帝釈山地 赤岩沢ー魚沢

2010年7月3、4日(曇り、曇り)
沢登り同好会 さわね
Tさん、Kさん、ジョーさん

遡行図

ナメ滝にウツギ(魚沢)

 新幹線を三島の駅に降り立つと、肌にまとわりつくような湿気だった。夜9時過ぎというのに暑い。この二日、渓の風に慣れた肌には、異様な暑さに感じられる。そう、つい二日前、この街から帝釈山地黒岩山の東面を流れる支流を目指したのだった。黒沢の支流、赤岩沢だ。渓の水で濡れたロープを入れた重いザックを背負って、暑く淀んだ空気の中を家へ向った。
 赤岩沢は黒岩山の頂上直下から東へ下り黒沢に出合う。今回は、この赤岩沢を遡上し南隣を流れる魚沢を下る計画である。魚沢は、やはり黒岩山を源頭とする大きな沢だ。黒沢沿いには半世紀前まで、桧枝岐から馬引峠を越えて栗山とを結ぶ交易路が在ったといわれる。さらに富士見峠を経て日光へ物流のルートが伸びていたともある。生活のための道が、人々の足や馬の蹄に踏まれて開かれたのだった。しかし、道の入口を固くゲートで閉ざしている道路、これを道といえるのだろうか。車が走るわけでもなく、人が歩くわけでもない立派なこの人工物を何と呼べばよいのだろう。黒沢沿いのこの人工物は、今は自然に帰りつつあるが、赤岩沢の出合い付近まで続いている。人と物の流れのルートであり、そして人間の生き方にも譬えられる「道」、今では人間の無用な営みの記念碑として緑の山肌に無残な傷痕を残しているだけである。
 前回6月19日の奥多摩・布滝沢の遡行が雨で中止になったので、一ヶ月ぶりのさわね山行だ。Tさん、Kさん、ジョーさんが今度の相棒である。Tさんとは今年初めて。Kさんとは、4月の本間沢中退以来の同行だ。久々の同行はいつもうれしい。ジョーさんとは奥秩父の股ノ沢で前回一緒だった。鬼怒川温泉駅に着くと、三人ともすでに待っていてくれ、すぐに出発できた。四方山話をしながら、女夫淵温泉へ向った。レンタカーはビッツだったが、四人ならこれで十分だ。トランクに三つ、後ろの座席にひとつ大きなザックを置けば良い。

赤岩沢遡行
 赤岩沢の核心は、標高1530m付近の大滝40mと標高1780m付近の大滝45mだろう。いずれも、二段になっている。大滝40 mは、白山書房の『関東周辺の沢』に、30m赤岩ノ大滝として紹介されている1)
<赤岩ノ大滝40m>1530m付近
 赤岩ノ大滝は、下段10mを滝の右端を登った。難しくない。上段は、ジョーさん、Tさんも下から見て登れるという。言われてルートを追えば滝右の水流際が登れそうな気はする。ジョーさんが先行してロープを曳く。途中一箇所支点を取りさらに上がるが、慎重だ。ホールドを探りながら落ち口まで、ジリジリと詰める。ナッツで支点を取って落ち口を左へ横断し、ジョーさんの姿が消えた。30mロープいっぱいまで引かれ、あわててもう一本を結んだ。上の状況が見えず、滝の音でなかなか意思疎通が旨く行かない。しばし停滞した後、Tさんが意を決して登攀開始。ここで高橋は、直登を止めて右岸の巻き道を目差す。水流を横断して左手のブッシュに入る。上段中盤辺りから水流際ブッシュの左手にある細流沿いを登った。ここは、細い溝になっており水が僅かに流れ、その溝に木の根が絡まっている。すこぶるホールドの豊富なルートであった。あっさりと巻いたつもりだったが、Tさんはすでに登り終えていた。Kさんが準備して登り始める。下を覗くと身震いがするほど高く、傾斜が反り返って見える。下から見て結構登れそうに見えたが、止して良かったと思った。クライミングの基礎をしっかりやっていない者に登れる所ではない。Kさんが登ってくるところを「落ちるなよ」と呟きながらカメラで連射した。50分ほどかけて、全員登攀終了。
<上の大滝45m>標高1780m付近
 上の大滝45mの少し下にタープを張ったので、この豪快な滝は、二日目の挑戦だった。下段20mの左岸寄りに倒木が逆さに架かっている。この滝の記録には、直登の記述もあるが、現実の滝を見ると下の大滝と比べ傾斜は立っており、さらに高い。我々はあまり迷うことも無く巻きを決める。45m滝下に右から出合う支沢に入り、途中の分岐を二つほどどちらも左の沢へ入り高度を稼いだ。45m大滝からは、かなりの距離を離れたことになる。支沢が段々の滝を懸けている落ち口の辺りが難しい。左の草付きへ逃げたが、最後の登りの数歩がてこずった。この上で沢へ戻り、さらに支沢を登ると地形が穏やかになり、両岸が笹薮になった。滝下からは40〜50m登っている。ここから、左の笹を分けて落ち口を目差す。ほぼ水平にトラバースをしていくと大滝の段々ナメ滝の上に出ることができた。沢への下降も笹を掴んで降りることができる。傾斜の穏やかなトラバースだったので、予想以上に簡単に落ち口の上に立った。一同このあっけない結末に一安心した。それでも、高巻きに要した時間は、下の大滝と同じ50であった。
<ハイライトと詰め>
 赤岩沢のハイライトは、赤岩ノ大滝40mの上から途切れなく続くナメとナメ滝だろう。言葉で表現しようにも限りがあるので、その感動を体感したい人には現地に行ってもらう他はない。ナメとナメ滝は、上の大滝まで続く。途中、何度も5m前後の滝が現われるが登攀の難しい滝はない。ナメ滝の岩はフリクションが良く効くところが多い。上の大滝の上流部もナメとナメ滝の世界が続く。通称12m階段状滝の上辺りから沢幅が狭まり源頭に近い様相を示してくる。沢の傾斜が穏やかになり平らになるあたり、標高2000mを越えた辺りから左手のヤブへ入った。密生ヤブではないので歩くのに支障はない。ただ、前方の視界が効かないので、黒沼田代を探すのは思いの他やっかいだ。ここで、方向感覚に関しては動物的感覚を持つ高橋の本領発揮である。逡巡しつつも、あっさりと湿原の扉を開いたのだった。

魚沢の下降
 魚沢の下降点は、黒沼田代の南端である。ここから南南東方向へ下り始めれば程なく沢形が現われる。支沢は幾つかあるようだが、どの沢を降りても同じだろう。ヤブが被って歩きにくいので体力を使う。右岸から支沢が合わさるY字状のナメ滝の出現でやっとヤブっぽい沢から開放される。ここは、左岸の笹を掴んで慎重に降りる。やがて標高1770m付近、三俣地点の7m滝で懸垂した。以下懸垂した滝を記しておこう(遡行図参照)。沢が直角に右へ曲るところの7m滝(1700m)、下から見ると扇子のような形、下の流れが絞られた滝8m、この8m滝のすぐ下の12mの滝(通称懸垂滝)、などである。なお、7mチョックストンの滝(1650m)は、左岸を巻くと大岩に沿って簡単に降りることができた。魚沢も、赤岩沢に劣らずナメとナメ滝の綺麗な沢だ。ナメ滝を見ながらお昼ご飯を食べるのは至福この上ない。さんざめきながら目の前を水が流れ、陽の光を複雑に照り返す。予定調和のない調和の世界とも言えるのだろうか。両岸を覆う緑の下に展開されるナメとナメ滝を見ていると飽きることがない。そのまま、別の世界に入ってしまうようなときがある。
 1530m付近の大きな直瀑の滝(18m滝か)では、巻き道が左岸にあるとの情報で探したが入り口がさっぱり分からない。滝から20mほど戻った左岸の最も登りやすいルートを上がると踏み跡がある。この踏み跡を追うと斜面をまっすぐ上がっている。高巻の方角とは違うが、この上部には林道がある可能性があるので、そのまま直登することにした。ヤブは薄く登りやすいほうだ。50mほど笹を掴んで登ったところ、標高1580m付近で明確な林道跡に出た。そのまま林道を降り、標高1300m付近の左折部から林道を外れ、魚沢の出合い付近へ下がるゆるい斜面を下りた。

1)『日本登山体系』白水社では50mとなっているが、これは『帝釈山脈の沢』白山書房と同じ出典、市川学園山OB会の資料である。現地を見た限りでは、とても50mは無い。下段が10m、上段が30mぐらいと判断した。


コースタイム

7月3日

女夫淵駐車場11:45−赤岩沢出合13:06−赤岩ノ大滝40m14:20〜15:20−テン場(1730m)16:10
7月4日
テン場6:43−上の大滝45m6:53〜07:54−2015m・左のヤブへ8:46−黒沼田代9:00〜14−三俣10:31−懸垂滝12:26〜33−昼食12:48〜13:07〜18m滝13:32−林道13:58−魚沢出合15:23−女夫淵駐車場16:00



7月3日 くもり  赤岩沢遡行

赤岩沢出合を入るとゴーロになる


出合から1時間ほど歩くと赤岩の大滝40mが現われる 手前は
前衛の滝6m


赤岩ノ大滝上段30m  飛沫を浴びながらジョーさんが果敢にリードする


赤岩ノ大滝上段30m  Kさんが登攀開始 小さく見える



水の飛沫を浴びて苦戦する


難しいところを通過



落ち口はもう少しだが、この水流を横切らなければならない


大滝上のナメ滝7m  ここで記念撮影 大滝を登攀した喜びが顔に表れている


めずらしく高橋の写真を一枚 Tさんに撮ってもらった



ナメそしてナメ滝が続く


ナメ滝そしてナメ















その日は焚き火もできる幸運な夜でした


7月4日 くもり 赤岩沢遡行・魚沢下降

朝靄の中、ナメ滝を登る


上の大滝45m とても登る気にはならない 右の支沢から巻く














50分かけて大滝の上 バンザーイ 大滝の上は段々ナメ滝だった


12m段々滝  ここを登れば沢幅は狭まる















標高2000m付近を左のヤブへ入り100mほど南西に黒沼田代が


 思っていたより広い黒沼田代  北から南側を見て 湿原には小さな花が咲いていた


魚沢の下降 Y字のナメ滝  左岸を笹を掴んで下る



こんな流れを下っていった


ナラタケ発見


扇状の滝8m  この下すぐが12m懸垂滝


懸垂滝12m 滝右を懸垂で降りた

こんなやさしいナメ滝があったりで  心癒される

















ひたすらナメを下る  足元は滑らないので安心


























標高1530m付近の高い滝(18m滝)の上から左岸を50mほど
上がれば、林道跡(1580m)に出る
30年以上放置されてある


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