10.12.15  南アルプスの沢2



 南アルプスの沢を歩いてみたいと思う。とはいっても、たいした登攀もできない自分に登れそうな沢はあるのだろうか。甲斐駒ヶ岳をめぐる六つの渓谷のなかで、自分にも歩けそうな谷を調べてみた。だが、これらの谷のウェブ情報は極めて少ない。ただ、比較的情報の多い谷もある。それは、ガイドブックや山岳誌などで取り上げられてきた谷である。
 この傾向はどこでも同じなのだろう。情報の多い谷に遡行者が集中する。このような傾向が非難されることがあるが、それは当っていないと思う。遡行者の大半は初心者や中級者であるのだから、情報量の多い谷に人が集まるのは自然の成り行きであり、非難されるべきことではない。自分にとって困難と思われる山に入るときに、情報を集めるのは常道である。腕の確かなクライマーであれば情報が乏しくても、遡行に行き詰まることも無いのだろうが、初心者と変わらない自分としては、沢の情報は重要だ。
 「人の打ち込んだボルト、ハーケンを辿るのは、もはや山登りではなく、ただの作業である。ガイドブックと同じことをやるだけでは、そこから創造的なラインは生み出されない。」と、沢屋を芸術家に見立てて選民思想を持ち出す者もいる1)。「俺には沢を登る資格があるが、お前たちには無い」という訳だ。ガイドブックと同じこともできず、「ただの作業」をするに等しい沢登りをしている私としては、このヒロイックな言動をうらやましくも思うのだが。

1)「カタログ化される名渓たち」木下徳彦 岳人2004.09 P78


戸台川本谷
 戸台川流域の沢の全容が明らかになったのは、そんなに古くはない。1960年代のようである。日本登山大系(1982発行)では、戸台川本谷を「現在では尾白川上流についで入谷者の多いところで、厳冬期に氷を求めるクライマーの数も急に増加している。」とある。だが、どうしたことだろう。ウェブで調べても、戸台川遡行の情報は極めて少ない。というよりは、皆無に近い。氷瀑登攀の情報は多いが、沢の遡行の情報はほとんど無いのである。60年代に登られた後は、登る人がいないのだろうか。

 本谷の遡行情報はやっとひとつ出てきたに過ぎない。これも、途中の二俣で本谷を左へ外れた記録であった。この情報によれば、本谷の最初の滝F1、F2はそれぞれ15mだが、いずれも右の草付を上がるらしい。その先の25mナメ滝は問題なく登れそうだが、最上部6m滝は、左のヤブから小さく巻くようだ。水場ノ沢出合先の二段10m滝は、下部を左から小さく巻き、上部は水流沿いを上がっている。問題は、この先の15m、15m滝だが、写真によれば下の滝は傾斜が緩くそのまま登れそうに見える。上の滝は、垂直に近い滝で直登はむずかしい。この情報提供者らは、この滝を左から巻いてその上にある二俣をそのまま左俣へ入ってしまったらしい。本谷は、右俣なのでルートを外したことになる。したがって、この情報は、ここまでしか参考にならない。
 登山大系によれば、この右俣の先に15mの滝が二つ続くとある。ここは、この二つの滝を巻くか、いったん左俣へ入ってから中間尾根をこえて15mの滝上に出るとあるので、この二つの滝の巻きが核心のようである。また、この滝の付近から沢が粘板岩から花崗岩に変わり、「階段状の滝や美しいナメが多くなる」と記されている。困難な所としては、最後のゴルジュの6mCSのようで、ここは直登が難しく右から大きく巻くとなっている。駒ヶ岳直下のつめは40mのスラブや涸滝があるようだが、困難との記述は見られない。甲斐駒ヶ岳をめぐる沢は、登攀的な沢が多いというが、この詰めはどうなのだろうか。もう少し情報がほしい。先のウェブ情報によれば、遡行時間は10時間、大系によれば7時間とある。下山の時間まで考えると、日帰りの計画は難しい。




             日本登山大系 第9巻 日本アルプス P24


 戸台川は、尾白川や大武川のような、花崗岩に美しいスラブの滝やナメではなく、粘板岩の黒い岩で、垂直の滝が多いとある。大系によれば、この岩質の変化は、駒津峰と六万石の鞍部〜三ッ頭〜中ノ川のラインを分岐点とするらしい。言うもでもなく、その東側、尾白川や大武川の側が花崗岩である。そういう点で、戸台川は駒ヶ岳の東側の谷とは異なった渓相を見せるようである。昨年の尾白川では見られなかったが、岩にコケが付くのも特徴のようだ。
 戸台川支流の中で自分でも遡行できそうなのは、駒ヶ岳から三ツ頭に至る稜線にある六合目石室へ上がる「水場ノ沢」である。この沢は、2009年版アルペンガイド「南アルプス」や昭文社の山と高原地図41、「北岳、甲斐駒」で戸台川の本流のように記されているが誤りである。この沢は、出合いの先に50m滝があるが、階段状で登れるとある。50m滝の上で二俣となる。両俣とも登れるらしいが、小滝の続く右俣の方が楽しいようだ。2500m付近にある六合目石室へ向う踏み跡に出れば、短い時間での遡行もできそうである。駒ヶ岳の頂上を目指すのでなければ、入渓点方向への下山も早い。本谷より先にこの谷を登るのが良いかもしれない。。




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