長いプロローグ
 大橋さん、山崎さんとは、久しぶりの再開だ。前回は東沢釜ノ沢でのお付き合いなので、2ヶ月ぶりだ。今回は、片品川中ノ岐沢の支流、小淵沢の遡行に付き合っていただいた。
 人の出会いは、不思議なものだ。出会いというのは必然のようでもあり、まったくの偶然のようでもある。人の別れは、さらに捉えがたい。昨日まで親しくしていた人と、次の日から生涯の別れになることはめずらしくない。一年ほど前、40年近く務めた会社を退職した。そのとき、長い間、共に苦労してきた多くの人々との別れに、特別の感慨は無かった。またいつか会える。そうぼんやり思っていたからである。だが、今となっては、それが生涯の別れであったと思う。特別に親しくなければ、仕事での付き合いは、私生活に及ばないからだ。だが、私生活の出会いでも、仕事上の出会いでも、等しく人と人との出会いという点では変わらない。どちらにしても、そこに人間の血が通うのである。退職のとき、長いことお付き合いを頂いた若い営業マンの方から、安くない餞別を頂いた。開発した工業材料の製造をお願いしてきたメーカーの方である。先方からすれば、会社を辞める男に金銭を渡しても何の得もない。だから、思いもかけない餞別を有り難く頂戴した。この恩返しをすることはかなわない。そう思いながら。それは、その方との生涯の別れだったと思う。
 先日も、山崎さん、大橋さん、黒川さん等と東黒沢〜ナルミズ沢を遡行しているときに、偶然に山中で出会った女性との、別れとも言えない別れがあった。不思議なのは、その女性が、私が所属する沢の同好会に入会してきたことである。沢歩きという共通項があったので、必然といえばそう言えるだろう。だが、群馬県の山の中で声を掛けただけの女性が、埼玉に本拠が有る沢登り同好会の門を叩くというのは、いかにも偶然ではないだろうか。そして、その女性は先日この会を去った。ただそれだけのことではあるが。
 ひとつひとつの出会いがある。だが、そこには必然の別れが孕まれている。山崎さんとの出会いも偶然に過ぎない。某渓友塾の劣等生として席を並べたという・・・。別れがあるからこそ、時々の人との交わりを大切にしたいと思う。星の数ほどある人々の中から、出会いへ至る数はあまりにも少ないのだから。人と人との出会いや別れが気になるのは、歳のせいなのだろうか、と思いながら。

入渓点から登山道
 小淵沢は、きれいなナメやナメ滝が多い。10月中旬、くもりという条件であったため、入渓当初は水が冷たかった。だが、10時ごろから陽が射し始めると身体が温まり、水へ入ることをいとわなくなった。その後、下山するまで日差しを受けて行動することができた。そういう点で寒さと冷たさを心配していた今回の遡行は幸運だった。
 小淵沢の遡行時間は、ネット情報では4〜5時間の例が多かった。当然、我々高年遡行者は5時間の遡行を覚悟しなければならない。が、あれれ、遡行後2時間ですでに3分の2を遡行してしまったことに気が付いた。30mロープはおろか、12mの補助ロープさえ出さずに最後の滝10mの前まで来てしまっていた。すぐに責任のなすり合いになった。最初のトップ高橋が序盤を急ぎ過ぎたためだ、大橋さんが15m大滝の核心をロープも使わずにあっさり越えてしまったからだ、などなど。いずれ、我々は十分に楽しんで遡行するという、沢歩きの鉄則から外れてしまっていた。これは、小淵沢のせいではない。小淵沢は、随所に小滝を交えた5〜7mぐらいの美しいナメ滝を見せていた。どの滝も難しくは無いが、それなりに工夫して登る面白さがある。直瀑は無いので、登るのに徹底して苦労するところは無い。万年初心者の高橋には手頃な沢だった。
 序盤に出てくる大きなナメ滝7mは、左端を登った。よく見て行けばホールドはある。だが水の冷たさに手がかじかんだ。標高1640m付近の15m大滝は、左右にルートがある。左は左端の細流沿いだが、7m滝の水の冷たさに懲りてこちらは敬遠。右は中盤のハングした岩を越えて上部のバンドへ入り、落ち口へ斜上するルートだ。リードした高橋は、どうしてもこの岩を乗り越せず、大橋さんにバトンタッチ。大橋さんは、あれれと思う間にその岩を上がってしまった。高橋はどうも納得がいかない。あんなに簡単に登れるはずは無いんだが。大橋さんのあと、スタンスの取り方を真似しようとしたが、やっぱりだめだった。ここはスリングをブッシュに固定してもらってやっとのことで越えた。技術の差というのはこんなものなのだろう。12m滝は、左から登れば楽勝と踏んだ高橋は中盤で停滞、一歩を決断するのに相当迷った。こういう時は、視点を変えるのが一番なのだが、それができないのは余裕の無い証拠だった。終盤に出てくるやや傾斜の立った6m滝は、遠目に難しそうだが、近付いてみるとホールドはある。ここは、水流の右を登った。最後の滝10mは、どこから登ろうとも簡単なルートは無い。登るとしたら右の細流沿いだろうと思うが、高橋にその力が無いのは明らかだ。だれも、手を上げるものが無く、ここは滝の右奥の泥壁を登る。ここはまったく問題ない。
 沢から登山道へ上がるルートを判断するのが、少し難しい。標高1800mの先で本流は東に向きを変え登山道と平行になるので、沢を詰めてはいけない。これは地形図を見れば誰にでもわかる。1800mを過ぎたあたりから左へ入る支沢を探し北を目指す。我々は、1810m近辺の支沢を左へ入った。最初踏み跡があったが、すぐに濃いヤブに分散されてしまった。15分ほど無我夢中でヤブを漕いでひょっこり登山道へ出た。ここが、ベストのルートであったのか、今でも自信が無い。入渓してから登山道へ出るまで、遡行時間は3時間10分だった。

下山
 この先、小淵沢田代には人影が少ないが、大江湿原から長蔵小屋へ向かう木道では突然人が多くなった。もうシーズンは終わっているはずなのだが。尾瀬ヶ原から長蔵小屋へ来る木道はさらに多い。団体と思しき人の群れが遠目にも団子のように目立って見える。だが、この辺りは無条件に美しい。30年以上も前に歩いた尾瀬を懐かしんだ。まだ残雪のある頃、晴れた日に人の少ないこの辺を歩いたらさぞかし楽しいだろうと思った。
 三平峠を下る途中、キノコ博士、ドクター山崎は、登山道すぐの枯れ木の根元にクリタケを見つけた。両手で包めないほどのクリタケが太い枯れ木の根元に盛り上がっていた。写真を撮っておけば良かったと思ったのは、すべて採り尽くした後だった。今年の大収穫の、その半分以上を高橋が土産にもらってしまった。早速次の朝、クリタケと豆腐の味噌汁にした。煮ても形が崩れないクリタケのしゃきっとした歯応え、自己を主張しない上品な香りを楽しんだ。大橋さん、山崎さんそしてクリタケ、ありがとう。来年も一緒に登れればいいな。

コースタイム

大清水6:40−入渓点08:29〜39−7m滝09:06−大滝15m09:44〜10:01−トイ状5m−12m滝10:25−10m滝10:59−左の支沢へ入る(標高1810m付近)11:33−登山道11:49−大江湿原への分岐12:00〜12:37−大江湿原13:06−長蔵小屋13:23−三平峠14:11−大清水15:45



 入渓点すぐの4m滝


 5m滝 右を登った


 上記5m滝を登る山崎さん


 7m滝 左を登った。ホールドはある。落ち口は慎重に。


 大滝15m 滝右端を登ったが中盤の一歩が難しい。左細流沿いも登れると思うが水は冷たい。


 3m、3m滝 下の3mは左を登った。


 上の3mを登る二人


 5mトイ状滝


 5mトイ状滝を登る大橋さん


 下から5m、3m二段滝 この奥に12m滝が隠れている


 二段滝を登る


 12m滝 思い思いに登った。高橋は左の簡単そうなルートを選択。だが、上段一歩でホールドに苦労した。


 12m滝 大橋さんと並んで。高橋は、何を思ったのかこのナメ滝を甘く見たらしい。


 12m滝 大橋さんがいなくなっても難しい一歩にまだ滞留


 12m滝 やっと難所を抜けた高橋(山崎さん上3枚撮影)


 ナメの向こうに4m、6m滝が見える。


 6m滝 水流右を登った。やや細かいがホールドは豊富。


 最後の滝10m 登れそうに無いので、滝右奥の泥壁を巻いた。


 最後の滝10m


 小淵沢田代 思ったより広い。人はいない。我々だけ。


 大江湿原から長蔵小屋に向かって


 さすがに尾瀬だ。1700mの山上に売店が


 尾瀬沼からひうちヶ岳


 三平峠下で採ったクリタケ 家に持ち帰ってから撮影 この5倍ぐらいが一箇所に。全部で300gあった。


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奥鬼怒 片品川中ノ岐沢小淵沢 

2009年10月17日曇りのち晴れ
ウェルネス・クライマーズ
大橋さん、山崎さん、高橋

遡行図

ナナカマド 三平峠下