細尾沢 中央アルプス正沢川
2010年7月31〜8月2日 曇り時々晴れ

単独 高橋
遡行図

ミツバシオガマ  下山途中、玉乃窪山荘の下で

コースタイム
月1日 くもり時々晴れ
登山口駐車場6:20−1550m入渓点7:22−玉ノ窪出合8:28−細尾沢出合9:23−細尾沢大滝10:00〜10−大滝上11:00−二俣2310m12:28−二俣2500m13:28−水涸れ2600m13:55−北尾根稜線15:07−玉乃窪山荘15:36
8月2日 晴れ
玉乃窪山荘6:54−七合目非難小屋8:19−五合目9:07−幸ノ川堰堤9:55〜22−登山口駐車場10:47

長い前奏

 久々の単独行で中央アルプスの正沢川・細尾沢を歩いた。沢を遡行して中央アルプスの最高峰、木曽駒ヶ岳2956mを直登するルートだ。

 いつか歩いてみたいと思っていた沢だったが、偶然にもその機会が巡ってきた。細尾沢の明るい沢に広がる豪快なナメ滝の写真を見ると,こんなところを歩いたらさぞ楽しいだろうなと思っていた。しかも、そう登攀技術が要求されないというのも嬉しい。
 久々の単独行だった。単独行は、気が楽で良い。嫌ならいつでも止めればいいのだから。だが、今度の沢は、期待と不安が入り混じった、不思議な心持であった。期待は言うまでも無い。細尾沢の豪放でダイナミックな滝の登攀である。細尾沢には難しい滝は無いということである。そういう面では不安は無かった。だが、不安は二つあった。ひとつは、沢泊無しで稜線に上がれるかどうか。もうひとつは、限られた時間に大滝40mの高巻きができるかどうかである。
 正沢川・細尾沢は「易しい」沢と言われているが、アプローチを除いた遡行部の標高差は1300m、水平距離4.3kmだ。通常は、途中で一泊する距離と標高差である。少なくても私の経験ではそうである。だが、日帰りも可能との情報もある。確かに、ウェブ情報にもある。だがそれは、少数派である。大概は、大滝を越えたあとでテントを張っている。今回は、そうではなく一気に稜線へ上がろうという作戦である。自分の歩く力を確かめたいと思ったからである。日頃、ぬるい沢ばかりを歩いている。ここでひとつ、自分を確かめてやろうと思った。それがどうと言う訳でもないのだが。
 細尾沢のコースタイム(アプローチ時間+遡行時間)をウェブで調べると、5〜13時間と驚くほどの差がある。5時間というのは、山岳耐久レースに参加している人の記録で、さすがに速い。荷物も無いのだろう。そして、13時間というのは、あまりに長い。大滝40mの高巻きの記録を見ると、よくこれで無事に帰れたなと思うぐらいのパーティーだった。8〜9時間というのが平均的なコースタイムのようだ。だがいずれも一泊したときのタイムである。細尾沢は日帰りできると言うが、日帰りの記録はあまり無い。自分の年齢と体力、技術力からしたら遡行時間9時間が目標だろう。早朝6時に出発すれば、午後3時に稜線に到着できるはずである。もちろんそれは机上の論である。未経験の沢であるから、遡行中に予定外のことが起これば、すぐ10時間、12時間と時間は延びる。自分の経験では、遡行時間は早くなることはなく、遅くなるのが普通である。遡行時間が長くなればなるほど、ペースはスローダウンする。
 大滝40mの高巻きは、時間をかければそう難しくないだろう。だが、限られた時間に、ルートを探りながら高巻きするのは思いのほか難しい。今回は特に、ポピュラーな左岸のルンゼを登る方法では無く、右岸の樹林帯を登る方法を選ぼうと思ったからである。右岸のブッシュを登れば30分で大滝を高巻きできるという魅力的なウェブ情報を二つも見てしまったせいである。だが、万年初心者といえども沢の難しさは身をもって知っている。踏み跡も当てにはできないだろう。ルート経験の無い自分にとって、40mの滝の高巻きは、およそ1時間ぐらいは掛かるだろうとみた。いずれ、この高巻きに予想外の時間が取られれば、体力の消耗と時間の浪費によって、その日のうちに稜線まで達するという計画は頓挫するだろうと考えた。
 今度の沢の核心は、全ルートに渡って予定時間通りに消化できるかどうかであった。この計画は、自分の限界に近いものと考えられた。大げさに言えば、自分の限界に向かうということである。だが、その日のうちに稜線に上がれない場合はどうなるのだろう。そこに、万年初心者の要らない心配が入り込む。そうだ、途中ビバークの用意も要るだろうとなった。そんな訳で、日帰り装備に決断できず、万が一のビバーク装備も考えての入渓になったので、中途半端な荷物になってしまった。一泊装備で、稜線まで上がろうというのである。もちろん食料も要る。なんとも生煮えの計画ではないか。だが、これが今の自分の実力と思ってあきらめる他は無い。



8月1日 くもり時々晴れ

正沢川本流
 本流正沢川の水量は多い。奥多摩や奥秩父あたりの沢に比べると圧倒的に多い、と言っていいだろう。二日前に降った大雨の影響があるかもしれない。駒ケ岳の北斜面全域の集水をしている川なので、当然といえば当然なのだろうが、沢に入る前はそれに気付いていなかった。入渓してすぐに渡渉があり、遡行するにつれて渡渉は頻繁になる。細尾沢出合までは、単なるゴーロ歩きに過ぎないが、渡渉できないために岸へ上がって巻くことが何度かあった。玉ノ窪沢出合、正沢川本流出合を過ぎると水量は減ってくるがそれでも十分な水量がある。沢を歩いて圧倒されたのはまずこの水の量だった。大滝の落水も踊るようだった。水の多さも、この沢を楽しむ要素であると思うが、先を急ぐ身にとっては少々つらい。

水は多い 正沢川に入渓してすぐ

水量が多く、渡渉もままならない箇所がある


この水量の多さは一昨日の雨のせいか、それとも平水でこれか

細尾沢に入ってすぐの滝5m  水もだいぶ少なくなっている。


細尾沢大滝40mの高巻き
 大滝の高巻きは、左岸を上がるルートと右岸を上がるルートがあるが、左岸を上がるルートが一般的のようだ。だが、右岸を登るルートは魅力的だ。30分で高巻きできるというのだ。だが、今回はトラバースできる緩傾斜のところまでの登攀が35分(標高差75m)、トラバースが15分で合計50分掛かっている。もちろんこれは、私自身の力量によるものだ。左岸ルートが良いか、右岸ルートが良いかは、両ルートを自分自身で歩いてみなければ分からない。踏み跡を当てにしたいなら、左岸ルートだろう。
 大滝の右岸すぐ横のルンゼを第一ルンゼとすれば、今回の高巻きの入口は、第二ルンゼのさらに少し下流である。第二ルンゼと第三ルンゼの間の急な潅木帯をルートに選択した。このルートは、ブッシュによるホールドに恵まれるが、途中二箇所3mほどの岩壁に妨げられる。ルート経験がないと右に逃げるか、左に逃げるか迷う。今度の場合は、両者とも左へ逃げることによって岩壁の弱点を通過することができた。途中、一箇所で残置スリングを見たが、このルートは踏み跡を当てにできない。決して簡単な高巻きではない。岩を逃げるために左へトラバースしながら登ったので、このルートは左に、第三ルンゼ寄りにルートを取った方が簡単だったのかも知れない。
 緩斜面まで上がれば、右手方向に微かな踏み跡が見つかるだろう。あとは、沢音のするまで同じ高さでトラバースすれば良い。大滝上の沢が見えたら20mほど沢へ下る。

 

細尾沢大滝40m  水量が多い。大滝を戻って右岸第二ル
ンゼと第三ルンゼの間の潅木帯の急斜面を登って巻いた















大滝40m落ち口  高巻きの途中から

大滝上 細尾沢遡行
 さて、今度の沢のことだが、楽しく遡行したというのとは程遠い。大滝の高巻きでも、途中の連瀑帯でも、時間通りに歩くことに神経が集中され過ぎて、沢登りを楽しむことができなかった。これが、正直な感想である。勢い、休憩時間も少なくなる。沢の遡行には、滝を登る楽しさがある。ましてや、緊張を強いられない登攀であれば楽しく滝を登るのが、沢の面白さだといっても良い。だが、今回の沢は、楽しくなかった。先に述べたように、午後3時から4時までに稜線にあがるという制約を自らに課していたからである。細尾沢出合まで何時間、大滝高巻きに何分、その後の遡行に何時間と、スケジュール立てたおかげで、沢を楽しむ時間を失ってしまった。もちろんこれは、自分の力量との均衡にかかっている。歩くに自信ある向きには、滝登りの楽しさを味わうことができる沢だろう。今回の遡行の大半が、自分の呼吸器の限界を味わったと言っていい。これが、反省の第一である。大きな滝が出てくる度に、もう良いよと思った。滝の登攀を楽しむと言うより、中盤以降は滝を避けたい気持ちだった。
 このような気持ちは、沢歩きを初めて丹沢の沢を登ったときの感じと良く似ている。沢を楽しむのではなく、沢をこなすので精一杯だった。あのときの苦い思いと充実感がが蘇る。今度の沢は楽しくなかったが、単独行で始めた沢登りの乾いた緊張を味わうことができた旅であった。おそらくこれは、単独行でなければ味わえないものだろう。そういう意味では充実した沢であった。


5m滝  大滝の上からは明るく開けたナメ滝を登る


6m滝  右の岩を登った。5、6mの滝が続く


10m滝  標高2180m付近 傾斜がゆるいので登れる














沢は明るく開けている。今日の天気は曇り

30m滝の一部 傾斜はゆるい 標高2250m付近


三段18m大きな滝  二俣1:2の下。右を登った

二俣1:2 標高2300m付近  本流右は、五段20m滝

二段6m 上段はヒョングリ


5m滝  標高2450m二俣の下

2450m二俣 右が本流

詰め
 詰めは、標高2500mの二俣を右に入る。ここの水量は1:1である。地形図からみて、岩稜を避けて最も単純に稜線へ抜けるにはこのルートがベストと判断した。右俣へ入るとすぐ小滝が続くが、水流が二手に分かれる。ここは左へ入った。しばらく歩くとナナカマドのヤブの中に突然水が涸れた。すぐヤブになり、進むべき方角が分からなくなった。ガスもかかってきた。左へ突っ込んでみたがなかなかヤブは開けない。少し焦りが出てきたが、一度ここは、水涸れした地点を探して戻り、赤テープを付けた。再び、沢形を上がり、右を見ると明るく開けているように見える。ガスがかかっていて分かりにくいのだが、確かにそうだ。右に進むとわずかでヤブから抜け比較的広い涸れ沢に出た。ここは、先に水流が二手に分かれたところを右へ入れば良かったものと思う。この涸れ沢を詰めることにした。ヤブを歩いていたら、今日中に稜線へは上がれないだろう。しかし、一面ガスがかかり、果たしてこのルートで良いのか迷った。コンパスで方角を確かめながらの歩行になった。だが、2740m付近で突然ガスが晴れ、駒ケ岳の岩稜が正面に見えてきた。ルートはどうやら正解だったようだ。ルンゼは右にカーブして稜線へ向っている。この辺りで、ガスが晴れないまま登ることになれば、稜線へ出るまで不安な登りを続けることになるだろう。
 標高2800m付近で雪渓が現われた。傾斜も急になったので雪渓を逃げ、足元の悪い右尾根の中腹をトラバースするように、駒ケ岳北尾根の稜線へ上がった。標高2850m付近だろう。
 稜線までその日のうちに上がったとしても、下山できないことは確かだった。私の足では、さらに5時間の下山が必要になる。稜線を少し下がった玉乃窪山荘に宿を取った。これも予定通りだった。

ガスが出てきた 標高2500mの二俣1:1  本流は左だが、ここは右へ入る。

右俣に入ると小滝が現われ流れが分かれる。左へ入りしばらく
歩くと水が涸れ、沢形が消える。ナナカマドのヤブを右へ折れる
と涸れ沢に出る。

何も見えないガスのかかる涸れ沢を登っていくと、突然ガスが晴れて、木曽駒ヶ岳の北斜面が
現われる。ルートは、右へ大きくカーブして行く。
五里霧中で登っていた現在地を確認。

またガスがかかる 稜線直下のルンゼには雪渓が100m
ぐらい残る。


雪渓を避けて右尾根の中腹をトラバースした

稜線に出るまで雪渓が残っていた

木曽駒ヶ岳の北尾根の稜線に上がり、ようやく急斜面のルンゼ登りから開放。駒ケ岳の頂上
制覇は止めて、そのままトラバースして山小屋へ向う。斜面の向こうに登山道があるはず。

今日の宿、玉乃窪山荘

夕方突然晴れ間が出て宝剣岳が現われた  玉乃窪山荘から

三ノ沢岳が勇姿を現す

玉乃窪  観音様の祈る姿が自然の力によって岩に刻まれている

急な尾根の向こう側を流れる沢を登ってきた。今日の日が沈もうとしている。長い一日だった。

アプローチのこと
 最後にアプローチの話も変だが、これから細尾沢へ臨む人のために気の付いたことを書いて置こう。登山口駐車場は、舗装道路が切れた先の木曽駒高原スキー場の最上部にある。途中標識が無いので分かりにくい。駐車場の先徒歩5分ほどに、茶臼岳、沢登りコースと福島Bコースの分岐標識がある。ここには登山カードのポストがある。ここを茶臼岳方面の左へ入るとすぐに幸ノ川に架かる橋を渡る。ここには車止めのゲートがあった。さらにこの先を10分歩くと「沢登りコース」の標識に従って右の林道に入る。この林道をまっすぐ15分歩くと道が消えてしまう。ここからは、踏み跡を拾いながら右方向を目差すと右隣の立派な林道へ出る。林道が消える5分ほど前に林道右にテープの目印があった。そこが、右隣の林道へ上がる場所だったかも知れない。いずれ、ひとつ右隣の林道へ入りまた10分ほど歩くと、右に急斜面が迫り始めた所で林道が消える。ここからは、できるだけ濃い踏み跡を辿って行くと、自然に左手を流れる正沢川本流へ導かれる。登山口駐車場から、この入渓点まで約1時間、標高1550m付近だ。水量が多いのに驚くだろう。


Home