大源太川 北沢本谷

2009年9月20、21日 
Kさん、ガクさん、高橋

なし

遡行図

プロローグ
 八月に谷川の白樺沢、ケサ丸沢へ一緒に行ったKさん、ガクさんと、今度は大源太川・北沢本谷へ出掛けた。入渓地点に前泊して、次の日軽荷でアタックする作戦だ。前回に引き続き、快晴の遡行になるだろう。北沢本谷は、白山書房の「関東周辺の沢」によれば、遡行時間6時間半、2級になっている。谷川の沢というからには、さぞかしスケールの大きなスラブの美しい渓だろうと思って入渓したが、沢は意外と小さい。おそらく一昨年の台風によるものだろう。大小の流木が滝の岩々に掛かり、その景観を損ねているのが残念だった。ただ、三俣の上から始まる狭いながらも乾いたスラブの登攀は、その対面の山並みを望みながら楽しむことができる。万年初心者の感想を言えば、初心者が雨に濡れたスラブを登攀する図は想像したくない。
 最初に断っておこう。この北沢本谷の詰めのヤブこぎで、カメラとレコーダ−をヤブにさらわれ、画像と音声の貴重な財産を失ってしまった。この記録も自分のガタつきかけた頭脳の中から引き出したものである。細かい点には記憶違いがあるかもしれない。画像も貴重な遡行図も無い報告になる。(写真はガクさんに、コースタイムはKさんに借りた。)

アプローチ、テン場

 越後湯沢駅からタクシーに乗り大源太山の登山口まで入る。入渓点まではここから30分ほど入ったところだ。初日は、そこでテントを張り焚き火を囲む予定だ。その日は、テン場の探索が最も重要なアルバイトになる。本谷沿いの登山道を歩きながらテン場を求めたが、3人用の小さな場所さえなかなか見つからなかった。だが、ベストなスポットがあった。登山道が本谷を二度目に渡渉する場所だ。ここは、本谷への入渓点でもある。本谷を右岸に渡渉すると、上流に向けて伸びる涸れ沢がある。そこを20mほど歩いた右岸の段丘に5人用のテントが張れる。この涸れ沢は、本谷の分流である。焚き火は、涸れ沢でできる。沢幅は5mほどあるだろう。
 その日は、午後四時ごろにテン場に着いて、炎が上がったのは五時過ぎだ。辺りが暗くなってくると焚き火の炎は、不思議な力を持って来る。集う人々の心が炎のように溶けて揺らぐ。穏やかな夜だった。天には、降るほどに星が輝き、焚き火の炎を中心に世界は回っているようだった。何を話したのだろう。取り留めの無い話が日の替わるまで続いた。そこには沢の遡行への思いがいつも中心に据えられていた。ガクさんの用意してくれたすき焼きは、うーん旨い。豆腐、卵まで持参だ。ガクさんに甘えてしまったことを少し後悔した。

入渓点から三俣

 七ッ小屋裏沢の出合うところまでは、四条5m滝が目立つ滝だ。この滝は、一番左の細い流れが登れる。だが、すべるので要注意だ。シャワーを浴びたければ一番右の流れだろう。七ッ小屋裏沢出合で思いがけずブドウを収穫した。その出合を過ぎて、一つ目の階段状の5m滝は問題ない。その次かあるいはさらにその次の一見傾斜のゆるい4m滝は、簡単そうに見えるが深い釜を持っていて、取り付きが難しい。ここは、考えた末に右岸を巻いた。踏み跡を辿り、落ち口高さ少し上で草つきのトラバースが始まる。思ったよりは難しくない。すぐ踏み跡はブッシュに入り先に進むにつれて踏み跡は分散する。落ち口への下降は深く難しい。途中沢を見下ろすと先に4mCSが見えた。ここも難しいと判断してさらにトラバースした。ここは、沢から離れないようにする。この先に降り口はあるのだろうかと不安が生まれた頃、右岸から本流に入るルンゼに行き当たる。ここが下降点だ。急だがブッシュを掴んで降りることができる。最後の一歩がハングしていたのでお助け紐をだした。
 この先は、左岸の大スラブに沿ってゴルジュ状の流れが続く。3〜4mの滝が続くが小技を使って越えるのが楽しい。だがここで思いがけないハプニングが。滝でKさんの抱いた大岩が抜けそのまま釜に落ちる。誤れば大事だったが、幸運にもかすり傷で済んだ。空はV字状に大きく開け、一時、救助ヘリコプターの硬いエンジン音の幻聴が聞こえた。空はまっ蒼だった。
 沢が直角に曲ったところにある10m滝は急だ。一見、こんなところ登れるのだろうかと思う。だが、要所にガバホールドがあってホッとした。思ったより楽に登れた。その先にある右下がりの岩盤のナメ滝10mは左のクラック沿いに登った。一箇所岩が突き出して邪魔になるところは、その岩を上から越えた。この滝は、弱点を探れば危ないところは無い。

三俣から10m涸れ滝
 七ッ小屋沢、見晴台ノ沢が同時に出合う三俣は、一番左の沢が本流である。本流は20mと記載された記録が多いようだが、ここは30mある。下段はテラスまで8m、ここはガクさんが弱点を探り当て、あっけなく登攀。その上は落ち口まで20m以上の滝が懸かる。左岸のリッジがルートのようだが、丹沢生まれの万年初心者の高橋としては、滝のスケールの大きさに圧倒され、切り立ったリッジの登攀を決断できないでいた。ここは、ラバーソウルのガクさんが登攀を志願した。高橋の窮状を知ってのことか。ガクさんは、リッジに取り付いてじりじりと攻める。10mほど上の一つ目のブッシュに辿り着いてひと安心した。その後、確保してもらいKさん、高橋が続いた。その上は、踏み跡を比較的安心して登れる。踏み跡はブッシュの中を滝に平行して上がっている。落ち口高さ以上に上がった辺りで2mほどのスラブに当たる。ここは、右へ逃げる踏み跡に入らないで、そのままブッシュを掴んで強引にスラブを上がる。そこから踏み跡は落ち口方向、左へ向かうので、それに従う。沢形を見下ろす場所までそのままトラバースを続けた。沢床へはロープを下ろし傾斜のゆるい斜面を10mほど懸垂。落ち口から20mほど離れたドンぴしゃりの位置だった。滝下からここまで約1時間かかった。
 大滝の上は、滑りやすい三段12m滝を水流沿いをだましだまし越えて、三段チムニー滝12m下で昼食。チムニーは流木がひっかかり、ルートを塞いでいた。だが、ここは流木が無くても万年初心者の高橋には難しい。幸運にもここは、左岸を巻くルートがある。だがここは落ち口へ向かうルートは取れず、スラブの右端をかなり上まで登ってしまう。20mほどは登ったあたりで傾斜がゆるくなり、沢へ降りられた。ここは、チムニーの落ち口上から続くスラブのナメ滝のようだ。

 そこからは、スラブの大小のナメ滝が続く。しかし、流れは細い。傾斜のゆるい10m滝は、落ち口の一歩が難しかった。ここは左の急なヤブに逃げ、落ち口へ出た。そのすぐ先に、広く開けた10m滝が現れる。よく見ると二俣(1330m)になっている。本流は左だ。一見傾斜がゆるく見えるが実はかなりの傾斜である。ここをまともに登るには、フリクション頼りになる。

10m涸れ滝から稜線へ
 10m涸れ滝は、ルートを検討した末に右から入る涸れ滝をその左岸の笹を掴んで急登し、中盤のバンドを右岸に渡り本流に戻る作戦を立てた。確かにバンドへは立てた。だが、本流への急斜面、足元すべる笹薮へ突っ込む勇気が持てず、そのまま右俣のスラブを急登した。テラスを選んで左の本流へ戻ろうという考えだ。この落ち口もなかなか慎重さを要求される。やっとのことでガクさんが先行してKさんと高橋はロープを下ろしてもらう。ここは、登り始めてから20mはある。その先は、高橋が30mロープをいっぱいに伸ばしたので、右俣は50mのスラブ涸れ滝ということになる。だが、その先は行けども行けども本流へ戻れそうな緩い傾斜が現れず、次第に追い上げられて行った。ついにはあきらめて、その支沢を詰めることにした。沢形の消えるところからヤブに突入して40分。悪戦苦闘、腕脚疲労困憊で大源太山南稜、標高1500mに出た。苦しいヤブは小柄なKさんが終始果敢に攻めてくれた。暗闇の藪を抜けてきた我々にとって、南東に広がる谷川連峰の山々の景観は格別のものであった。七ッ小屋山へ抜ける稜線が、ジオラマのような立体模型に見えた。高い山々の頂の近くはすでにみごとに色付いている。我々三人の頬を、乾いた秋風が過ぎていった。さあ、ピラミダルな大源太山を越えて下山だ。カメラとレコーダーをヤブに掠め取られた高橋は、やや意気消沈だが充実のハートを暖めていた。


 
<全ての写真は、ガクさんの提供>

 30m大滝の前で作戦タイム 「俺には無理そうだよ」 写真で見るよりはるかに傾斜がある。


 七ッ小屋沢の30m滝 本流大滝落ち口付近から


 大源太山頂上 疲れ果てて目をつぶっている。


コースタイム
テン場・入渓点7:50−七ッ小屋裏沢出合8:25〜35−三俣10:30〜40−30m大滝上11:35−稜線(1500m)15:36〜16:00−大源太山16:15〜16:20−テン場・入渓点17:50



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 入渓点付近のテン場での焚き火 炎の向こうに高橋が