ここは、晴れていれば頭上に青く大きな空が広がるだろう。草付きのため両岸がV字に開け、明るい谷となるためである。左岸から落ちる長く細い連瀑も美しい。そして第三は、ケサ丸沢大滝から続くナメ滝と標高1100m付近の連瀑である。この連瀑は、標高差100mにおよぶ。だが、今回は水量の少なさでその迫力には欠けた。もう一つ、大滝から上流の遡行では、対面に笠ヶ岳が、その左手の稜線に朝日岳が見えることも、遡行の楽しさに挙げられるだろう。朝日岳は、8月にガクさんと歩いたナルミズ沢の帰路として記憶に残っている。

ケサ丸沢大滝25mを左から登った 水が少ない












20mナメ滝の落ち口から笠ヶ岳が見える  左は朝日岳


 下山後、武能沢出合いの付近で泊まったが、ここは良いテン場が少ない。雨の心配がなければ、湯檜曽川本流の河原で泊まるのもいいだろう。だが、当日は夜の雨が予測された。武能沢を渡る手前、登山道近くに平坦地を見つけてテントを張った。良い地形だったが、虫がうるさいのが気になった。とはいえ、いつものように火を焚きながら、三人でその日の遡行の楽しさを反芻したのであった。



尾白川黄蓮谷 南アルプス  2010.9.19〜20
 今シーズンは暑い夏だったが、天候には恵まれた。まだ暑さの残る9月の下旬に、ガクさんと尾白川を歩くことにした。昨年、天候のせいで断念したこの谷を、この9月に逃せば好機は無いだろうと判断した。この遡行には、本多さんが加わってくれた。しかも本多さんは車で来てくれたので、アプローチがぐんと短くなった。一時間半ほど歩いた林道の終点から、固定ロープを伝って尾白川へ降りた。9月末だというのに灼熱の河原だった。標高1400mもある沢風の吹く河原で、木陰を探して昼ごはんを食べた。
 尾白川は予想通りのダイナミックな谷であった。白く映える花崗岩のスラブが至る所に露出する。岩が砕かれてできた砂は白く、流れる水はどこも清く澄んでいる。登攀の難しい大きなスラブ滝が幾つも懸かっている。どれも深く大きな釜を持っているため、滝に近づくことができない。たとえ近づけても、直登はできないだろう。花崗岩が磨かれた滝には、ホールドが乏しいからである。釜の色が独特である。エバーグリーンというのだろう。木の葉の色に近い、深い味わいのあるグリーンだ。これは、他で余り見たことがない。どの釜も底が見えないほどに深い。そのために現れる色合いなのかも知れない。光が当たると、とりわけ妖しい色彩を見せる。

遠見ノ滝  深い釜のエバーグリーン


花岩の岸壁 黒と朱の紋様が見える



 花岩、獅子岩が見られるあたり、左岸の岸壁はみごとである。高度差50mはあるだろう。特徴的な幾何学紋様を見せる岸壁、花岩が立ち上がり、頂部には獅子の形をした塑像が空を睨んでいる。スケールの大きな谷である。直登できるのは小さな滝と傾斜のゆるい滝だけである。それでも十分に楽しい。小さな沢を歩くのとは異なった、大きなスラブをかわす面白さがあるからだ。尾白川の歩き始めは、滝が連続するので遅々として進まない。かなり歩いたつもりでも、なかなか行程が消化できていないのに気づく。入渓から黄蓮谷出合いまで、2km弱の行程に4.5時間もかかってしまったのである。
 黄蓮谷出合い右岸の段丘には、草の生えた理想的なテン場があった。先行者が昨晩ここへ泊った気配があった。疲れた体にムチを打ってツエルトを張り、薪を集め火を点けた。炎が立ち上がる頃に、小雨が落ちたりして興ざめだったが、ガクさん、本多さんそして私は、遡行で昂った心を、炎を見ながら沈めたのであった。



頭上に獅子岩が見える


黄蓮谷出合いは近い

つづく


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