足尾 庚申川本流

2010年6月12、13日(晴れ、晴れ)
ウェルネス・クライマーズ
大橋さん、山崎さん、高橋

遡行図

標高1600m付近で盛りだったゴヨウツツジ(シロヤシオ)

 東京へ向う電車の車窓から外を見ていると、徐々に家並みが増してくる。その家々のひとつひとつに、家庭があってひとりひとりの人間が住まっている。今車上の人となった私は、狭いベランダに洗濯物の干してあるあの家の住人ではない。だが、そこの住人はどんな人なのだろうか。年齢は私に近いのだろうか、それとも赤ちゃんのいる若々しい夫婦なのだろうか。病に罹っている人はいないのだろうか。私は、その家の住人ではないことは確かだ。今こうして、宇都宮へ向おうとしている。だが、私が、洗濯物を干してあったあの家の住人ではなく今のこの私であるとは、考えれば不思議ではないか。私が、あの家の住人であった可能性はあったはずなのである。そして、たった今、その家で新聞を読んでいたかも知れないのである。ふとそんなことを考えながら、二人の待つ宇都宮駅へ向ったのだった。

 庚申川本流は、ゴロタの滝と釜が連続し、時折ゴルジュと深い淵が現われる。両岸には幾分濃くなりかけた若葉が茂っている。庚申川は、どこかに書いてあったように確かに歩く沢だ。様々に渓相が変化するゴーロを歩き、左右に渡渉し次々に現われる深い釜や淵をへつる。滝らしい滝は少ない。大概の滝は、2、3mの滝でそれ自体何のことは無いが、その小さな滝の前衛に控える深い釜や淵が曲者である。両岸迫るゴルジュの底に深い釜を従えた小滝が現われると、すぐに通過困難となる。だが、水中にスタンスを求め腰まで漬かれば大方は突破できる。今回は、時間的制約によって水ノ面沢出合から入渓したので、難所は少なくなっていたはずだ。それでも泳がなければならない箇所が数箇所あった。だが、いずれにも巻くルートがある。初心者ではなく、谷を見る眼がある者ならば難しい箇所は無い、というのが我々の結論である。現在は多くの情報がインターネットで得られる時代であるが、必ずしもその情報の確度は一様ではない。
 なお、我々の遡行時の水量は、ネットの写真との比較で平水以下であることが分かった。水量が多い場合は、大橋さんリードで釜を腰上まで漬かって通過した大釜2m滝(1170)や二俣(1340m)上20分のダイナミックな5m滝も巻く可能性が出てくるだろう。6月ということで、水はさぞ冷たいだろうと予測していた。だが、気温が高めのせいか、思いの他冷たさは感じなかった。午後一時過ぎであったが、遡行中に二回ほど釣り人に会った。幸い気持ちよく通してもらったが、水ノ面沢出合の下流域からの入渓では、釣り人と会う可能性がもっと高いと予測される。
 最も通過困難と予測していた三才沢出合1)の先のゴルジュの長淵は、先駆者の情報通り右岸を巻くことができた。この巻きは、20mほどの高みの土の斜面をトラバースするのだが、スタンスの取れないような危険なところはない。踏み跡を逃さなければ、沢への降下も難しくない。我々は念のため、トラバースで一箇所だけロープを出したが、ロープなしでも歩けるだろう。なお、ここの高巻きは、淵のすぐ手前の窪を上がるルートもあるようだが、我々は長淵から手前30mほどの小ガレからピンクテープに導かれて上がった。二俣手前の二段10mの深い大釜は左岸にスリングが下がっていたが、とても我々に突破できるルートではない。ここは、左岸を戻り気味に巻いて窪へ入り上がった。このルートは二段10mの上段も交わしてしまったので、もしかしたら窪をあがる途中から左へ(落ち口の方へ)トラバースしたほうが良かったのかも知れない。
 今回のメンバーは、大橋さん、山崎さん、高橋の三人だ。昨年の東沢釜ノ沢遡行以来この三人の遡行が続いている。ネットの遡行記録を基に、水ノ面沢入渓から二俣(境沢出合)までの遡行時間を4時間と見て行動した。だが、昼過ぎから入渓して二俣着が1750というぎりぎりの時間になってしまった。遡行時間は、5時間半掛かったことになる。時々感じるこの時間差は何なのだろうか。休憩を多く取るわけでもなく、取り立てて歩行が遅いわけでもないのにどうも良く分からない。カモシカのようなスピードで脇目も振らずに谷を歩く遡行者が多いのだろうか。だが、渓歩きは歩く早さを競うスポーツではないので、どうということでもないが。二俣のテン場に泊る者が多いのだろうか、日暮れが迫り薪集めもままならなかった。だが、幸いに乾燥した長い流木が手に入った。やはりテン場に薪の用意が少ないとさみしい。
 私は、渓での食事や酒は少なくても良いという考えだが、当日の夜の献立は圧巻であった。記念のためにここに記しておこう。鱈チーズ、ニンニク漬け、小ブキの煮付け、ソラマメの塩茹で、豚肉、牛肉の焼肉、エリンギと野菜の炒め物、アジ干物の網焼き、ソーセージの串刺し、サバの味噌煮、などなど。忘れてしまった物もあるかも知れない。その晩何食分食べたのだろうか。さぞかし、食事を担当してくれた大橋さん、山崎さんの荷は重かっただろうと思う。途中、二人が滑ったり転んだりした真の理由はそこに有ったのかも知れない。

 二日目の渓、二俣上は小さなゴルジュや滝が現われるが、20分ほど歩いた先で現われる5m滝以外は、総じて穏やかな渓相になる。このダイナミックな5m滝の登攀では、唯一滝登りでロープを出した。水流右の岩にホールドは豊富なので、落ち口だけ気を付ければ問題ないだろう。ただ、水量の多い場合は、難しくなると思う。標高1450付近から先は急に沢が開け、右岸に木立の生えた段丘が現われる。新緑の季節ともあいまって美しい渓の相貌になった。どこでも幕を張って休めるところがある。だが、疲れた足には、同じような渓相の続く歩行が結構応える。標高1550m付近の二俣(1:1)を右に入り、20分弱歩くと六林班からの登山道と交叉する。この地点は気を付けないと見逃しやすい。ここは1600mの二俣すぐ手前である。赤いテープなどが下がっているので、注意して歩けば問題ないだろう。ここから庚申山荘へ向うトラバース道で得られる山の風景は独特のものがある。背の低い笹原を敷いた樺と橅の疎林には陽の光がどこまでも行き渡り、明るく美しい。庚申山荘への二時間近くこの美景を眼にしながら歩くことができる。庚申川遡行の喜びと相まって、心から幸せを感じた。

1)ミオ沢と記す資料(日本登山体系)もあるが、三才沢(さんさいさわ)の誤記だと考えられる。当面「三才沢」と記しておく。


コースタイム
6月12日
かじか荘10:30-水ノ面沢出合入渓12:04~26-右岸涸沢(1100m)13:32-右から沢(5:1)-10m滝(1180m付近)15:05-三才沢15:59-ゴルジュ長渕16:27~17:12-二俣(1340m)17:50
6月13日
二俣(1340m)07:07-5m滝07:28~52-1400m二俣(1:2)8:02-1430m二俣8:30-1550m二俣(1:1)9:41-登山道10:00-庚申山荘12:10~41-かじか荘14:40



6月12日 晴れ

水ノ面沢出合付近



右岸が扇状地の辺り

大岩3m滝 左岸へ上がったが巻きは右岸にある

1125m付近 何度も渡渉する

5mの淵をへつる


腰上まで漬かって2m滝をクリアする

思ったよりは水が冷たくない



泳がないと登れない最初の難関3m滝 ここは左岸を戻って
巻き道へ入る。良く踏まれている。この先に美しい10m滝が

ある。標高1170m付近


初めての滝らしい滝10m  ここも左岸をトラバースして水流右の大岩に上がる。

大釜6m滝 左を巻ける

暗い夜を焚き火が照らす。空は満天の星だった。



6月13日 晴れ

二俣にツエルトが3張り、朝が来た。予報に反して晴れ。

二俣テン場の前の滝 山椒魚が住んでいる


二俣から20分 滝らしい滝が現われた

ダイナミックな5m滝を登る


5m滝を登る山崎さん


5m滝の落ち口

5m滝を登る大橋さん  濡れずに登れたが水量の多いときは苦戦だろう

幅広3m滝 どの小滝にも大きな釜がある

1450m付近で沢が開ける 水量はまだ多い


ミツバツツジも満開だった

六林班峠道を庚申山荘へ向う 樺とブナの疎林が美しい


六林班峠道から  石割樹木の不思議が

六林班峠道は疎林で明るく美しい 庚申山荘はもうすぐだ


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