奥秩父 笛吹川東沢釜ノ沢東俣

2009年8月22〜23日 晴れ
ウェルネス・クライマーズ
山崎さん、大橋さん、高橋

 ガマズミ  標高1750m付近

遡行図
プロローグ
 念願の東沢釜ノ沢へ行くことができた。釜ノ沢といえばガイドブックのトップページを飾るほどの人気の沢だ。魚留ノ滝と千畳のナメそして両門の滝を写真で見るにつけ、花崗岩のスラブの造りだす特有の渓谷美を、いつの日かこの目で見たいと思っていた。もちろん、田部重治らの遡行により、そこが遊びとしての「沢登り」の発祥の地と考えられていることも関係している。その憧れの沢が「1級上」の遡行グレードで歩けるのだから、万年初心者の高橋の計画に上ってこなかったのが不思議なぐらいである。
 今回は、鹿沼市のウェルネス・クライマーズ(略称:ウェルクラ)の山崎さん、大橋さんの賛同を得て実現できた。ありがたいことである。ウェルクラの山崎さんは、某渓友塾で知り合った沢仲間で、毎シーズン月一回の遡行に付き合って頂いている。大橋さん共々、同年代の気の置けない貴重な友人である。
 沢登り同好会・さわねにも所属する高橋は、さわねの遡行行事が、月二回あるので月に三回は沢を歩いていることになる。にもかかわらず釜ノ沢の遡行が実現しなかったのは、そこが初級者向きの沢だからである。沢登りの中級者が多いさわねでは、もうすでに釜ノ沢を卒業している人が大半なのだ。というわけで、今回の遡行はウェルクラの山行として実現した。

釜ノ沢の印象と遡行人口
 さて、その釜ノ沢だが、遡行して感じたことを大雑把に記しておこう。
 まず、遡行の人口が多いと言うのが第一の印象だ。単独で歩いていた頃やさわねの行事で沢に入ったときに、他のパーティーに遭遇することは、まず稀である。沢に入ったら人間の姿を見かけないというのがまあまあ普通だから、それに比べると釜ノ沢は異常な人気(にんき、ひとけ)である。
 塩山駅で登山家の山田哲哉さんの4人グループと会い、ウェルクラの山崎さんと大橋さんがことばを交わした。(残念ながら高橋は山田哲哉さんを知らなかった。)哲哉さん達は、釜ノ沢の西俣を歩くとのことだった。この4名を筆頭に、当日の釜ノ沢での遭遇数は8パーティー、14名で、半分は単独行であった。この現象をなんと評したら良いか分からない。なぜなら自分たちもその渦中にある者だからである。遭遇した大半が今流行の中高年ではなく、20代、30代の若い人たちであったことが救いだ。
 人の数に比例するのだろう。焚き火跡の数も半端ではない、いちいち数えていなかったが、遡行途中に見た焚き火の跡は、20〜30箇所ぐらいはあっただろう。中に燃えにくいアルミ箔や缶の見られるものがある。焚き火の跡始末については、さわねの中で小さな議論になることがある。焚き火跡をあえて残すべきか、完全に跡形なく始末すべきか。釜ノ沢の現状を見れば、後者を取るべきだということが身をもって分かる。跡形なく始末するさわねの方法は、徹底している。そこに人間が現れたという痕跡を一切残さない(というのが理想だ)。灰の中の金属の燃えカスも箸で拾う。正攻法であると改めて思う。

釜ノ沢の印象と渓の大きさ
 釜ノ沢の印象に戻ろう。山が大きいというのが第二の印象である。東沢を辿るアプローチが駐車場から5時間かかり、釜ノ沢出合からの1000mの標高差をほぼ6時間掛けて登った。詰めの斜度もかなりのものだ。全て60代のウェルクラの高年登山家にとっては十分すぎる厳しさだった。初級の沢という謳い文句に騙されてはいけない。沢はハイキングとは違うのだ。甲武信ヶ岳に真直ぐに突き上げる名渓釜ノ沢は深い。
 魚留ノ滝、千畳のナメ、両門の滝も確かに美しい。しかし、それは釜ノ沢の一部に過ぎない。
 東沢の長いアプローチは、まず沢を巻く登山道になる。人々が歩くことによって踏み跡が確かな登山道となり、遡行者を安全に導いてくれる。山ノ神から東沢へ降り、ときどきに現れるスラブの大滝、乙女ノ沢、東のナメ沢、西のナメ沢を見ながら黙々とゴーロを歩く。
 釜ノ沢東俣の両門の滝の上の長いゴーロも特筆すべきだろう。ゴーロの左岸に生えるコメツガの樹林帯は、何ともいえない釜ノ沢の雰囲気を醸し出している。ツガの葉が落ちて土になった傾斜の緩い平坦地に、細い水の流れを所々につくり、それに並行して踏み跡が伸びている。草地が点在し、古木には緑の苔が生している。どこでもテントを張ることができる。だが、この樹林帯もすぐに倒木に悩まされる。一昨年秋の台風によるものだろう。釜ノ沢は全般に倒木が多く、その景観が損なわれているのが残念だった。その倒木の通過に余分なエネルギーを消耗してしまうのも、高年登山者の悲しさである。
 ナメやナメ滝の続く標高1900mぐらいからの登りは、スケールの大きな遡行となる。甲武信小屋の直下にあるポンプ小屋までの標高差400mが、ひとつの滝といっても良い流れを形成している。この流れの遡行も体力が要求される。体力づくりの嫌いな高橋は、太腿やふくらはぎの命令によって頻繁に立ち止まらなければならなかった。太腿とふくらはぎの筋肉系の現実と理想論を語る頭脳系の闘争によって、この釜ノ沢の詰めは、結構ギクシャクした。が、筋肉系と頭脳系の打算によって、頻繁に小休止をしつつ甲武信小屋までの遡行を成功させたのだった。
 山崎さんと大橋さんに百名山・甲武信ヶ岳2475mの頂上制覇をどうするか聞いたところ、あっさり否定されたことも清々しかった。スケールの大きな釜ノ沢が目的なんだ。そんなちっぽけな三角点、甲武信ヶ岳なんかどうでも良い。そう言っているように聞こえた。

難しい滝
 釜ノ沢東俣には難しい滝はない。滝は登れなくても明らかな踏み跡があり、容易に高巻きできる。ただし、磨かれたスラブが多いのでスリップには注意しなければならない。
 魚留ノ滝は細かいホールド、スタンスをよく見て、3mほど上にあるブッシュを目指す。いくつかルートがあるが、よく選んでいけば難しくない。千畳のナメの上の6m滝は傾斜はゆるいが滑る。滝左の小さな段差をホールドにした。上部は手も付いてフリクションをとる。その上の5m、二段6mは、直登は難しいと考えて、滝左の木の根を掴んで上がった。踏み跡がある。
 曲り滝6mの直登は難しい。右の泥壁を踏み跡に沿って上がり、明らかな踏み跡をトラバースした。踏み跡を外さなければ難しいところはない。ヤゲンの滝15mは、左岸に踏み跡があり落ち口へ出られる。その上の10m滝は、滝左端の岩を登ったが3級程度。多段22m+10m滝は、やさしいルートを選択すれば問題になるところはない。木賊(トクサ)沢出合手前の10m滝は左岸の踏み跡を登り中盤から10m滝に取り付き滝右端の岩を登った。ホールドはある。ここも3級程度だ。木賊沢出合上の30mナメ滝は登れないので、左岸の巻き道を辿った。

遡行図のこと
 最後に記しておきたいことがある。それは、ガイドブックの遡行図の不正確さである。遡行図とはもともとメモに過ぎないのであるから、そんなに正確な訳がないという考えもある。2.5万図でルートを確認するのが鉄則だろう。だが、初級の沢の場合には、それを頼りに登る人がいる。不正確で良い訳ではないのだ。
 特に問題なのは、いくつかのガイドブックが同じ箇所を同じように正確性を欠いていることだ。これは、遡行図を作成するときに、自分の見聞によらないところを旧い遡行図を参照している結果だと思われる。反省すべき点である。という訳でもないと思うが、甲武信小屋を後にして下山を開始したあと、途中で甲武信ヶ岳の南面を見ると、とても登れそうにない急峻なガレ地を詰めている者が二人いるのを遠望できた。おそらく、水師沢出合と木賊(トクサ)沢出合の間に右岸から入る支流に迷って入ったのだろう。現存する多くの遡行図では、その支流の沢の記載がないのが事実である。
 高橋は、遡行後に遡行図を描くことによって、遡行の終了とすることを実践してきたが、高名な釜ノ沢の遡行図はいまさら作成する必要もないだろうと思っていた。だが、あまりにテキトーな遡行図が存在する現状を見て、釜ノ沢東俣のより正確な遡行図を提供すべきと思った。少なくても現存する遡行図に較べてより正確であることには自信を持っている。と、自慢げに文章を閉じることに。

東沢の巻き道
 おまけに、もうひとつ。鶏冠谷付近から山ノ神まで至る踏み跡への入り方は、旧いガイドブックでは鶏冠谷出合の右岸から鶏冠山へ至る登山道を少し登ってから左へ入り、東沢沿いにトラバースするように書かれている。だが、ここは鶏冠山への登山道へ入ってはいけない。高橋らはここでしくじった。鶏冠谷の登山道へ入ってからそれらしい踏み跡を左へ入り、東沢の左岸をトラバースし始めるとすぐ行き詰った。かつての踏み跡が崩れ、現在は使われていないらしい。荒れた旧い踏み跡から東沢へ降りるのに、ロープを出して30分ほどかかった。かなりの時間と体力を消耗してしまった。ここは、鶏冠谷出合を過ぎ、そのまま東沢を遡って歩く。右手を見ながら歩くと鶏冠谷出合から100〜200mぐらい先の左岸に踏み跡の入り口がある。高橋らが歩いたときには、目立つピンクのリボンが付いていた。



8月22日 東沢遡行



東沢沿いの左岸踏み跡から
ほら貝のゴルジュ入り口 吹いてくる風が氷のように冷たい。

乙女ノ沢が出合う。スラブの立派な滝だが水は少ない。 大きな東のナメ沢が見える。一段目は傾斜が緩いので登れる


スラブを歩く
西のナメ沢 この上にも大きなナメ滝がある

釜に注ぐ水は碧い。   
 
魚留ノ滝12m 間違えて、東沢を信州谷と金山沢の二俣まで歩いてしまい、その手前の支流まで戻る。そこが釜ノ沢だった。本流から魚留ノ滝が見えるものとばかり思い込んでいたのが間違い。

 
少し早いが焚き木を集め、かまどを設える。ベストポジションであるため、焚き木は集まり難かったが何とか調達した。
魚留ノ滝12m 空は快晴。今日はこの滝が見える前でタープを広げる。  



8月23日釜ノ沢東俣遡行

魚留ノ滝12m 滝左のブッシュをめがけてスタンスを選ぶ。細かいホールド、スタンスを探す。 魚留ノ滝上 勢い良く水が滑っていく。滝は磨かれていて滑る。


6×10mナメ滝 魚留ノ滝の上で沢は右へ直角に曲がる。乾いた岩を慎重に上がる。 千畳のナメ 

千畳のナメは、6mナメ滝まで続くがあっけない。 6mナメ滝の前で

滑る6mナメ滝で思わぬ苦戦 曲がり滝6m 直登できそうも無いので滝手前のルンゼを上がり踏み跡をトラバースした。難しくない。


両門の滝右左とも20m 右が東俣、左が西俣
両門の滝20m 東俣 ここは右の踏み跡を入り滝の中盤から滝の端に沿って岩を登る。難しくないが、スリップに注意。もう少し大きく巻く道もあるようだが、詳細不明。


両門の滝東俣20m上部 右端を登った。ホールドはある。
両門の滝20m 西俣

ヤゲンの滝15m 右の支尾根に入り落ち口まで巻く。右からは迷い沢が入る。 10m滝 ヤゲンの滝上を右に曲がるとある立派な滝だ。。ここは、左の岩を登るルートにに踏み跡がある。

同10m滝上部 スリップに注意
m滝 ながーいゴーロを歩いた後現れる。この滝の下に右から水のある沢が出合う。遠方に多段の滝32mが見える。

多段の滝32m(3、3、4、6、6、10m)階段状なので問題なく登れる。最上段10m滝は、スリップに注意。 多段の滝32m最上段10m 登れるが滑りやすい。右の乾いた岩を登った方が安全。

5m滝 2000m付近二俣すぐ手前。二俣は右へ入る。 急峻な流れが30mほど続く。 標高2000〜2100mの間


急峻な流れ30mを登る。
木賊沢出合手前の10m滝 右の支尾根を小さく巻いて10m滝の中盤から右の岩を登る。ここを登ると木賊沢出合。


木賊(トクサ)沢(右)出合 ここは、木賊沢のナメを上がってから木賊沢を左の本流側に渡り、本流左岸の巻き道を、本流のナメ滝30mを見ながら登る。
本流ナメ滝30m 左岸の巻き道を登る

甲武信小屋で ひと休みして下る



コースタイム
8月22日 駐車場10:07−鶏冠谷出合10:52−ほら貝のゴルジュ入り口−山ノ神12:54−釜ノ沢出合14:55(泊)  
8月23日 釜ノ沢出合6:47−6m曲り滝7:29−両門ノ滝8:06−多段32m滝10:29−水師沢出合10:39−支沢出合10:58−木賊沢出合11:44−ポンプ小屋12:19−甲武信小屋12:47〜13:00−分岐13:33−分岐(徳ちゃん新道へ)14:59−駐車場16:40




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