すりかみがわからすがわなめやさわ

栗子山塊 摺上川烏川滑谷沢 
2009年10月10〜12日 
沢登り同好会さわね
西嶋さん、下野さん、高橋

遡行図

  マユミ

10月10日 国道13号線から滑谷沢出合
 栗子山は、福島県と山形県の県境にある小さな山だ。福島市から米沢市へ向かう国道13号線、奥州街道が県境を通過するところから北5kmに位置する。沢登で人気のある前川大滝沢からは、北へ10kmのところになる。栗子山の東面の広大な自然林の中を烏川(からすがわ)は流れている。滑谷沢(なめやさわ)は烏川の大きな支流である。
 滑谷沢出合に至るには、国道13号線の東栗子トンネル東口の付近を通る旧街道に入る。北に一時間歩いて烏川の架かる橋の先から河原へ降り、そこから烏川を五時間ほど下る。烏川の下降は、両岸ブナの豊富な林の中を、大方平らな砂利の河原を歩くことになる。時にナメ滝や深い淵が現れてトラバースが余儀なくされる。だが、危険を感じるような難しいところはない。滑谷沢出合のすぐ手前のゴルジュの通過に注意が必要なぐらいだろう。ここは4mほどの滝の左岸をクライムダウンした。ここの右岸にはトラロープが張られていたが、左岸より足元が悪い。ここから、滑谷沢出合はすぐだ。
 滑谷沢出合には適当なテン場がある。初日はここで泊まることにした。時折小雨のぱらつくのがやや気持ちを暗くする。だが、薪をかき集め焚き火を起こす頃には雨も止み、暗くなった天空には星が現れたり消えたりした。雲の流れが速いのだろう。明日遡行する滑谷沢の水量は、本流烏川に負けないぐらい多い。強いせせらぎの音に混じって、遅くまで西島、下野、高橋の声が闇の中へ吸い込まれていった。沢の遡行に関わる他愛ない話だったが、それは三人にとって大切なものだった。

10月11日 滑谷沢出合から二俣、右俣遡行、奥ノ二俣、テン場930m
 滑谷沢は、出合から2km西で二俣に別れ栗子山の東面を遡る。今回は右俣を遡行する予定だ。この二俣までは、水量も多くナメ滝や釜、そして淵に阻まれて何度も渡渉を繰り返し、滝を巻くことになった。滑谷沢はナメの沢だと勝手に思い込んで入渓した三人だったが、完全に裏切られたことになる。だが、どのシーンもどこかに懐かしさを覚える渓流の景観であった。日本的な美しさと言えばそれに少しは近付くだろうか。流水は白く泡立ち、青苔の岩の間を滑ってゆく。両岸は自然の林が被い、木の葉はところどころで色付いている。空は青い。深い淵には黒く走るものの姿があり、水は底の小石を見通せるほどに澄んでいる。滝では奔流が轟音を立て岩に当り割れる。三人はその景色の中を黙々と歩いて行く。
 二俣までは、険しいところもあるが、どこにもしっかりした巻き道がある。行き詰ることは無い。途中、大きな籠を背負ったきのこ採りの二人組みに会った。今年はひどい不作とのことだった。滑谷沢出合から二俣までで最も大きい滝は、ちょうど中間点あたりにある。沢が右に鋭角に曲るところにある二段7mの滝だ。我々は、陽の差し始めたここでしばらく休憩した。陽光の下、滝の左右は白布を落とすような瀑布を見せ、その中央を奔流が貫いている。追い着いてきた二人の遡行者が、先行してこの滝を登って行った。ここは、難しそうに見えるが、滝の右が登れる。
 二俣を過ぎ、右俣へ入ると滝滝滝となる。ここは滑谷沢ではない。滝谷沢だ。そう思わせるほどに滝が次々に続いた。3m以上の滝を数えると20箇所以上の数になった。登攀に興味のある人は直登をトライするのも面白いだろう。だがどの滝も見事な釜を従えており、岩はツルツルなのでそれなりの覚悟が必要だ。右俣へ入ってじきに現れる二段4m滝を抱えたゴルジュ、ここは左の高いところをトラバースした。五段15mねじれ滝は、下段の6mの岩を登ってからやっとのことで右のブッシュに逃げて巻いた。下部がトイ状8m、上部がすだれ状4mの二段12m滝は難しい。ここは、右岸の弱点を突いて上がる絶妙な巻き道が、我々を落ち口に案内してくれる。傾斜のゆるい5、3、2mの三段10mナメ滝は、難しいので右岸のブッシュに入って小さく巻いた。その他、次々に現れる4m前後の小滝が我々を退屈させずに奥ノ二俣まで導いてくれる。奥ノ二俣は平坦地で、絶好のテン場がある。先行した二人組が早くもツェルトを張っていた。
 今日中に栗子山を越えようと考えた我々は、さらに先を急ぐ。だが、今日中の栗子山の制覇は難しいだろう。標高900m付近で右から砲弾のような直瀑4mを入れる。ここは、2.5万図で滝のマークがある。西へ向かう本流をそのまま進むと、じきに脆い花崗岩に囲まれた4m直瀑に妨げられる。ここは、少し戻り左岸の段丘へ上がって巻いた。このすぐ先の930m地点で今日のテン場を整地した。

10月12日 テン場から栗子山、滑谷沢左俣支流下降
 快晴の天気で早々に夜が明けた。頂上を掴まえるには絶好の日和だ。だが、このときはこの天候が我々の幸運の女神であることに気付かなかった。
 標高1010m付近に二俣がある。ここの水量は1:1だ。この二俣の少し手前のゴルジュの4m滝は手強い。巻きも大変そうだったので右と左の側壁、両方に分かれて登ったがやや緊張した。今度のコースで無理やりの登攀を強いられたのはここだけだった。巻き道があったのかもしれないが。標高1080m付近で本流は直角に右へ向きを変える。ここには、下段のナメを含めると10mになる大きなナメ滝が懸かっている。ここは藪に入って巻いた。夏なら直登する気になったかもしれない。。分岐の多くなった源流を水量の多い方へ辿るとヤブも無く沢形が消えた。
 だが、その先から笹と曲がりくねったブッシュのヤブは徐々に密集して我々の手脚を絡め取ってきた。頂上があるはずの南方へ舵を取るが、ヤブの薄い箇所を選んで歩くのでまっすぐには進めない。地面がほとんど平坦になると、四方のヤブで現在地不明の状態に。奥多摩や丹沢の山頂を何となく想像していたのがいけなかった。頂上に近付けば踏み跡があり、頂上には標識とお弁当を食べる広場がある。そんなお人好しの感覚を、完全に挫かれた。無闇にヤブを漕いでも仕方が無い。却って方向を失い現在地を分からなくするだろう。あの沢形が消えたとき、なぜもっと踏み跡を慎重に探さなかったのだろう。源流部の踏まれ方からすれば、必ず頂上へ向かう踏み跡ぐらいは有っただろうに。いともあっさりと迷宮のヤブへ踏み込んでしまった。そんな後悔が少しよぎった。落ち着付くために休息をとって作戦を練った。一昨年、南会津・布沢川大滝沢の鎌倉山の頂上を目指し迷ったときのことを、昨日話したばかりだった。何か因縁のように、今日もその時と全く同じメンバーだった。だが、方向感覚を失ったわけではなかった。コンパスも地形図も持っている。頂上付近には立っているが、頂上に立っていないというだけだった。そう慌てることでもない。
 ここで今日の快晴の天気が味方した。二回目の休息のときに、下野さんが低い潅木に登って、行く手南方の1202mピークを確認した。そのピークに至る栗子山南稜のコルに今日の下降地点がある。ガスがかかっていたらそうはいかなかった。さっそくピークの方角へヤブを漕ぐ。じきに目印テープの下がる踏み跡に出て安堵した。しばらくは踏み跡をなんとか追えたが、コルへ下がる手前の平坦地で見失った。その先は蔓まじりの猛烈なヤブに突入、無理やり標高1130mのコルを目指した。コルを東に下がればそこは沢だ。我々沢屋の世界だ。多少の滝が有っても何のことも無い。滑谷沢左俣の支流を下る。8m多段の滝、ゴルジュの5m滝、5m段々滝をブッシュや笹を掴んで降りた。左岸から立派な沢を二つ入れると見事なナメの続く景色になった。滝と釜の連続する四段滝を降りる。もう終盤は近い。今度の旅の成功に満たされた心を温めながら、色付き始めたブナ林の木洩れ日を浴びて沢を下った。すぐに、滑谷沢左俣本流へぶつかる。本流は5m直瀑が轟音を立てていた。ここは、左俣本流へ入り流れを遡れば、帰りの旧街道へ行き当たる。本流を遡り始めてすぐの右岸のしっかりした踏み跡を辿れば、大きく湾曲した沢をショートカットできる。途中、立派なテン場があった。釣り人の定宿なのだろう。



10月10日

 二ツ小屋トンネル


 傾斜のゆるい5m滝 右岸を降りる


 ブナ林の中を烏川は流れる ひたすら下降する


 陽が差してみたり、雨が降ってみたり。狐の嫁入り。


 多段4m滝を巻く


 三段の滝


 ここで右から大きな沢が入る


 ゴルジュ4m滝 左岸の草付をブッシュを掴んで降りる


 滑谷沢出合 手前が滑谷沢 向こう側が烏川本流


10月11日

 4m滝


 水が白く泡立ち、石には青苔 そこには日本的な情緒が


 木の葉が色付き、水面に映える


 小滝でも水量が多いため、サイドを巻く


 5m、2mの二段7m滝 青空が見え出して滝が映える。 ここは、右端が登れる。


 二俣に差し掛かる


 2m、2m二段滝ゴルジュ 左の踏み跡をを巻く


 幅広5m滝 直登は滑るので慎重に


 スダレ状の4m滝


 二段12m滝(下部トイ状8m、上部スダレ状4m) 深い釜のため滝には近付くことができない。左に絶妙な巻き道がある。


 10mナメ滝(5、3、2m) 簡単そうに見えるが直登は難しい。左のブッシュを巻く


 奥の二俣の上流


 標高930m付近で幕


10月12日


 テン場に朝日が差してくる


 ゴルジュ4m滝 なかなか手強い滝だった。左から登った。


 頂上付近南から南稜の1202mピークを望む 向こう側。下山ルートが確認できて安心した。


 滑谷沢左俣支流 四段のナメ滝 滑谷沢左俣に合流する手前


 旧街道に上がって振り返ると、南稜1202mピークが手を振っていた。



コースタイム
10月10日
国道13号線駐車場11:00−烏川の橋12:00−傾斜のゆるい5m滝13:12−二俣13:27−二俣14:28−ゴルジュ4m滝−滑谷沢出合14:51(泊)
10月11日
滑谷沢出合8:46−二段7m滝10:02〜17−二俣11:03−二段12m(トイ8m、スダレ4m)12:47−奥ノ二俣13:33〜57−900m二俣14:29−テン場(930m)14:58 (泊)
10月12日
930mテン場7:52−1010m二俣8:26−1080m二俣8:49−頂上付近10:00−南稜1202mピーク手前コル11:05〜29−二俣12:57−二俣13:22−滑谷沢左俣(遡行)13:36−二俣13:53−旧街道14:26−烏川の橋15:13〜23−国道13号線駐車場16:15


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