東黒沢、ナルミズ沢 谷川連峰
2010年8月13〜15日
沢登り同好会 さわね
ガクさん 高橋
遡行図

東黒沢

遡行図
ナルミズ沢

シモツケソウ  ナルミズ沢大石沢出合の先で

コースタイム
8月13日
土合橋駐車場9:08−ハナゲノ滝9:41−白毛門沢出合10:12−900m二俣11:03−金山沢出合11:20−1350m鞍部13:49−広河原14:48
8月14日
広河原7:21−大石沢出合8:46〜59−魚止ノ滝10:02−1420m二俣10:49−1600m二俣11:56−12:23−稜線12:45−ジャンクションピーク14:54−朝日岳手前分岐15:21−大石沢16:40−広河原17:38
8月15日
広河原7:08−林道8:45−宝川で休憩9:11〜47−測候所10:12−宝川温泉11:05

まえがき

 お盆の帰省ラッシュは、13日早朝の高崎駅でも続いていた。新潟、長野に向う新幹線は、デッキにも人が立つ状態だった。そんな駅舎の中で、思いがけなく小松さんと遇った。小松さんは、別グループで魚野川の本流を遡行する。二言三言ことばを交わし、互いの安全を願いながら別れた。自分が乗る越後湯沢行きの列車は、予測どおり空いていた。閑散とした客席に座ると、ガクさんが前の列車から大きな荷物を背負ってやってきた。車窓の空には雲が広がり、予報の「晴れ」とは程遠い状態であった。
 東黒沢とナルミズ沢を選択してお盆を過ごそうとやってきた。さぞかしナルミズ沢は混むだろうなと思った。テン場をどこに取るかが、今度の沢の核心といえるかも知れない。そう思っていた。大石沢出合にテントを構えれば、人が多くて薪集めは無理だろう。東黒沢からの峠越えも結構時間がかかる。泊りは、地味に広河原でも良いだろう。というのが、ぼんやりした作戦だった。だが、広河原もいっぱいだったらどうしよう。そんな心配もしていた。

8月13日 東黒沢・長いナメ くもり後一時小雨
 東黒沢は、三度目だった。07、08年にウェクラの山崎さんたちと歩いた思い出の沢である。東黒沢は、私が好きな沢のひとつだ。なぜだか分からないが、ひとつには易しいことがあるだろう。もうひとつ、地味ではあるが趣のある明るい渓相が続くこともその理由に挙げられるだろう。白毛門沢出合までは、両岸が開けた幅広の沢で明るい。ハナゲノ滝(花華ノ滝)からは、釜とナメとナメ滝が続く。釜のヘツリが楽しいところだ。だが、足元が滑りやすいので増水したときは、相当難しい沢に変わるのだろう。

大源太山を見て駐車場を出発












ハナゲノ滝は大きいが傾斜がゆるいので左を登る


大岩を潜ってナメ滝を登る 白毛門沢出合前



























 白毛門沢出合からは、それまで続いた幅広の明るい沢が狭まり、両岸に繁みが現われるようになる。東黒沢は、この出合先で現われるナメに象徴されるように、ナメの美しい沢である。沢幅はそう広くなく、時々に見事なナメ滝が現われる。どの滝も難しくなく、滝登りを心底楽しむことができる。中でも、標高900m付近から800m以上に渡って続くナメは、木洩れ日を反射する煌きが、遡行者の心を捕らえて離さない。ナメが途切れるのはようやく標高1020mになってからである。ナメが美しいと言われる沢を幾つか歩いてきたが、この長く美しいナメに匹敵する沢を今のところ知らない。不思議なことだが、東黒沢のこの特徴を紹介している記事はあまり見たことがない。

 ナメと時折現われる美しいナメ滝の世界に浸っているガクさんは楽しそうだった。自然に歓声も上がる。傾斜のゆるいナメは、どんどん距離が稼げる。だが、源流域になってからの距離も長い。標高1350mの峠を越えてウツボギ沢の支流に下る頃には、ガクさんも私も足元にかなり疲れが廻っていた。これはいつものことだ、遡りを終えてしまえばこちらのものだ。あとは、支流を下って宝川の広河原に出るだけである。とはいえ、この下りも疲れた足には、思っていたよりも長い。三時少し前、ようやく広河原に着いた。心配していた広河原には、一人用のテントがあったが、人はいないようだった。途中、追い越した二人組みが横にテントを張った。その日は、三張り、6人が広河原の住人だった。

二段トイ状滝 860m付近 白毛門沢出合上


6m滝 左を登った 1000m付近





























傾斜のゆるい5m滝

900m二俣手前 ここからナメが延々と続く


広々とした四段10mを登る

5m+5mの上段を登るガクさん


5m+5mの下段を登る高橋

ナメが延々と続く 800mがナメとナメ滝

二段の滝5m+6mトイ状滝



 下段5mを登る

二段3m滝














2m滝 1150m付近  源頭に近付く

意外に旨かったママカリの干物、ガクさんが丁寧に焼いて
くれた。 シシャモも旨かった。


小雨はあったが最後まで焚き火ができたのは幸せ



8月14日 ナルミズ沢・連瀑帯 くもり時々晴れ一時小雨
 ガクさんは、今までナルミズ沢に二度挑戦して二度とも途中で引き返したという。宝川温泉から入った一行は、広河原から10分下がったところの渡渉点で増水のために二度とも追い返されたのだ。三度目の挑戦で、宝川ナルミズ沢の右岸にようやく到達したことになる。ガクさんとは、最近では丹沢のエビラ沢、奥秩父の市ノ沢を歩いた。今年も苦楽をともにした仲間である。仲間があることによって初めて沢を歩くことができる。ありがたいことだ。 夜中にタープを叩く雨音で起きたが、朝方は雨も止んでいた。空には、薄い雲が広がっていたが、ガクさんの心は明るく晴れ渡っていたことだろう。東黒沢もナルミズ沢もリードはガクさんであった。私は、山崎さん達と一度ナルミズ沢を歩いたが、1400m付近の二俣で引き返した。パーティーの力が足りなかったためである。この判断は、今度のナルミズ沢を歩いて改めて正しかったことが分かった。ナルミズ沢は、今年の岳人8月号にも紹介されている。平水の場合には難しいところのない易しい沢で、初心者にも歩けるだろう。だが、日帰り装備で歩き、朝日岳を経由して大石沢の出合に降りてベースキャンプに戻るルートであってもそれ相応の体力が必要である。ガイドブックでは、初級一泊二日となっているが、侮ってはいけない。
 私は、この二俣の上を歩き、ナルミズ沢の遡行を完成させることが今回の目的だった。この二俣で、まだ未知のヨネに声を掛けたことも思い出した。沢ではめずらしい女性の単独行に興味を覚えて声を掛けたのだった。そのヨネが、同じ同好会に入会して来て、そして去っていったことは、別のところで書いた。二俣の上は、それまでの穏やかなナルミズ沢とはうって変わって、ナメ滝の連続する渓相に変わる。難しい滝はないが、滝登りの楽しさを十分に味わうことができる。穏やかな流れと幅広の滝を受ける緑の釜のナルミズもいいが、この滝の連続は、他の沢にはない喜びがある。二俣の上の新しいナルミズ沢を発見した私は、この連瀑に何度も歓声を上げた。ガイドブックの遡行図によれば、この二俣の上の沢は、単にナメ記号があてがわれているに過ぎない。だが、このナメ記号の中には数え切れないほどのナメ滝がある。自分で作る遡行図には、この連瀑の様子が分かるように示したい。だが、数え切れないナメ滝を、もれなくデータ収集できたか自信がない。ナルミズ沢は、詰めあがる草原の美しさが言われることが多いが、私はこの連瀑帯の興奮する景観に利があると思う。
 先にも述べたが、今度のルートの隠れた核心は、草原の詰めを上がって稜線に達したあとのジャンクションピークまでの登りと朝日岳からの長い険しい下りにある。どちらも、沢の詰めに疲れた足にとっては、結構応える。とはいえ、ガクさんも私も滑りやすい低い笹の踏み跡を一足一足稼いでJピークに達したのだった。稜線に上がってからの天候が、雨混じりのガスが懸かる悪い状況であったのも苦しさを増幅させただろう。だが、ときおりガスが晴れると行く手の峰々が突然現われて狂喜したりした。ただ、残念なのは、たった今遡行してきたナルミズ沢の沢筋が望めないことであった。


ナルミズ沢を出発 すぐにナルミズ的な滝と釜が


 ついに感動の雄叫びがナルミズ沢にこだまする

幅広の5m滝














二条滝5m

大石沢出合手前のテン場が始まる

大石沢出合前の本流の滝4mが見える

大石沢出合前 ナルミズ沢本流4m滝


大石沢出合上の釜をへつる

釜のある三段滝 右に巻き道があるがぬかるんでいる

魚止ノ滝10m ナルミズ沢の大滝

 帰路に登る1790mのピークが見える

二俣1420m手前から


二俣手前トイ状滝7m

二俣1420mを右俣へ入る

右俣は小さな滝が続く


結構手強い滝も現われて

細い流れの4m滝は左の岩の弱点を慎重に登る


沢は左(西)へ曲り稜線を目差す

稜線へ上がり山稜を見渡す


これから歩くジャンクションピークが見える

ピークを目差して笹原の踏み跡を辿る 疲労は極限に近い


時々はガスが晴れて登ってきた尾根が見えた

朝日岳手前の池塘 大石沢出合を目差して登山道を左へ下がる


8月15日 広河原・熊騒動 晴れ
 宝川に注ぐウツボギ沢(空木沢)の出合が広河原である。地形図上の広河原はかなり広いが、ヤブが形成されて実際にテントを張れる場所は思いのほか狭い。上手に4張りぐらいは張れるだろうが、それ以上になると難しい。だが、ナルミズ沢の遡行を終え、朝日岳から降りてきたその日は我々のタープだけであった。
 15日の早朝まだ暗いころ、目覚め始めていた私は、枯れ枝の折れる音で眼を覚ました。時計を見るとちょうど四時だった。耳を澄ますと、時々、ポキッ、ポキッと音がする。どうやら、熊がヤブを歩いている音である。こちらへ向ってくるのだろうか、私はタープの下で耳を澄ませ、暗がりに眼を据えた。ガクさんは熟睡していたが、この非常時で起こさない訳にはいかないだろう。躊躇しながらもシュラフの肩を軽く叩いて起きてもらった。「ガクさん熊だよ」と私は低い声で言った。まだ、互いの顔が分からないぐらいの暗さだった。
 ガクさんは起きがけだったが、闇をのぞいた上で冷静に答えた。「ヘッデンが見える」。宝川の対岸のヤブにヘッドランプが見えるというのだ。私の寝ていた方角からはヤブが邪魔していて見えない。タープから這い出して対岸を見るとたしかにヘッデンらしい光が動いている。なぜあんなヤブの中に、しかもこんな暗いうちに人が居るのだろう。俄かに今の事態が呑み込めず理解ができなかった。だが、枯れ枝の折れる音はそこから聞こえてきているらしく、熊の心配は一挙に失せてほっとした。
 早朝発の登山者が広河原の所在が分からず迷ったのだろうか。それにしても、登山道のない対岸に登山者が迷うことはあるのだろうか。じきに、枯れ枝の折れる音の理由は分かった。対岸に赤い炎が上がったのである。どうやら焚き火をしているらしい。早朝、道に迷った登山者が焚き火を始めている。こちらからヘッデンのフラッシュの信号を送っても応答はない。ちぐはぐな推理をしながら、われわれは、明るくなり始めた中で焚き火を炊いて朝食の準備にかかった。
 対岸の迷える登山者は、そこにタープをはって一夜を過ごした沢登りのパーティーだった。前日には全く人の気配を感じなかったので信じられないのだが、本人たちが言うのだから間違いないだろう。そのヤブの中から沢装束の四人が出て来るのを見計らって声を掛けた。昨日、広河原に我々のタープが張ってあったので、広河原の対岸にテン場を求めたらしい。とはいっても我々のタープだけだったので、余地は十分にあったのだが。見て来たガクさんが言うには、その場所は、草薮でちょっとしたスペースがあるらしい。広河原がいっぱいのときに使う、隠れ広河原のようである。四人パーティーは、集中遡行を目的にナルミズ沢を遡行して清水峠までいくとのことであった。もちろん、熊と勘違いしたことは言い出せなかった。


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