10.12.28 南アルプスの沢3



大武川本流
 大武川(おおむかわ)は、甲斐駒ヶ岳の北東に延びる黒戸尾根の南を流れる大きな渓谷である。尾白川とその上流の黄蓮谷は、この黒戸尾根を挟んで北側を流れている。戸台川本谷に比べて、大武川のウェブ情報は多い。とはいっても大武川はガイドブックや山岳誌に取り上げられることも無いようなので、その数は知れている。だが、これらの情報と登山大系1)によって、大武川本流の概要をつかむことができる。
 大武川本流の水量は、多いと考えたほうが良いだろう。北の黒戸尾根八合目から西に伸びる大尾根と南の早川尾根に挟まれた上流部の集水面積は、尾白川の倍ぐらいある。赤薙沢出合の下流域では、渡渉もままならないほどの水量があるとの情報もある。谷が大きいために、水量が多いと遡行が難しくなるのは想像できる。水量は季節や天候によって大きく変わるので、遡行の際に注意すべき点だろう。

                  日本登山大系 9 南アルプス P57


 本流には幾つか堰堤もあり、入渓点は赤薙沢の出合付近のようである。1982年発刊の登山大系では、本流の右岸に水仙峠へ向う旧登山道があると記載されている。しかし、現在は荒廃して残っていないようである。したがって、赤薙沢出合前で本流へ降りる場面もあるものと思う。懸垂下降で本流へ降りている情報もある。ルートが荒廃しているためだと思われるが、ゲートのある篠沢橋から入渓点までは、二時間半も掛かるようだ。距離は4kmぐらいだが。
 大武川の岩質は、尾白川と同じ花崗岩のようである。どの滝もその表面は水に磨かれホールドに乏しい。わずかな傾斜でも登攀が難しく、多くの滝は巻かなければならないようだ。だが、たいがいの滝には右岸に巻き道がある。とはいえ、奥多摩や丹沢の巻き道と思ってはいけない。標高1200m付近のヒョングリの滝を過ぎると鵜の首ノ滝、横手ノ滝など大きな滝が続く。いずれも直登はできないようだ。苦労して巻くことになるのだろう。なお、地形図の「ヒョングリの滝」の位置は間違っており、鵜の首ノ滝のようである。ヒョングリの滝は,標高1228mで右にカラ沢を分ける手前にある。


          
大武川本流とその支流 (作図:高橋)

 篠沢橋付近のゲートを早朝6時前後に出発したとすれば、赤石沢出合付近でテン場を探すことになるだろう。幸い、赤岩沢出合までに絶好のテン場があるようだ。赤石沢の先、奥栗沢出合の前にも良いテン場が有ると言う。赤石沢は、赤石沢奥壁への入口になっている。ここは、もはや谷歩きの領域ではなく登攀の領域である。登山大系では、「赤石沢の岩場」として別に紹介されている。隣の「摩利支天峰の岩場」とともに、日本有数の岩壁となっており、訪れるクライマーが結構いるようだ。
 赤石沢出合の先の本流は、幾つかの滝があるようだが、行き詰まることは無いだろう。最もやっかいなのは、六町ノ滝である。大系には「2030mの滝が数個連続している」とある。これらの滝の写真もウェブ情報では見つかるので、登っている者はあると思う。だが、大概のパーティーは、大系でガイドするように、左岸の摩利支天前沢に入り、すぐ上の支沢を登って南山稜を乗越して本流へ戻るルートをとっている。この支沢の登りが結構きついらしい。だが、登ってしまえば本流への下降は容易だとある。その後、本流は穏やかな渓相となり、やがて大きく北へ回り込み、水晶沢と名を変えて駒ヶ岳の直下、白ザレの斜面に突き上げる。駒津峰の上、六方石の近くである。
 本流から仙水峠(2264m)へ上がるルートは、どうやら明確ではなく、2050m付近で栗沢山寄りの窪へ入ると、2400mの稜線まで登ることになり大きなロスになる。地形図から見れば、本流を2060m付近で西へ離れ、浅い窪を上がるのが良いと思われる。ただし、現地でそのルートに乗れるかどうかは、力量が試されるだろう。仙水峠に立てば、目の前に摩利支天の大岩壁が迫ってくるだろう。東には、今日歩いてきた大武川本流の沢形が深く刻まれているのを見るはずだ。仙水峠からは、登山道を1時間ほど下れば北沢峠に出る。北沢峠からは、バスが出ているようなので、帰路は楽だ。広河原経由で芦安へ下ることになる。だが、真夏のシーズンは、結構混雑しそうである。


                  1)登山大系: 『日本登山大系9 南アルプス』 白水社

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