足尾 庚申川笹ミキ沢

2009年6月13〜14日

下野さん、クマチさん、NKさん、園田さん、高橋

遡行図

岩場に咲くユキワリソウ 標高1630m付近

 沢のテン場に日が暮れると、暗くなるのは早い。焚き火を囲むメンバーの背後が、いつの間にか深い闇に変わっていた。炎に照らされた側だけが、小さな世界となって闇の中に浮かぶ。水の音は聞こえるはずだが、炎を見つめている瞳には、意味不明の暗号のようだった。深い闇で炎の揺らぎを凝視していると、原始の感覚が呼び覚まされるのが分かる。炎の中に、暗い闇の中に、自分が溶けていく。浄化されていくような、そんな感覚。このようなおそらく共有の心理を、どのように記述したら良いのだろうか。
 突然、雷鳴があった。大粒の雨となり、すぐに雹に変わる。鮮やかな雷光が、沢の流れを、樹々の影を一瞬に現出させ、次の瞬間にまた闇へと消え落とす。空気の裂ける音を何度も聞いた。雹粒がタープを激しく打ち、踊りながら転がり落ちる。しばらくは、メンバーの声も出ない。天候のあまりの変り様に、怖れを知らされる。これから起こる事態を真剣に推し量ろうとする。だが、じきに雷鳴は我々を嘲笑うように遠ざかって行った。次の朝、木々の葉という葉が地面に叩きつけられているのを見る。雹にやられたのだ。あの時、小鳥たちはどうだったのだろうか、メンバーの一人が言った。小鳥はあの恐ろしい雹をどのように避けるのだろうか。

 出合の橋の表示によれば、笹ミキ沢は笹美木沢と書くらしい。洒落た名前だ。さわねの6月初めの行事、下野さん世話人の庚申川支流・笹ミキ沢の遡行に参加した。同沢のひとつ北にある仁田元沢(にたもとさわ)を下降する予定だった。しかし、一日目の夕方に続き、二日目の早朝も激しい雷雨に会い、戦意喪失して下りは庚申山の登山道を「一の鳥居」へ降りた。
 笹ミキ沢は、15m以上の大きな滝が二箇所、5〜8mの滝が六箇所ほどある。どれも一様でなく、それぞれに趣のある滝を懸けていて退屈することがない。水量は多いわけではないが、美しい谷を形成するに十分な量を持っている。二箇所の大滝を直登するのは難しいが、巻き道を上手に探ることができればそう時間をかけずに越えることができる。5〜8mの滝は登れる滝が多いので楽しい。小さいながらもゴルジュが在り、釜のある3m滝の通過にも頭を使う。だが、1370m地点で沢が涸れ、その上には滝らしい滝が無いので、後半はやや退屈なゴーロ歩きになる。

 当日は、入渓前に、笹ミキ沢を釣り上がるという3人の釣り人と会話を交わした。我々より30分ほど先に立ち、水の無くなる中盤で、左の尾根に上がって帰路に着くと言う。我々は、5人で沢を遡行すると話したら、いやな顔もせず、前半を飛ばして行くとのことだった。沢が直角に曲がる箇所で、支流に二段45m滝を懸ける1230m地点で、彼氏たちに追いついた時は、すでに釣りを止めていた。ありがたく先行させてもらった。その上、釣り上げた二匹の岩魚を貰った。どこの釣り人かは聞かずにしまったが、岩魚はその晩、てんぷらのご馳走になって、私たちの胃袋へ納まったのだった。釣ってくれた人、そして調理してくれたNKさん、ありがとう。

 遡行を開始して最初の難関は、何と2mほどの釜のある小さな滝だ。両岸が切り立ち、滝へ取り付くのが難しい。ここは、左の岩をやや高めにトラバースして巻いた。降り口には、倒木が立て掛けられてステップになっている。二段25m滝は、そのすぐ手前に6mの滝を従えている。その上に15mほどの下段の滝、更にその上に上段10mの滝がある。上段の滝は、下からは見えない。二段25m滝は、右岸の土壁を30〜40mほど上がり、トラバースして上段の滝の上に出た。高度差が有るので慎重な行動が必要だが、きわどいところは無い。途中、下段落ち口の高さにもトラバースの踏み跡があるが、ここは、上段10mの下に出るので突破するのは難しかった。この上のゴルジュには難しい滝や釜は無いが、釜のある3m滝の左岸から突き出た岩を乗り越すのに苦労した。高橋と園田さんは、釜に濡れ、細かいホールドを拾って越えた。水に濡れたくない後の三人は、左岸の岩を少し登ってロープで下降した。

 ゴルジュを抜けると、弧を描いて落ちる見事な15m滝がある。滝を見ながら昼食を採っていると大粒の雨が降り出し、本降りになった。この滝は、右岸の第二ルンゼ滝寄りのリッジを登り、途中から右へトラバースした。明確な踏み跡がある。第一ルンゼもそのままトラバースを続け、踏み跡を辿るとロープ無しで沢へ降りることができた。巻きの時間は15分ほどで、思ったより楽に巻くことができた。この、15m滝上から5分ほど歩くと、比較的傾斜の緩い6m滝になる。ここは、水流沿いを登りたいが、水に濡れるのを避けて高橋が右のカンテを空荷で登り、後続を確保した。その後15分歩くと、5mの滝になる。ここは右の窪を登れる。その後4m滝を過ぎると、1200m地点で右から沢が入る。水は少ない。この沢の前に右から出合うはずの沢(1160m地点)を見逃していたようだ。気が付かなかった。さらに4m滝を越すと沢は直角に向きを変える。

 正面の支流から幅の狭い二段45mが入り、本流は左へ直角に向きを変える。この先で、簡単な7m滝を越えると、すぐ釜のある8m滝になる。ここは、水流右を登れそうだが、落ち口少し下で勇気がいる。重い荷物のため、直登をやめて巻くことに。滝を少し戻った右岸の土壁を登り、落ち口高さでトラバースに入る。明確な踏み跡がある。巻きの途中で、上段8mトイ状滝が見える。下野さんが絶妙な巻きを選択、ベストなルートだった。8mトイ状滝の上は、ナメの小滝が続く雰囲気十分な笹ミキ沢となる。ここが、笹ミキ沢のハイライトだろう。心洗われる思いがする。この先の6m滝で園田さんが竿を出したが、奇妙なほど当りがない。早々に竿を納めて先を急ぐ。1310m、1320m地点で右から続けて二つの沢を入れ、その先1360m付近でタープを張った。ここで、雷雨に会ったのは先に述べた通りだ。怖かった。

 次の日6月14日は、めずらしく早めにタープを畳んで、6時40分には出発した。テン場の少し上、1370m付近で左岸から水量豊富な沢が入る。この辺りには、水線の入る沢が無いはずなので、湧水の可能性もある。この先で、7時ごろに激しい雷雨に打たれ戦意喪失。仁田元沢の下降を断念して、右岸にある庚申山の登山道(水ノ面沢)へ逃げた。標高1500m付近からは、右岸にあるはずの登山道へ上がる地形を探りながら歩いた。下がナメで上部がスラブ4mの滝を越え、そして5m涸滝へ差し掛かった。5m涸滝は下野さんの足を掛けたとたん岩がゴーッと崩れ、転倒した。無事だったのが何より。岩混じりの右岸への登りはきつそうだったので、先のスラブ4m滝の下へ戻ることにした。スラブ4m滝下から右岸の笹原の支尾根に上った。支尾根は結構急だが、丈の短い笹を掴んで登った。傾斜が緩くなる辺りで左の支尾根をひとつ越えてさらに上がると登山道に出た。1550m近辺だろう。巻き始めてから15分ほどだ。この登山道へ上がる位置は、笹ミキ沢本流の1500m地点、右岸の等高線が疎な箇所を選んで登れば、より楽になるだろう。

 登山道へ出た後、空荷で登山道を登った。コウシンソウとユキワリソウを鑑賞してから登山道を下り、「一の鳥居」を経て林道を「かじか荘」へ下った。お昼ごろ、かじか荘の温泉に入り、園田さんの車で帰路に着いた。


ガマズミの花が咲いていた。霜の降る頃には、酸っぱい真っ赤な実が熟す。 左前方に二段25mの下段の滝が小さく見える。水量は豊富だ。



ゴルジュ内の釜のある3m滝 手前左岸の岩を乗り越すのに少し苦労した。
二段25mの下段滝、前衛に6mの滝。 ここは左を巻いた。


15m滝の上にある6m滝 空荷で右のカンテを登った。ホールドが細かいところがある。
15m滝 弧を描いて水が落ちる。ここは、左を巻いた。

5m 右端の窪を登った 今日は、全部で5人の参加。さわねの仲間です。

8m滝 なかなかきれいな滝だ。ホールド豊富

8m滝 この陰にトイ状8m滝がある。ここは、小さく巻いた。 滝を少し戻り、土壁を落ち口の高さまで上がりトラバースした。

トイ状8m滝 下の8m滝を巻いているときに見える。 トイ状8m滝の上は、ナメと小滝が続く。笹ミキ沢のハイライト。

笹ミキ沢に見とれるひと。何を考えているのか。
傾斜の緩い6m滝 簡単に登れる。園田さんが竿を出したが当り無し。

夕方6時半ごろ雷と雹の襲撃。 タープの下に溜まった雹粒。


翌日6月14日


1530m付近の涸滝5m 岩が脆く、メンバーが足を掛けると崩落した。ケガ無し。
岩場に咲くユキワリソウ

目立たないコウシンソウ 1630mの岩場に咲く なだらかな尾根を下って下山を開始する。

前日の雹によって落ちた木の葉の若葉たち


コースタイム
6月13日 かじか荘上ゲート10:00−笹美木橋10:40〜10:57−二段25m滝11:34−ゴルジュ11:53−15m滝12:10−6m滝12:51〜13:30−左岸に二段45mが出合う14:20−8m、トイ状8m14:37−テン場15:34   6月14日 テン場6:40−左岸から沢が出合う6:44−左岸から沢が出合う(1460m)7:27−スラブ4m7:47−涸滝5m(引き返す)8:00−スラブ4m滝下8:20−登山道8:33−岩場(1630m)8:55−一の鳥居10:40−笹美木橋10:55−11:40かじか荘



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