記憶に残る沢3 2010


東黒沢〜ナルミズ沢 谷川連峰 2010.8.13〜15
 東黒沢は、何度歩いても楽しい沢だと思う。遡行がそう難しくないわりには、なかなか変化に富んだ沢だからだろう。白毛門沢出合いまでは、大きなスラブ滝が現れる明るい豪快な谷である。出合いの先は、沢幅がやや狭くなり、小さなゴルジュが現れたりする。中盤で現れる長いナメは、水平距離800mにもおよぶ。この辺りは、歩いているだけで楽しくなる。ときどきスダレ状の大きな滝が現れ、楽しく登攀できる。行き詰まるところはない。ナメが切れると今度は長い詰めになるが、ときに小さな滝が現れてここも楽しいところだ。1350m鞍部を越えて、ウツボギ沢の支流を下るというのもなかなか面白い。目印も無く、踏み跡も定かでない鞍部の乗越は、なかなかドキドキするものだ。背の高い笹の鞍部を越えると、小さな流れが現れる。この辺りで、思いがけなく二人連れに出会ったのには驚いた。くたびれた足をいたわりながらウツボギ沢本流を下ると、鞍部から一時間ほどで宝川になる。ここが広河原である。今までガクさんは、宝川のその水量に阻まれて二度とも追い返されたという。今度始めて、宝川の右岸に渡ったことになる。その喜びは想像がつく。

大きな滝の手前でナメ滝を登る この先で長いナメになる


 ナルミズ沢は、いまさら言うまでもなく美しい。ガクさんは、三度目の正直で、ナルミズ沢を遡行するのが目的だが、自分は、ナルミズ沢の左俣を分ける二俣から先を歩くのが今回の目的だった。2007年にウェクラの山崎さんたちと歩いたときは、この二俣で引き返した。ナルミズ沢の源頭を踏み、ジャンクションピーク〜朝日岳〜大石沢出合い〜広河原と、ベースキャンプへ戻るルートを取り、ゆったりと軽荷でナルミズ沢を楽しもうと考えたのが、今回の計画だった。だが、このルートもなかなか体力を使う。途中で崩れ始めた天候のせいもあるが、ナルミズ沢は、体力だけはないと歩けない沢である。そんなことも知らず、われわれは嬉々としてナルミズ沢の穏やかな遡行を堪能したのだった。青空こそ出なかったが、ナルミズ沢の空は底抜けに明るかった。相方が喜び、その興奮が自分へと伝わり、その楽しさが今度は相方に伝わり、一層大きな喜びになる。そんな喜びの共振する遡行が、源頭まで続いた。
 だが、その後には、源頭から一度稜線の高みへ上がり、朝日岳
1945m手前から大石沢沿いに、ナルミズ沢まで一気に降りるという高低差の激しい行動が待っていた。すっかり疲れて広河原に着いたのは、もう夕暮れ近い5時半であった。

ナルミズ沢上流部から1790mピークを仰ぐ


ナルミズ沢右俣を歩く 小さなナメ滝が続く





笹穴沢 谷川連峰赤谷川 2010.9.45 
 笹穴沢は、前から行ってみたい沢であった。あこがれの沢と言ってもいい。世話人、西嶋さんの計画にKさん、Sさん、ガクさん、高橋が集まった。珍しく多人数である。今思い返してみれば、この笹穴沢は、本当に長い沢だった。調べてみると、標高差1050m、水平距離5.5kmである。一泊の予定だったので、行程的に難しいとは思わず、自分たちにはむしろ技術的に難しいだろうと推測した。だが、よく考えれば分かることだが、技術的に難しということは、時間もかかるということだ。二日目、稜線に上がったのは日がとっぷり暮れた夜7を過ぎていた。くたくたになって下山した。Sさんは靴ずれがひどく難儀した。終電に間に合わず、越後湯沢駅の路上で一夜を明かしたことはすでに書いた。

幕場すぐ上の滝 水が澄んでいる


金山沢出合を過ぎて黒金岩峰を仰ぐ


 苦しい遡行だったというのが偽らない感想だ。後悔先に立たずだが、初日の幕場をもう少し先にとれれば、次の日が幾分でも楽に歩けたと思う。初日に行程を稼げなかったため、二日目の行程は、標高差1000m、水平距離4.5kmとなった。これは、あれだけ苦労して歩いた5月のエビラ沢(標高差900m、水平距離3.5km)よりもさらに過酷な行程だったのである。どういう訳か、高橋がトップを拝することになり、大概は先頭をとった。この辺にも自分の甘さがあったかも知れない。とはいえ、難しいところは、Kさんやガクさんがリードしてくれたので、そう威張れたものではないが。とりわけ、難しい滝を何度か登ってくれたガクさんには、感謝である。二日目の終盤では日が暮れ、ヘッデンを灯しての慣れない遡行にリードの限界を超えた。この時、Kさんがリードを替ってくれたのは嬉しかった。当日は、水量がやや少なかったように思う。これは、自分たちには幸運だった。水量が多い場合は、もう少し難しくなったはずだからである。

40mナメ滝下部を登る


15m滝上にナメが続く  すでに夕刻の5時近い


 とはいえ、笹穴沢が期待通りの美しい沢であったことは間違いない。下流部の美しい玉石の沢床を流れる水は、あくまでも清く澄んでいた。幕場は、この清流の河原にとった。虫もいなく快適だった。乾ききっていた流木は、火にくべただけで夜空に向けて大きな炎を上げた。あまりに心地良かったので、ガクさんとKさんの真似をして、河原の砂の上で星の瞬きを見ながら眠りについた。その日の焚き火と語らいは、この年最大の喜びだった。

乾いた流木が勢い良く炎を上げる



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